アルビレオの邂逅 13
「かえろ、おうち、いっしょ……」
るん、と口ずさむ彼女。
四人での食事。楽しい会話においしい料理、お酒。
これ以上なく楽しかったのか、薄くアルコールが回った彼女の足取りはいつもよりも少し頼りなかった。……それにプラス自分のせいも多分にあるのでやわらかくけれどしっかり彼女の腰を抱いて頼んでいたタクシーに乗り込む。
「たのしかったねえ」
「そうだねえ」
「ともりあしたがっこうだよね、おふろさきどうぞ」
「ん、一緒に入ればいいよ」
「そっかあ」
のんびりと答える彼女。このままどんどん押し流してしまおう。
「ともりー」
「なあに、みーさん」
「ふは」
「ふは」
「……ふは」
彼女が微笑う。───何度でも。
自分を呼んで。───何度でも。
「……いっしょに、かえろうね」
さらさらとした髪を指で梳くと、心地良さそうに彼女がとろりと眼を閉じた。
翌朝、ミユキはきちんとベッドに寝ていたが、きちんと服は着ていなかった。
もう少し言うならば昨夜帰って来たあとの記憶が飛び飛びだ。
なんだか流されて一緒に入浴した記憶もある(一部)。
そのままベッドに運ばれた記憶もある(一部)。
そのあとの記憶もある(一部)。
どこを抜粋しても楽しそうに微笑うともりか艶やかに微笑うともりが浮ぶので、……まあいいか、とうなずく。だってともりだし。
だいぶ寝乱れていたが辛うじて纏っていたバスローブを着直しよろよろとリビングに行くと、おいしそうな匂いとエプロンを外すともりが出迎えてくれた。電気を付けずともたっぷりと朝日が差し込む中、健康的にともりがにこりと笑う。
「おはよう、みーさん。身体は大丈夫?」
「おはよう……足腰が小鹿……」
「あはは。だね」
ぷるぷるしているミユキに歩み寄り席までエスコートされる。とても在り難いが、この原因を作った張本人だと思うと「?」となる。
「ありがと、朝ご飯……今日も起きられなかった……」
「ううん、俺の方が確実に体力あるし」
「明日はわたしが作るから今夜はあのさ」
「明日の朝ご飯は出汁が香る卵雑炊だよ」
「既に諸々が決定されている……」
あきらめた。諸々と。
いただきます、とお互い同時に言って口を付ける。
「ふー……相変わらずおいしい……」
「ほんと? うれしい」
「ともり料理すごく上達したねえ」
「ありがとう。一人暮らしも大きかったかな。叔母さんとみーさんが仕込んでくれてたから家事とかについては大きく困らなかったし」
「よかったあ」
「作り置きのレシピがだいぶ増えたよ」
「え、今度教えて教えて」
生活能力という意味で青年に問題は一切ない。上手くやりくりもするし、元が器用なので繰り返し練習すればやがてじわじわと上手くなってゆく。努力を惜しまない性格なので教えたこと、学んだことは確実に覚え完成度を高めてゆく。
昔から思っていたが内面がすごく素敵だ。もてないわけがない。
「人間惚れた相手によって変化してくるからね」
「思考にするっと入って来ることに関してはここまで器用じゃなくていいけど……」
そんなに読まれ易いのかとも思うがこれに関してはともりが単に上手だからという気がしなくもない。
「みーさん今日の予定は?」
「家事かなー。あとまったりする」
「まったり是非して。家事も帰って来たら俺がするよ」
「やさしいなあ……」
きちんとするが。基本的に散らかしていないのでさっくりと終わるだろう。
「あとあちこち連絡……? なんか、ほら、ものすごくあちこちかに心配をかけているので」
「それも是非して」
真顔で言われてうなずいた。ですよね。




