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アルビレオの邂逅 8


夢ではありませんように。うつらうつらとする意識の中そう唱えて、……ややあって、少しずつ意識が覚醒した。

腕の中にあるあたたかくてやわらかくて小さくて華奢ななめらかな感触。羽織らせた自分のシャツの下に手を滑り込ませると、頼りないくらい細い腰があった。つ、とそのあたたかな曲線をなぞり、そっと彼女を抱き寄せる。

疲れ果てて、……果てさせて、眠る彼女。無防備に、眠る彼女。……自分の腕の中で。

横たわっているはずなのにくらりと眩暈がした。どうしよう。どうしよう。───やっと、手に入れた。

額に唇を落とす。安定した寝息。ぐっすりと眠っている彼女の頬にかかった髪をゆるく梳いて、さらさらとうしろに落とす。この髪も。全てを呑み込む深い深い眼も。愛おしい心も。心が求める存在全てが。───今はもう、全部、自分のもの。

どうしよう。どうしよう。───絶対に手放さない。もう絶対に手放せない。一生、死ぬまで俺のもの。死んでも俺のもの。死んだあとも含めて永遠にやさしくしたい。慈しんで、大事にして、心いっぱいに愛して───たくさん笑わせたいしたくさん泣かせたい。もう何も我慢させたくない。気持ちの赴くまま笑って泣いて、そんな彼女のそばにいる。

どうしたら愛しているとわかってもらえるだろうか。

どうしたらこんなにも愛おしいのだとわかってもらえるだろうか。

一生かけて考えて伝えなきゃ。永遠かけて伝えなきゃ。───本当に、本当にあなたのことが大事なのだと、伝えなきゃ。

幸せにしたい。ずっとずっと、幸せにしたい。

「……ふ……」

ふ、と吐息が乱れて、

ゆっくりと彼女が眼を開けた。

開ききらない、まだ夢と現実の狭間にいる彼女。微笑み、眠って、と囁こうとした瞬間、眼を閉じた彼女がふわりと身を寄せた。

すり、と、こちらの胸に縋るように身を寄せ、ほぼゼロに等しい力で抱き付いて来る。頬を胸に埋め、満足したようにふうっと息を吐いて、また規則正しい呼吸に戻る。……やわらかくしなやかな脚が脚に触れ、横たわっているはずなのにまたぐらりと先ほどより強い眩暈がした。

なに、この、かわいい小動物。

これから一生、この無自覚小悪魔に振り回されるのか。……我慢出来るのか? 程々にセーブ出来るのか? というかきちんと人生計画しなければあっという間に子供が出来そう。いや子供は欲しいけど、最初はまだ新婚をたっぷり味わいたいしけじめとしてできちゃった婚は避けたいし。式挙げて籍入れて少し経ってからが理想……男と女どっちも欲しい、でもどう足掻いても現代医学では自分は妊娠出来ないのでそこは彼女と要相談。

悶々と考え出したこちらの腕の中で、彼女は相変わらず、……幸福なことに、幸せそうなやわらかい顔ですやすやと眠っていた。




朝眼が覚めたら黒曜の眼が自分を見下ろしていた。

「……おはよう、みーさん」

「……おはよう……」

覚醒し切らないままぼんやりと答えて。でも、その返答に幸せそうに微笑んだ青年を見ると、ミユキまで心が満たされるようにして幸せになった。

「身体大丈夫?」

「うん、ありがと」

本当は腰にかけて慣れない痛みがあった。起き上がろうとして、痛みが走る前にするっと腰を撫でられて力が抜けた。ぱたんとベッドに倒れ込む。

「え、なあに……?」

「『俺がみーさんに言いたい言葉ベスト3』を言えたからしばらくその感動を味わいたくて。みーさんを抱きしめた状態で」

「そんなのあったの……?」

「あったの。今までの『身体大丈夫?』だとみーさんが通り魔に襲撃されてめった打ちにされた翌朝とかだったんだもん。はじめてこの言葉が穏やかな意味で通ったよ」

「……」

確かに、と納得してしまい返す言葉がなかった。

「……ベスト2は?」

「みーさん、愛してる」

「っ、」

不意打ちを喰らってかっと赤面した。間近でそれを見られたこともさらに熱さを煽る。

ともりが幸せそうに熱くなった頬から首筋をなめらかに撫でた。

「ふあっ」

「あーかわいい……一位はね、まだ言いません。でも近い将来必ず言うから」

ぎゅっと抱きしめられる。唇が耳に触れ、吐息と共に言葉が注がれる。

「───絶対に逃がさない。愛してるよ、みーさん」

───横たわっているはずなのに、ぐらりと眩暈が、した。

「さて、みーさん」

呑み込まれて何も返せなくなったミユキにともりはそれはそれはうれしそうに微笑みかけた。

「お風呂入ろっか。もちろん俺と一緒に」

再び、眩暈がした。



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