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ヘリオスの心音 9


きらきらと水が舞う。光の雫がぱっと散る。

輝く。―――世界の全てが。

「アラン!」

やわらかな声が楽しそうにアランを呼んで。ばっとそちらを向いた視線の先には水鉄砲を構える背の高い人。

横に飛ぶと寸前までアランがいた場所に発射された水が注がれて、見事避けたアランにやわらかな声がうれしそうにはしゃいで歓声を上げる。

教わった通りに水鉄砲を構えて引鉄を引く。―――背の高い人に向かって水が発射されて、シャツにかかったその人が大きな声で楽しそうに笑う。

眩しい太陽。青い空、白い雲、緑の芝生。

ともりの黒い眼、ミユキの不思議な色の髪。―――手の中の赤い水鉄砲。

こんなに。―――こんなに。

こんなにきらきらしているだなんて、今まで一瞬たりとも識らなかった。

『アラン!』

窓際でミユキが微笑う。

撃ち合いながらともりが笑う。

二人が呼んで、―――アランを。―――だから。

アランも微笑った。




「よーくあったまらないとな」

ふんわりとした湯気が立ち昇る浴室、たっぷりと溜まったお湯の中に入れられ気持ちよくてつい眼を閉じてしまっていたアランの肩に掬ったお湯をかけ続けてくれていたともりは、アランが完全にあたたまったのを確認してから「頭にお湯かけるから眼を瞑って」とやさしく言った。言われた通りにきゅっと眼を閉じると「いい子」と頭を撫でられ、やさしいシャワーの感触が降り注ぐ。冷たくもぬるくもないあたたかいお湯。

湯船に座り肩まで浸かりながら頭のてっぺんからお湯をあび、ぷはあっと息をして満足して、……しゃかしゃかとともりがアランの髪をリズミカルに触り出したので首を傾げた。

「……ともり?」

「ん? なに?」

「なにしてるの?」

「頭を―――髪を洗ってる。痒いところある?」

「かみ……?」

なんだかぬるぬるする気がする。気になって頭に手をやるとふわふわした白いものが少しだけ指先に付く。アランはぎょっとした。

「な、なあに、これ?」

「シャンプー。これで髪を洗うとさっぱりするし綺麗になるんだ」

「……大人が使うものじゃないの?」

確かにお風呂場にもそれはあった―――けれど、『お父さん』と『お母さん』は「ガキが使うものじゃない」と言ってアランの背の届かないところにそれを置いていたのでアランはそれがどんなものか知ることが出来なかった。

「……これは子供も使って大丈夫なものだよ。せっかくだからたくさん使おう」

言って、ともりはアランに眼を瞑らせるとシャワーでぬるぬるを洗い流した。そしてまたシャンプーを手に取りまたわしゃわしゃとリズミカルに手を動かす。……今度は何故かどんどん泡立っていっているようだった。びっくりして手で触ると指先に白い泡がふんわりと付く。

「なっ、なあにこれ、今度はぶくぶくしてきた、」

「同じシャンプーだよ。二回目だから泡立ちがいいんだ」

「っ……こわい、やだ……」

痛くはないけれどまるでアランの頭から泡が吹き出て来たみたいで怖い。あたたかいお湯の中にいるはずなのにどんどん寒くなって来てアランは縮こまった。

「……大丈夫だよアラン、ほら」

言って、ともりがざばりと自分にお湯をかけた。頭からお湯を被ったともりが新しくシャンプーを手に取りくしゃくしゃとし出す。……アランと同じようにともりの黒い髪も泡だらけになった。

「俺も同じ。これで髪を洗って洗い流すと髪や頭の肌が綺麗になるんだ。痛くないし怖くないよ。慣れると気持ちいいんだ」

「……」

じっとともりを見る。……今のアランの頭もこういう風にもこもこになっているの、か。

「眼に入ると染みるけどちゃんと閉じてれば大丈夫。……これをお湯で流すんだ。さっぱりするよ」

「……うん」

のろ、とうなずくとともりはやさしく微笑った。

「いい子。―――お風呂が終わったらお昼だよ。みーさんがおいしいもの作ってくれてるから」

「!」

ミユキ、が。……作ってくれる。

 昨日食べたクッキーのやさしい味を思い出すとたくさん動いてぺこぺこになったお腹がぐうっと鳴った。昨日のクッキーはともりが作ったものだと言っていたからミユキが作るものを食べるのははじめてだ。

 ごくんと唾を吞んだアランにともりは笑いかけ、「眼をつむって」と言った。言われた通りぎゅうっとつむると泡を綺麗に流されて、身体も綺麗に洗われる。清潔で真っ白な小さなタオルを濡らしてもこもこに泡立てたともりがアランの身体をこしこしと洗ってくれて、あたたかいお湯で丁寧に流してくれる。顔を洗う時は鼻に水が入ってしまう気がしてどきどきしたがなんとかやり過ごし、今までにない位身体中がさっぱりとする。

 最後に一度、あたたかいお湯をシャワーでたっぷりとかけられて、アランのお風呂は終わった。

「みーさん、頼んだー」

「頼まれたー」

 浴室のドアが開きミユキが入って来た。脇の下に手を回しふわっとともりに持ち上げられてバスタブを乗り越え、大きな白いタオルを広げたミユキにふわっと抱きしめられる。やわかい感触のそれの向こうにミユキの手のやさしい感触。すっぽりとタオルでアランを包むと、ふわふわとやさしく身体中を拭いてくれる。

「さっぱりだね、アラン。もっと格好良くなったよー」

 買ってもらったばかりの新しい服にどきどきしながら袖を通して、頭のてっぺんから爪先まで綺麗に洗ってもらって。全身ぴかぴかになったアランよりもうれしそうにミユキが微笑った。

「ご飯、もう出来るからね。ともりに髪の毛乾かしてもらって」

「ぼく、自分でふくよ」

「偉いね。じゃあ、ともりには仕上げでドライヤーしてもらおう」

 どらいやー? と首を傾げるとミユキは白い大きな銃みたいなものを取り出した。アランを洗う時間よりもずっと短い時間で自分を洗い出て来たともりがそれを受け取り、「ちょっと熱くなるからね」と言ってアランのうしろでかちりとなにかのスイッチを入れる。

 ぶおーっという音と共に風をかけられてアランは飛び上がった。

「っわあっ!」

「大丈夫、これで風を当てて髪を乾かすだけだから」

「うっ、うん!」

 声が自然と大きくなる。一瞬とても怖かったがミユキが眼の前でにこにこと微笑っているのでその気持ちはすぐにどこかへなくなった。ぎこちなくだがへらりと微笑ったアランにミユキはうれしそうな顔をして、何故かスマートフォンを向けて何枚か写真を撮った。




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