ヘリオスの心音 27
「アラン」
愛おしそうにやさしい声が自分呼んで、心が勝手に呼応した。
顔を上げるとそこには、あれから殆ど外見年齢が変わっていないのではないかと思うくらい変わらない人が、母がいる。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ」
アラン少年、なんて。そんな風に第三者を装って思い出してみたものだが―――どんな風に考えたって、距離を置いてみたって、あの時の父と母程勇敢な人はいないだろう。
我が両親ながら、本当に。本当に―――何て無茶苦茶で我武者羅で、そして高潔なのだろう。
「そっか……ふは」
「ん?」
「ううん、アランがぼんやりしてるところ、ともりにそっくりだなーって」
「父さんに?」
「うん、口許とか」
こう、と何やら小さな唇が薄く動いたがあまりよくわからず、ただ母の一生懸命さと愛らしさだけが伝わって来る。変なところで母は不器用だ。
「そう? まあこれだけ長く一緒にいれば似て来るのかな」
「うん、ぞくぞくと似て来るよ」
「ぞくぞくと」
「うん。ぞこぞこと」
「ぞこぞこと」
なんだかそれだと根刮ぎ似て来るような表現だが、まあ、ぞくぞくとでもぞこぞことでも、父や母に似るのならそれがいい。父や母のようになりたいと、アランが自分で選んだのだから。
真似をするわけではなく。
けれど目指して、彼らのように。
―――やさしさを選べる人間に。
「ん、そろそろみんな帰って来るんじゃない?」
「うん、ご飯ももうすぐ出来るよー」
「トマトソース?」
「トマトソース」
「玉ねぎが粗めのハンバーグ?」
「玉ねぎが粗めのハンバーグ」
「チーズ?」
「とろけてる」
「最ッ高」
微笑って二人でキッチンに並ぶ。揺れた母の髪がふわりと不思議に染まり色を変える。―――何年経っても変わらない不思議な色。
ついその色が描く軌跡を眼で追って、他の誰も持たない、母だけの海の底の光のような全てを呑み込みそのまま映す深い深い色をした眼に行き合って、……視線に気付いた母が、ふわりとやわらかくアランを見つめる。
やさしくあたたかく。
何よりも愛おしそうに。
「なあに? アラン」
「……ううん」
眩しくて愛おしくて。
―――かけがえのない家族。
「いつも通りだなって」
ふは、と微笑うと、同じように母も微笑った。
〈 ヘリオスの心音 ヘリオスの愛し子 〉
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