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It has done already .

「はぁ、はぁ、はぁ」

 自室のドアに鍵をかけ、私は頭を抱える。

(一体、なんなのあれは)

 体の震えが止まらない。これからどうすればいいのか……

 部屋の電気をつけようとしたがつかなかった。どうも家の電源を落とされたようだ。

 こうなると逃げたのは良いが袋のネズミ状態だ。今更ながら自分の部屋に戻ってきたことを後悔した。あのまま家の外へ逃げた方が良かったかもしれない。

「そうだ、お父さんを呼ぼう」

 私は机に置いてある携帯を手に取った。

「えっ?なにこれ」

 携帯は圏外になっていた。

「家で携帯が圏外になるなんてことは一度もなかったのに」

 私は途方にくれる。部屋の中をうろうろして見たが圏外表示は変わらない。


キィーーー


 なにかが軋む音に私は飛び上がる。

 キャロキョロと暗い部屋の中を視線を動かす。なにも動くものはなかった。


キィーー


 また、軋む音がした。

 同時に頬を風が撫でる。窓が開いていた。レースのカーテンが微かに風にたなびいている。

 私は窓のところまで行き、外を確認した。特になにもなかった。庭の木がザワザワと不気味に揺れていた。私は背筋に寒気を覚え、慌てて窓に鍵をかけ、カーテンをしっかりと閉じた。

「これからどうしよう」

 私は独り、呟く。携帯は繋がらないから助けは期待できない。かといって外に出れば、またあの人形と『お母さん』に襲われる可能性が高い。幸い、あいつらは追いかけてはこないようだ。今のところは、だけど。

「籠城しかないかな」

 このまま朝まで様子を見て、お父さんが帰ってくるまで待つのが最善のように思った。

「あ、お父さんにメールを打っておこう。

回線が復活したら自動で届くかも」

 私はベットに座り、携帯でメールを打ち始めた。


ポタリ


「うん?」

 携帯を打っていると首筋に何か冷たいものが落ちてきた。首の裏に手を回すと指にネチャネチャしたものが触れた。指を見ると緑色の粘液が付着している。一体何かと首を傾げる。


ポタリ


 また、落ちてきた。

 私は天井を見上げる。

 天井には女の子人形がいた。ベッタリと天井に張り付いて、じっと私を見ていた。

 女の子人形がにんまりと笑った。口から腐汁を思わす緑色の粘液がポタリと落ち、私の頬を濡らす。

(ああ、そうか)

 私は立て続けの恐怖で擦り切れた神経でぼんやりと納得する。あいつらは追いかけてこないのではない。その必要がなかったのだ。

「ウキャキャ」

 私が悲鳴を上げる前に、女の子人形が私の顔面に落ちてきた。

「ひっ、い、いや!」

 女の子人形は見た目よら遥かに重かった。私はベットに押し倒され、女の子人形に両腕をガッチリ固定される。万力のような力でどんなにもがこうとピクリとも動かない。

「逃ガサナイ

アンタは 私ノ モノ

オトナシク 魂ヲ ヨコセ」

 キンキンした声で女の子人形は言う。

「嫌よ、離しなさい!」

 私の言葉に、女の子人形は大声で笑う。

 まるでゴミを見るような目で私を見る女の子人形はおもむろに口を開ける。

 ゴボゴボゴボと水が溢れる様な音がすると人形の口から緑色の粘液が流れ出てきた。まるで蛇口の壊れた水道の水の様に粘液が私の顔にこぼれ落ちる。たちまち下水口から漂う生ゴミの腐ったような生臭い臭いが部屋中に充満する。私は猛烈な吐き気を催した。思わず口を開ける。と、口に汚水が流れ込んでくる。

「グェ、ゲホ カハァア―――」

 むせかえり、咳き込むところにも容赦なく粘液が注ぎ込まれる。息もできず、目も開けられない。あっという間に私の意識は遠くなった。


□□□

「それで、気づいたらベットにくくりつけられていたと?」

 サツキの質問に香は無言で頷く。

「誰かが来たのが分かったから、必死で助けを呼んだの。そうしたら先生が現れたの」

「成る程」

 サツキは頷くながら香の話をどう処理すれば良いのか悩むんだ。香の話は余りに現実離れしている。これを額面通りに受けとるのはとんでもないことだ。だが、香がベットに拘束されていたのは紛れもない事実だった。

(問題は拘束されていた理由よね)

 と、サツキは心の中で呟く。

(例え、どんな理由があるにしても親が子供を拘束する事態は異常だ。然るべきところに保護するべきね)

 それがサツキの出した答えだった。

「とにかく、ここを脱出しましょう」

 サツキの言葉に香はビックリしたような顔をした。

「脱出って!どうやって脱出するつもり?」

「どうって、普通に歩いて出ていくつもりよ」

「呆れた。私の話を聞いていた?

あいつらが黙って通すわけないでしょう……

つまり、私の話を信じてないってことね。

下にいるのがただの人間で、話せば分かる。なんて呑気に考えているのね」

 香はそう言うとベットから立ち上がった。サツキは慌ててとりなそうとする。

「信じてないわけではないけれど、先生としては、お母様の言い分も聞かないと公平でないと思うのよ」

「それが信じてないってこと。つまり、先生は『お母さん』をまだ人間だと思っているってことでしょ?

それとも、悪魔相手に交渉するつもりなの?

忠告してあげる。

悪魔と交渉したって騙されるだけよ」

 香は呆れた、とばかりにため息をつき、グランドピアノの前に座った。

 後れ馳せながら、サツキは部屋にピアノが設置されているのに気がついた。さすがはお金持ちの家といったところかと感心する。

「存外、間抜けだ」

 そんな言葉が香から聞こえた気がした。問いただそうとしたが、香が突然ピアノを弾きはじめた。

「か、香さん、なんでピアノなんて」

「気晴らしよ。

この部屋は防音だからピアノを弾いたって外に音は漏れないのよ」

 ピアノを弾きながら香は言った。確かにさっき慶子がドアを叩きながら叫んでいたがほとんど聞こえなかった。ピアノの音もきっと外にはほとんど聞こえないのだろう。

(ん?)

 なにかが引っ掛かった。





2018/07/17 初稿


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