ヘリオスの心音 8
あれ楽しそう、とミユキが指したのはいろんな色の拳銃―――水鉄砲だった。遊んでいるところを見たことはあるがアランは触ったことがない。でもいつも格好いいなあ楽しそうだなあと思って見ていたので、それがたくさん飾ってあるのを見てついそわそわとしてしまった。ともりが微笑う。
「買おっか」
「え、」
憧れているのがバレたのか。アランはぱっとともりを見上げた。ともりが水鉄砲をいくつか手に取りアランの前に示して見せる。
「モーテルの庭、言えば遊ばせてもらえるだろうから。帰ったらやろう。アランはどれがいい?」
「え、い、いい、いいよ……」
「わたしはね!」
「みーさんは審判」
「反対! 仲間外れ反対!」
「というより銃持ったみーさんに俺が勝てるわけないじゃん」
「相手の動きを予想して狙ったところに当てるのが楽しいのに……」
「胎教に悪過ぎる……」
「お母さんわたしがお腹にいる時ゾンビ映画観てたってよ」
「胎教に强過ぎる……」
ぽんぽんと会話を繰り広げ深々と息を吐いたともりが、少し悩んでから「両手撃ちも出来るか」と呟いて四つ水鉄砲を手に取った。赤、青、黄色、あとかわいい色。ミユキが微笑った。
「これ、ピンク色かわいいね」
ミユキがそう言ってくれたのでそれがピンク色だと知り内心深くうなずいた。外向きも同意するように大きくうなずく。ミユキが先ほど買った小さなリュックを手に取って、アランの背中に宛がった。
ともりは店内に入り隅に行き「ここで待っててね」と手を繋いだミユキとアランに言って、四つの水鉄砲を買ってくれた。
「あとで選ぼうね」
「っ……うんっ……」
―――はじめてもらったおもちゃは、彩り鮮やかな水鉄砲。
四つを胸に押し抱いて。……心が圧し殺せず震えた声で、アランは二人を見上げた。
「ぁっ……ありがとうっ……!」
『どういたしまして』
ふは、と同時に微笑った二人が手をのばす―――同時に。
アランの頭上にその手が来ても、アランの身体が勝手に震えることはなかった。やわらかい手がアランの髪を梳き撫で、大きな手もまた頭を撫でる。
リュックサックに水鉄砲を全部入れて、右と左両方から差し出された手を握り微笑った。
モーテルのおばさんに許可を貰い、借りて来たバケツに水を満たして。
フルチャージした水鉄砲を片手にアランは心が浮き立つのを抑え切れなかった。
「アラン、使い方わかる?」
「うっううんっ、でもここを引けばいいんだよねっ?」
「そうそう」
「アラン、構えかた教えてあげるからおいで」
庭に出たともりと室内待機を命じられ窓から参戦のミユキが開け放たれたそこからおいでおいでとやわらかく手招く。駆け寄って見上げるとミユキは微笑い、アランを背中からふわんと窓越しに抱きしめた。
「両手は自然にまっすぐと。肘は軽く曲げて、足は肩幅。アランは右利きかな? だったら右足を少しだけ下げて……そうそう、上手。膝はね、軽く曲げるの。うん。それで、握り方は……」
「ミユキ、銃が得意なの?」
「普通かなあ」
目先でともりが「普通……?」と首を傾げていたがミユキは気にせずアランへの指導を続けた。アランはまだ手が小さいけれど水鉄砲は小さめだったので問題なく扱える。
「うんうん、素晴らしい。あとは心の赴くまま、前を見据えて、望むままに戦うといいよ」
「ミユキ格好いい……」
「でしょ」
何故かともりが胸を張った。