ごく普通の喫茶店
しばらく歩き続けると、少し光が見えてきた。
しかし、付いていくとはいったものの……
さっきからずっと歩かされ、足がくたくただ。
これから私はいったいどうなるのだろう。
まさか売春?それとも誘拐?いやいやそんなわけはない、と思う。多分。いや絶対に。だって私は死んだのだから。
「あの、あなたの名前は?」
「それにどこまで歩き続けるの?」
この気まずさにどうしてもな耐えられなくなりそう尋ねてみた。
『そういえば名乗っていなかったな。俺の名前は場ヶ嶺ヒルカ。名前はお前が呼びやすいようになんでも自由に呼んでくれ。あと少しで着くから我慢して歩いてくれ。』
するとまた沈黙が続きだした。ついにこの沈黙に耐えられなくなったのかヒルカさんが喋りだした。
『これから行こうとしているのはある喫茶店だ。外観は普通の喫茶店だが、そこはある一定の条件を満たした特別な者しか入ることのできない。』
「なら私はその喫茶店にはいることが出来ないのではないですか?」
『どうしてそう思う?』
『ある一定の条件とは死者のことだ。まぁ死者は死者でも地獄に行くわけでもなくまた、天国に行くのでもない一握りの死者だ。』
『まぁ、お前は俺が地獄行きから逃がした死者なんだけどな。』
「なぜ私なんかを地獄行きから救ってくれたんですか?」
『勘違いをするな。俺は救ったのではなく気が向いたからこうしただけだ。』
そうこう会話をしているうちに町が見えてきた。
「ここは?」
『この町は人間界と死者の世界が入り交じった特別な町だ』。
『まぁ、ここにいる大体の人間は俺たちが死者だということに気づいていないがな。』
着いたぞ。ここが俺たちの目的地だ。
そこは小さな喫茶店だった。なんの変哲もないただの喫茶店だった。
『何、突っ立っているんだ。入るぞ。』
「分かってますよ」
『マスター新入りだ』
『お、珍しいね。君が誰かを連れてくるなんて。』
『まぁな』
『じゃあ、そこの君、宜しくね。』
「あっ、はい。よろしくお願いします。」
と言ってみたが何が宜しくなのか自分でもサッパリ分からない。
「あの、ヒルカさん。この人は何を言っているのですか?」
耳元に少し小声でそう聞いた。
『今日からお前はここで働くんだよ』
「どーいうこと―?!」