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アルビレオの邂逅 14


ロースクールにレポートを提出して教授に挨拶をする。一応三ヵ月後には卒業予定で、単位は既に全て揃えている。あとは試験を受けるだけで、その勉強を進めつつディアムのアシスタントとして働く───学業と仕事を両立させている形だが、周囲の支えが大きく今のところなんとかなっていた。

感謝だ。

満ち足りた生活に、そして漸く彩られた最愛。───このまま努力してゆけば。

 卒業と同時に就業し、そして彼女にプロポーズが出来る。───ひとりの男として。

 彼女に焦がれ、必死に努力して、人間としての中身をしっかりと詰め込んで。───彼女を乞うことが出来る。

 誰よりも高潔で凜と全てを吞み込みそのまま映す深い深い海の底の光のような眼を持つ女性を。

「───……」

 差し込む光もあたたかさも愛おしくて。

 微笑んだ。




 そのあたたかさに影が生じたのは、仕事先であるオフィスの入るビルに顔を出した時だった。

「おお、トモ!」

「ヘンリー」

 同じくアシスタントをしている男、ヘンリーに挨拶を返した。と言ってもヘンリーは既にロースクールを卒業し正式に就職している。ここに自分が勤めはじめた時にいろいろとあったが今はお互い親しくしていた。

「こないだのトモの彼女、さっき外で見かけたぞ」

「本当?」

 彼女のあの髪は目立つ。本人も自覚があるようだが、ついその色の変化を眼で追ってしまうのだ───今はもう、彼女と彼女の血の繋がりがある父親の弟だけが持つあの不思議な色。

 血の繋がりは、家族を成すのには関係ない。───が。

 血の繋がりがあるからこそ、こうして愛おしく続いていくものもまた、確かに在る。

 選べるのならば、自分と彼女の間にいつか生まれるかもしれない子供が、自分の色ではなく彼女の持つ色を持ってくれたら───と願うのは、彼女を愛するひとりの男としては避けられないことだった。

 思い、つい表情が弛む。……ヘンリーが続けた。

「にやにやしやがって。───で、どこ行くんだ?」

「え?」

「旅行会社から出て来たぞ、彼女。えーと、ユキ、だよな。封筒持ってたからどこか旅行に行くんだろ? 試験前だけどお前大丈夫か?」

 からかうように、けれど少し心配そうな声。───その声すら留まらず耳を通り抜けてゆく。

旅行会社。───航空券。

どこかへ行くための。───手段。

───また、どこに行く。

何も聞いてない。何も。───自分は、伴わない、から?



自分は───また、伴わないから?


「───」




 思考が抜け落ち。

 踵を返した。

「え───トモ!」

 かけられる声に応じず。

 駆け出した。




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