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アルビレオの邂逅 10


やって来た月曜日。

土曜と日曜?

覚えてません。

「じゃあみーさん、行ってくるね。出かける時は気を付けてね」

「……」

「まあ歩けないかもしれないけど」

「……」

腰が立たない。立とうとすると脚は生まれたての小鹿のようにぷるぷると震える。

お風呂に入れられ、部屋着を着せられた状態でベッドに逆戻り。ぐったりと横たわるミユキにともりはそれはそれはご機嫌な血色のいい笑顔で微笑んだ。行ってきます、と、キスを落とされる。

「師匠に言わなきゃ。みーさん帰って来たよって」

「うん……」

「夜になったら迎えに来るよ。会いたいでしょ? その頃になったら少しは歩けるだろうし」

「……じゃなきゃこまる……」

「ごめんね。つい。今夜はもっとセーブするようなるべく心がけるから」

「今恐ろしいことを聞いた気がした……」

今夜は? 今夜も?

潤んだこちらの瞼にともりは笑ってキスをした。「大丈夫。やさしくするから」そういう問題じゃないんだけど通用はしなさそうだ。もうあきらめるしかない。

「じゃあいってきます」

「うん。……いってらしゃい」

気を付けてね、と言うと蕩けた笑顔でともりは微笑った。




みーさんが帰って来た、とこれ以上ないくらいの満面の笑みで弟分が言って、思わず心が静止した。

ややあって───早いリズムで動き出す。

「そうか。……そうか」

漸く。───ようやく、ここまで来れた。

「今日、帰って来たのかい?」

「ううん。金曜の午後」

言うの遅くなってごめん、とともりが言う。首を横に振った。

「積もる話もあっただろうし、いいよ。ミユキは今家? 仕事かな」

「や、家。当分家」

「そうか」

「動けなくしといたから」

「……そうか」

強気で言われ流されるがまま流される少女が浮かんだ。

まあ……頑張れとしか言いようがない。しばらくは付き合ってやりなさい。

「プロポーズは?」

「まだしてない。それはちゃんと計画してしたいから。『結婚を前提』に付き合ってる」

「急かす気はないが、早めにした方がいいと思うぞ。彼女じゃなくて婚約者にした方がいい。ミユキがひとりでどこかに行くことはもうないだろうしあの子の心だって決まっているだろうけど、あの子がじっとしてると周りがどんどん寄って来るだろう」

「うん。早く囲っとかないと」

「明らかに周囲にわからせておくべきだ」

「うん。まず首輪……指輪かな。リタに訊く。どこのがいいか」

「呼ぼう。……レティ、ちょっと来てくれ」

「なあに?」

「俺、俺が世界で一番大好きなひとと結婚を前提に付き合うことになった」

「あらおめでとう! 素晴らしいわ!」

「周りにわかるくらいの指輪を渡したいんだけど、お勧めとかある? これはもう本気過ぎて太刀打ち出来ないなってあきらめられるような」

「そうね……その彼女、どんな子? ブランド好き?」

「いや、あんまり興味がない。何にしても値段関係なく自分の気に入ったメーカーのをよく使ってる」

彼女が拘るのはカメラくらいだろう。あと炊飯器にも拘っていた。アクセサリー、付けているのは多々見ることがあったが……有名どころのものではなかったように思う。

「そうね、それだったらブランドに拘る必要はないと思う。でも一般的なところで言うと……」

いくつかブランドを上げられ全てメモする弟分を見守る。

「オーダーメイドっていう手もあるわよ」

「なるほど、視野に入れとく……ありがとう、レティ。これからこういう件で訊くこと多々あると思うんだ。時間ある時でいいから相談に乗ってくれない?」

レティがこの弟分を気に入っているのはこういうところだということを知っていた。きちんとお礼を言われた上にこの上なく頼られているとわかる丁寧な口調。ともりが姉のように慕っているのも、レティにとっては周知の事実だ。

「もちろんよ。会えるのを楽しみにしてるわ」

「うん、今日夜来ると思う」

 弾んだ声で。

 ───心の底から幸せそうに微笑いながら言う青年に。

 ……少女が選び、少女を選んだ青年に。

 ───ああ、ようやくここまで来れたと、心の中の自分がもう一度、深い声で云った。




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