アルビレオの邂逅 5
帰って来た。───帰って来た。でも。
でも、───これから、どうしたらいい?
「……」
うつらうつらとして───意識が、這い上がるようにして戻って来る。……それは。
あまり気持ちのいい目覚めではなかった。
「……」
ゆっくりと、身体が痛まないように起き上がって時計を見る。……二時間程、眠っていたようだった。
「……」
寝室のベッドの上。家具は予めあったものをそのまま使っていて、大きなものは何も増えてはいない。……二人寝転がっても余裕な大きなベッドだ。ミユキが使ったのは数える程しかないが、ともりはもう何度もここで眠って来たのだろう。
「……」
───ひとりで?
「……」
胸に重たいものが広がって。……きゅ、と唇を噛んだ。
訊けば、いい。───今のことを。ちゃんと話をして。
ちゃんと話そうとすればともりはきっときちんと返してくれる。
そういう人だ。ずっとずっと───そういう人だ。
だからこれはともりの問題じゃない。───ミユキ、が。
怖がっているから。恐れているから。───だから訊けない。
今は誰を大切に思っているのか───訊けない。
「……」
握った拳が微かに震えて。
涙腺が堪え切れないように痛んだ。───その時。
そっと、音を立てず。ドアが開いた。
「……あ、みーさん。起きた?」
「っ……ぅ、ん、」
「まだ寝ててもいいよ?」
「うう、ん。……大丈夫」
「そう?」
やさしい声。
気遣いの言葉。
───貰う度。
うれしくなって、───不安になる。───ねえ。
ずっとずっと、そばでそう言っていてくれる? と、訊きたくなる。
「……」
「みーさん、俺───」
ともりが何か言いかけた瞬間。電子音がそれを割るようにして切り込んだ。
「あ……ごめん」
「ううん、気にしないで」
「うん……ちょっと待ってて」
言って。ともりはスマートフォンを取り出し耳に当てた。
「もしもし、レティ?」
「───」
瞬間。───ミユキは。
ともりに飛び付いた。抱き付くように。それ以上に、押し倒すように。
驚いたような顔をしたともりを巻き込みそのままベッドに倒れて、そのまま───ともりを捕まえるかのようにしがみ付く。
「っ───みー、さっ……」
「とっ……も、り、おねがっ……!」
お願い。───お願い。
涙があふれて。───止まらなくなった。
「ともりの、そばに、いさせて……! おね、が……! どれだけ勝手なこと言ってるか、分かってるけどっ……でも、おねがい……! ともりと、ともりと……」
ぼろぼろと───泣きじゃくりながら。
「ともりと一緒にいたいの……!」
ともりが───眼を見開いた。
「……そ……か。俺……まだ、なにも……」
呆然としたような声が。───何かを掴んだかのように。
ささやいて。───纏まったかのように、微かにひとつうなずいた。
「……俺……なにも言って、なかったね……」
ごめん。───上体を起こし、身体の上に乗るミユキと向き合って───ともりが。
ともりが、───微笑った。
「───愛してる。みーさん。ずっとずっと、みーさんだけを愛して来た。
……結婚を前提に、俺と付き合ってください」
「───っ……」
ともりが。───ともりが。
何度でも、何度でも、ともりがミユキを泣かせる。




