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第十二話 宇宙へ

「ロケットは意外と余っているんです。だってそこまで飛空士が育っていないから。けれど、飛空士の大半は早く自分の手でロケットを飛ばしたいと思っていますよ。当然じゃあないですか、ロケットを飛ばすのは男の子のロマンですからね!」


 鍵をくるくると回しながら、リストは歩いていた。

 そして彼を先頭にしてアンダーピースの面々はロケット試験場と呼ばれる場所を歩いていた。


「な、なあ。流石に盗むとはいえ、こんな堂々としていていいのか? 直ぐにばれそうな気がするけれど……」

「僕はここのメイン整備士を任されていますからね! 安心ですよ。流石に、僕が誰かを連れ込もうなんてことは誰も思いませんでしょうし、思っても新入りの研修か何かと思うでしょうね。というかそういう風に取り繕うのでそう考えていてください」

「というか。意外と図太い性格しているわね、あなた。まあ、別に良いのだけれど」


 メアリーは流石に彼の図太い性格に目を見張るようになったようで、同格の立ち位置で彼を見ている。もうとっくに彼はアンダーピースのメンバーの一人となったようだった。

 リストは一機のロケットを見ると、それを指さした。


「これにしましょう。ちょうど鍵も持っていますし」

「これを使うの?」


 それは戦闘機のような、飛行機のような、そんな形をしていた。


「……これを使うのね?」

「ええ、そうですよ。ってかなんで二回聞いたんですか」

「ちょっと気になったのと、あなたの反応速度が遅かったから」

「……だって今からこれを操縦出来ると思うと、胸が高鳴りまして! だってそうじゃないですか、この『スペースシャトル』のかっこよさ! あ、名前はそう言うんですけれど、『宇宙列車』という意味でスペースシャトルという名前をつけられたらしいんですけれど、普通の飛行機やロケットとは違って、大勢の人間を運ぶことが出来るような仕組みが組み込まれているロケットなのですよ! 何でもプロトタイプはかつてスノーフォグが旧文明の資料を集めたことから始まったらしいのですけれど、それによって今、この現代に復活するって素晴らしいですよねっ! 素晴らしい、素晴らしいでしょう!?」

「……ああ、ええ、そうね」


 何かめんどくさい相手を仲間にしてしまった、と今更ながら後悔するメアリー。

 リストは慣れた手つきで扉を開けると、中へ皆を案内する。


「どうぞ、中へ。取りあえず試験飛行という名目で今から申請してくるので、中で待っていてください。鍵は閉めるので、絶対に開けないでくださいね。あと、外から見られる可能性も高いので、操縦席にも行かないでください。では、また!」


 早々に話を切り上げて、さっさとリストは外へ出て行ってしまった。

 残されたメアリーたちアンダーピースの面々は、取りあえず中を探索することにした。


「それにしても……、なんというか豪華よね……」


 メアリーの言葉に同意しない者は居なかった。


「確かに、もう少し質素なものを想像していましたよ。あるものはトイレだけ、みたいな」


 中に入ってみると、キッチン(しかも冷蔵庫まで完備されている)にトイレ、シャワーまでついている。ベッドも充分な数用意されており、一種のホテルに近い感覚だった。

 とにかくアンダーピースの面々は何処かで休みたかったので、キッチンの隣にあるリビングスペースに集まることにした。六人分の椅子と、テーブルが置かれている。彼らはそれぞれ椅子に腰掛けた。


「……あとはリストが許可を貰ってくるのを待つだけね」

「でも、そんな簡単に許可がおりるのか?」

「サニー、私に聞かれても分からないわよ。それとも、何か分かると思ってその質問をしたのかしら?」

「……いいや、そういうわけでは無いが」

「なら、宜しい。彼は悪気が無いように見えたわ。それに、明確な目標を持っている。だから彼を利用するしか無いのよ。win-winの関係、とは言ったでしょう? まあ、はっきり言って純粋無垢な少年の感情を利用するのはどうかと思うけれどね……」

「お待たせしました!」


 リストがやってきたのは、メアリーの言葉に全員が感慨に耽っている、そんなタイミングでのことだった。


「……あ、あれ? どうかしましたか?」


 リストは直ぐに違和感に気付き、メアリーたちに問いかける。

 メアリーはなんでも無いわ、と代表して答え、さらに話を続けた。


「ところでリスト、その様子だと『試験飛行』の許可は貰えたのかしら?」

「ええ。なんとか下りましたよ! 月までの飛行と言われましたが、そんなの全然無視しちゃっていいですよね?」

「ええ。最悪あなたが悪くならないように何とかこっちでフォローするわ。……それじゃあ、私たちは操縦席に向かえばいいのかしら?」

「いえ、その必要はありません。重力場操作システムが作動する最新型なので、離陸時と着陸時のみシートベルトをして貰えれば! ほら、ちょうど皆さんが座っている椅子にもシートベルトがついているでしょう? 因みにその椅子もスライド式で、ある一定の場所までしか動かないようになっているんですよ。……気付きました?」

「……詳しいのね」

「いえいえ。これぐらいこのターミナルで働く人間として常識の範囲内ですよ!」

「そう。なら、良いのだけれど」


 熱意のこもったリストの答えに対して、メアリーは冷たく遇らう。それはどうかとリニックは思ったのだが、しかしリニックにとってみれば自分の得意分野を全く興味のない人間に話したら、それはそれで同じ反応を取られる(軽く遇らわれるか無視される)ことだろう。

 メアリーは早速椅子に腰掛け、シートベルトを締める。早く出せとでも言いたいのだろうか、リストに熱い視線を送っている。

 そしてリストもそれを理解したのか、渋々操縦席へと向かっていった。

 リニックたちは椅子に腰掛けたままだったため、そのままシートベルトを締めることとなった。かちゃり、と金属音がすることを確認し、外れないことを何度もシートベルトを引っ張って確認する。


「……これで良いのかしら? 初めてのことだからワクワクが止まらないわ。あー、長生きしてて良かった!」


 その発言は彼女の容姿からすると不適当なようにも思えるが、しかしそう見えても百歳を優に超えているため、その発言は適当であると言えるだろう。


『ご乗車の皆様、まもなく本船は離陸準備に入ります。シートベルトの着用をもう一度ご確認下さい。……シートベルトの着用を、もう一度ご確認下さい』

 そして、ゆっくりと船が動き出す。窓はついていないため、外の景色を窺い知ることは出来ない。しかし、今から飛び出すのだということに関しては誰もが緊張しているようで、軽口を叩いていたサニーですらシートベルトをがっしりと握り、何も言わずに目を瞑っていた。案外こういうことが苦手なのかもしれない。


 そして、メアリーたちを乗せた船は、無事アースを離陸するのだった。

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