アルビレオの邂逅 7
腰に回していた片腕を彼女の小さな頭に回し抱き寄せた。唇を合わせ、驚いたようにされるがままの彼女を貪るようにして唇を合わす。彼女が漏らす小さな声に煽られ、角度を変え何度も何度も口付ける。拒まれない。あの時のあとのような後悔もない。歓びしか、ない。
「ん、んっ……」
酸素を求め薄く開いた彼女の唇にするりと入り込んだ。あたたかい咥内を味わい、驚いたように引っ込もうとするそれを絡めて逃さず、もっと強くと腰を抱き寄せる。逃がさない。もう絶対に。手に入れたのだから、全部ぜんぶ、俺のものだ。
「ふっ……あ……っ」
脱力した彼女から唇を離し、その耳元をぺろりと舐め上げた。くったりと凭れかかって来る彼女の真っ白な首筋に何度もキスを落とし、それだけじゃ足りなくなってちりっと吸い付いた。首筋から綺麗な鎖骨まで、唇で肌をなぞるように何度も何度もキスを落とし、顔を上げてその眼を覗き込んで───その顔を見てもう耐え切れなくなって彼女を抱き上げた。くったりとした彼女は記憶にあるよりも軽くて、華奢で、儚くて───寝室のドアを腕と背中で開けベッドの上に落とした。覆い被さり、その細い身体のラインをなぞりながらまた呼吸を奪うようにキスをする。
足りない。足りない。
拒まれないのをいいことにもっともっとと欲が高まりその咥内を味わう。
まだ足りない。まだ足りない。
欲しい。欲しい。ずっとずっと欲しかった。支配したい。善がらせたい。彼女に男としての自分を刻み込んで彼女の全部を味わいたい───
「……っ、ま、て、」
身体をなぞっていた手を彼女のシャツの下に滑り込ませ、やわらかい肌に指先が触れた時自分に呼びかけ飲み込まれかけていたあらん限りの理性を振り絞って身を引いた。自分の荒い息と彼女の荒い息と。眼を潤ませとろんと脱力した彼女と。その全部が自分の齎したことだと脳内で自分がうれしそうに囁き、肌に触れたままの指先を進めようと理性を押し出す。
「っ……まて、っ、て、」
自分に言い聞かせて。彼女の眼を覗き込む。───いくら気持ちが通じ合ったからといって。性急にことを進めるつもりはない。なかった。ゆっくり、ゆっくりでいいから……彼女の経験が少ないのは何となくわかっている。明確に話したことはないけれど。そうじゃなくても負担は彼女側に大きいのだから、こんな飢えた獣みたいにがっついて怯えさすなんて論外だ。飢えているのも獣と化しているのも紛れも無い事実だが。
落ち着け。落ち着け。彼女のペースで。これは大事なことだ。頭を冷やせ。彼女を愛してるんだから冷静になれ───ぎゅっと眼を閉じ、思考を切り替えようと、した。
「……ともり……?」
か細く揺れた声が、名前を呼ぶ。
やっぱり怖がらせてしまったか。眼を開け、ごめんねもうしないからと謝ろうとして───ふわりと、彼女の手が頬に触れる。
ぺた、ぺた、ぺた。頬から首筋になぞるように、その滑らかな手が触れる。くすぐったくて気持ちが良くてぞくりとすると、潤んだ眼のまま「ふは」と彼女は微笑い、
「……わたしも触っていいよね?」
満足そうに、うれしそうに、その手が頬をやさしく撫でる。
───今度こそ、自分の中でもう取り返しの付かない何かが切れる音がした。
「───うん」
頬に触れる手を包み、触れるだけのキスを落とし間近で微笑む。
「触って。───俺も触るから」
やわらかい肌を辿る。───あたたかくて、やさしくて、美しくて、幸せで、心地良かった。




