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into nightmare again

 すぐにサツキは妙な引っ掛かりの正体に気がいた。

「ねぇ、香さん。

あなた、誰か来たのが分かったと言ったけど、どうして分かったの?」

「音よ。玄関の開く音」

「玄関の音……そう」

「それで誰かが来たのが分かったから大声で助けを呼んだ。

そう言わなかった、かしら?」

「ええ、確かに言ったわ」

 サツキはピアノを引き続ける香の後ろ姿を見守りながら答える。香はそんなサツキの視線を知ってか知らずかピアノを引き続けていた。

 『月光』かしら、とサツキは思った。

「ピアノなんて弾いたら、あなたの言う『悪魔』を引寄せるんじゃないの?」

「言ったでしょ。防音だから音は外に漏れないし、外からの音も聞こえないって」

「なら、香の耳は凄く良かったのね」

 サツキの言葉に香はピアノを弾くのをやめた。サツキは言葉を続ける。

「そして、声もとても大きいのね。

私、あの時、あなたの声をはっきり聞いた。

すぐに2階に上がった時、この部屋のドアは閉まっていた。ドアを閉めたらこの部屋の音はほとんど漏れないはずでしょ?

なんで私は香さんの助ける声を聞くことができたかしら?

私が来たのが音で分かったとか、助けを求めて大声で叫んだって、全部嘘でしょう」

 黙って聞いていた香の肩ががっくりと項垂れ、大きなため息が聞こえた。

「ようやく気づいた。先生っーのは案外馬鹿だな。

まあ、いいや。なら次の問題だ」

 後ろ向きのまま香は言う。さっきまでとはまるで別人の男口調だ。

「嘘だとしたら、なんでそんなことをしたと思う?」

「何故って」

 猛烈な違和感にサツキは困惑する。

「ヒント。赤ずきんちゃん」

「赤ずきん?」

 サツキはますます混乱そた。香は何が言いたいのだろう。答えられないでいると、香は肩を震わせて笑いだす。

「駄目か。答えられないかぁ。はぁ、残念なこと。

じゃあ、教えて上げる。

答えは……」

 香はそこで言葉をきる。

 1秒……

 2秒……

 香は無言のままだった。サツキが我慢できなくなり口を開こうとした、その瞬間。

「答えは、お前をビビらせて魂ヲ喰うタメだ!」

 ぐるんと香の頚が180度回転し、野太い男の声で叫んだ。

「ヒャハ、ヒャハヒャハハハハ。

コンなノ映画デ観た事アンだろ」

香はサツキを睨み付けたまま、背中から倒れこみブリッジの格好になる。そして、そのままノシノシとベットに座るサツキに向かって突進してきた。

「ウハハ、ウハハ、ウハハハハハ」

 高笑いを上げながら迫ってくる香を見て、サツキはパニックに陥る。

「いや、いや、いや!」

 悲鳴を上げ、慌ててベットの上に上がる。そのベットにブリッジをした異形の香がはい上ろうとしてくる。

「来ないで!」

 ベットの端に手をかける香をサツキは懸命に蹴った。

「ヤメロ、性悪女!痛イぢゃネーカ」

 香は男と女が混ざったような声で悪態をつく。と、するりと香はベットの下に潜り込んだ。

「えっ?」

 一瞬、サツキはあっけにとられた。

 次の瞬間


ドガッ


 ベットが大きく跳ねる。


ドガッ ガタン ドン ドン


 何度も何度もベットが跳ねる。香が下からベットを突き上げているのだ。

「うっ!?」

 揺れるベットの上でサツキはバランスを崩して倒れた。幸いベットの上なので大したダメージはなかったが香がその隙にベットに這い上がってきた。

「はぁああ」

 白目を剥き、開いた口には肉食獣の様な犬歯がいびつに並んでいた。だらだらと緑色の粘液が滴り落ちていた。さっきまでの香の面影は微塵もない。

 迫りくる香にサツキはとっさに掴んだものを押し付ける。枕だった。

 サツキは急いで起き上がるとシーツを巻き上げて香を包み込んだ。ベットからシーツで簀巻(すま)きにした香を蹴り落とすと、そのまま出口に走る。

「ギシャー」

 背後でとても人が出せるとは思えない声が上がった。震える手でドアのサムターンを回す。背後からガリガリと床を削る様な音が迫る。サツキはドアを開け、外に出ると素早く閉める。


ドン!


 間一髪。香を閉め出せた。背中でドアを押さえたまま周囲を確認する。廊下も灯りが消えていて良くわからない。

 なんにしてもあまり選択肢は多くない。このまま外に逃げるしかない。サツキは心を決める。

 一度、深呼吸をすると階段に向かって走り出す。転がるように階段をかけ下りると玄関に向かう。幸い慶子の姿はなかった。

 そのまま玄関のドアを開け、外に出る。

 順調だ。後はこのまま鉄の門まで走れば良い。そう、思った瞬間


ガシャーン


 ガラスの割れる音とともに目も前に黒い大きなものが落ちてきた。グシャリと果物が地面に叩きつけられ潰れたような音がすると同時に地面が赤黒い液体に濡れる。

「ううう、ううう」

 低い唸り声とともに黒い塊がゆらゆらと立ち上がる。

 香だった。

 2階の自室から飛び降りてきたのだ。白目を剥き、顔の半分が潰れ、血にまみれていた。

 両手を前に伸ばし、ヨロヨロとサツキに向かって歩いてくる。

「うわあああ」

「きゃー」

 突然、香が自分に向かって走り出したのでサツキは反射的に玄関のドアを閉める。しかし、香の腕が挟まりドアを閉めることができない。

 ドアの隙間から白目を剥き、だらだらとよだれを垂らしながらドアをこじ開けようとする香。逆にサツキは開けさせまいと全体重をかけ、踏ん張る。

(だ、駄目よ。いつまでとこんなことできない。ど、どうすれば……)

 必死に踏ん張るサツキ。ドアチェーンが目に飛び込んできた。

(そ、そうか。チェーンを使えば)

 片手でドアを押さえながらチェーンを引っかけようと悪戦苦闘するサツキ。

 何度か失敗しながらようやくチェーンをかけることに成功する。同時にチェーンをかけた手を捕まれた。

「いや!放して」

 渾身の力で香の手を引き剥がす。勢い余って玄関の土間に尻餅をつく。


ガン

ガツン

ガチャ ガチャ


 ゾンビのような香がドアを開けようと何度もドアを引くがチェーンに阻まれ開けることができない。

「ハァ、ハァ、ハァ」

 サツキは玄関先にしゃがみこ、荒い息をついた。

 外に逃げることはできないが、とにかく助かった。と、サツキは思った。

(い、一体なんなの?)

 混乱する頭でサツキは考える。

(ほ、本当に悪魔なの?)

 ドアの隙間から手を伸ばす香を見て思う。

 土気色の肌。

 半分潰れた血みどろの顔。

 とても常人、いや、生きている人には見えない。悪魔にとり憑かれた、と言っても今なら信じることができた。

(で、でも、さっきまでは母親が悪魔にとり憑かれたといっていたじゃない。

なのに……なぜ?)

 考えられるのは、香も既に悪魔にとり憑かれていて私を騙そうとした、ということだろうか。理由はなんだろうと考えたサツキはひとつの結論に達した。

(そう、さっき『香』がいっていたじゃない。

私の魂を喰らうと……)

 悪魔は私の魂を狙っているだ。魂を喰らわれたら自分も目の前の香のようになってしまうのか。そう思うとサツキは心底ゾッとした。

 その時、ミシリと微かな音が背後でした。

2018/07/18 初稿

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