ヘリオスの心音 23
残るは―――一人。
『恐らくそいつが主犯格だろう』
「しゅはんかく……」
『ボス、という意味だ』
「わかった」
ボスならばわかる。意地悪でいつも威張り散らしているやつだ。アランの学校にいるリックみたいなやつだ。きっと。
『ミユキが今そいつといる』
「っ、」
『流石にこれ以上は危険だ。いいか、さっき君が閉じ込めた男が帰らないことを怪しんだボスが、きっとその場を後にしミユキから離れる。その時を狙って―――』
「そんなの待てないよ!」
思わず大きな声で叫び返しアランははっと口を噤んだ。幸いながら劈くような雷が同時に鳴り、アランの声はサムにしか届かなかった。
「……ミユキ、は。一人じゃないんだよ? 赤ちゃんが……お腹に赤ちゃんが二人もいるんだ。待ってられないよ」
『わかっている。僕も人を派遣している。あともう少ししたら着くはずなんだ、だからそれまで―――』
「その間に何かあったらどうするの……!」
そもそも―――ミユキはどこだ? ともりはどこだ? どこにいるというのか。
『二人は盗聴器と発信機を持っている。だから僕も状況を把握出来ている。今はまだ大丈夫だ。だから―――』
「サム、二人はどこにいるの」
『アラン』
「そう、ぼく、アランだよ」
アランは言葉を重ねた。
「アランなんだ。ミユキとともりがそう呼んだ。そう呼ぶことを選んでくれた! ―――だからぼくも選ぶんだ。―――ぼくは、アランだ。絶対に、ぜったいに―――大好きな人を、連れて行かせたりしない」
『……』
雷の轟音。
嵐の脅す音。
怖い。こわい。
怖くてたまらない。―――けれど。
それで、いいのだ。―――きっと、いいのだ。
問題は、―――その次に、自分が何を選ぶかなのだ。
「サム。―――サム、お願い」
お願い。
「ぼくに。―――アランにもう、ひとりぼっちを選ばせないで」
死んでしまうとしても。
たった一人で、死なせないで。
アランに、ひとりぼっちを強いないで。
『―――これ、だから』
何かを堪えるような、―――声。
『これだから君たちは嫌なんだ。―――友人じゃないから選べなかったことが残念だ』
そうじゃなかったら絶対に選んだりしないのに―――と。
サムは言って、……口調を改めた。
『ともりは自身で何とかするだろう。―――ミユキのところへ。そこに主犯格もいる』
「うん」
『地下室だ。―――アラン』
「なあに?」
『―――頼む。僕の大事な人を助けてくれ』




