quest32 ~Rich boy~ お坊ちゃん
二人は自宅待機ログイン)していたのだが、ログアウトのあと、夜に電話があった。
担任ではなく学年主任 厳本正から直々の連絡だった。
「登校日だが、顔見せに来い。書類やらなんやらの手続きがある。職員室だ。
わかっていると思うが、放課後だ。午前日程で終わるはずだ。
親御さんはまだいらっしゃらないのか??」
はいと短く答えるとそのほかにはとりとめのない話を続けていた。
以前家庭訪問の時にも提出の紙が出ていなかったので同様の事を訊かれたが、大学の教授なので、
海外で仕事ですと答えるとそれ以上は首を突っ込まなかった。
ここでも、お前の親は・・・・・・などと詳しく訊かない辺りはこちらとしても助かる。
なにしろどうしようもないことだからだ。
その代わりと言っては何だが、親の呼び出しをくらうというようなことは極力しなかったし、
成績面の方でも心配はかけまいと努力したつもりだ。
「まあなんだ、明日はとにかく来るように。」
間が悪い、と聞こえなくもないすこし決まりが悪い様子で電話を切ろうとするので
こちらも呼び止めるようなことはせず、電話を切る。
電話機を充電機に乗せ、ライトが光ったのをみて自室の2階へと戻り、ドアを閉める。
部屋の明かりをつけ、何をするかを考える。
携帯端末で通知表示を確認するがなにもないので勉強机のすぐそばにある椅子に座り込む。
エアコンをつけようかとするが、翌日の体のだるさが嫌いなのでやめておく。
公式サイトで情報集めでもするか。
翌日のために目覚ましを携帯端末で設定し、机の上に閉じておかれている、パソコンの電源を入れ立ち上げる。
ブックマークの中からクリックして公式サイトに一気にジャンプする。
サイトは本サービス開始とともに更新したのだろう。
一目でわかる表示で”本サービスついに開始!!冒険者たちよ集え、戦え、飛躍しろ”
大文字で書かれていた。
その下には初回版完売御礼申し上げますとともに再発売は1か月を予定しております。
※最低の期間ですのでこれよりも早くなる場合がございます。お楽しみにお待ちくださいませ。
と小さい表示、スクロールしていくといつものように攻略情報などがボタンでリンクに飛ぶように
なっていた。
試しに、フレンド募集に飛ぶと、たくさんの挨拶が書きこまれていた。
兄弟でやってます。一緒に冒険しましょうとか初めてでとっても不安です、引っ張ってくれると嬉しいな、
と初心者を全面に出して自己アピールしていく女子であろうものがあった。
ゲームに対してそういう邪な考えをもつのは男ならば性なので
どうとは言わない、実際自分にもそういう考えはあった。過去に。
必ずしもとは言わないがPCゲームではそういうことがよくある。口調が女っぽいからずっと
女だと思っていたけど親しくなって内事情を聞いたりすると性別ぐらいは教えてくれる。
その時の驚きと落胆と言ったら・・・・・・
古傷だからここでは考えないでおく。しかし、男っぽい口調で女だったということ逆もまたしかりだ。
PCゲームでは顔が見えないし、PCゲームで異性でプレイするというのも楽しみの一つだ。
と、まあ書き込みだから、本当にそうなのかもしれないが怪しいものも中にはあるのは実情だった。
その女子書き込みに対してはレスが激しく専用スレもあるぐらいだった。
騙されていないからだからか、まだそんなものがあるとは思ってもみないのかは知らないが
信用しすぎるのもいかがなものかと小馬鹿にしている自分がいた。
フレンドを作るのには反対的な意見に聞こえるかもしれないが、別にそういうわけではない。
ここで少し遡る、そういえば・・・・・・
小悪魔ツンデレ幼女のアリスが設定について聞いた時のことを思い出す。
最初には身元確認だったし、性別の質問はなかった。そのあと職についてだったし、
そのあとはたぶん容姿についてだった。速攻でスキップしたので容姿も変わっていないはずだった。
詳しくは覚えていないが性別については変えられないのかもしれない。容姿は変えられるが、
性別は変えられない。異性プレイを望むプレイヤーにとっては悲報だが、一度痛い目にあった経験のある身としては賛成だ。自由をウリにするゲームだからそこは微妙のところだが助かるのもまた事実。
だとするとこの盛況ぶりも納得だった。
バックスペースを押してブラウザバックして今度は本命の攻略情報をみる。
初日での攻略ができている現時点での情報が書かれてあった。New!!という文字で装飾され
スフィーダを強調していた。
進むと攻略情報が詳しくまとめられていた。モンスターの分布や道について
コウたちが二つに分かれて行動したルート通りだった。
カウンターがあった。数が少ない。見るとクリア人数を示すものだった。
行けたのは俺たちもクリアしたばかりの1階だけらしい。2階へ行った人はいなかった。
どんなゲームでもやり込む必ずはいるゲーマーなら一人でも行くだろうはずが行ってないことに
少し拍子抜けしてしまった。
しかも、クリア人数は10人。さっきだからまだ更新できていないのかと思い、更新日時を確認してもつい5分前のことなので、最新といっても変わりなかった。
あごと下唇の間をさすりながら考え込む。頭の中ではあの花火が浮かぶ。
解像度の高さを生かしたリアルな光り輝く花火。大抵の人間なら見物を楽しむ。
しかしゲームでリアルを望む人間がいるかと疑問が浮かぶ。
ユーザー(プレイヤー)がゲームに求めるものはさまざま。
グラフィック、世界観、ストーリー、キャラ、育成、挙げるとキリがない。
残る線はなにかあったのか。大ヒットが予想されるこのゲームで先に攻略を目論むプレイヤーは多いはず。
その攻略を後回しをするに値する出来事があったはず・・・・・・
と着信音が鳴り、発信者は福嶋新だった。
「どうかしたのか??」
「ああ、康。やっと出た!!やつから電話きたか??」
やつと言われる人物は誰か、簡単な問だった。
「厳本か。きたよ」
「くそ~、明日からも朝からマックスログイン祭だとおもってたんだけどな~」
「登校日の存在は忘れてたな」
明日の登校についての愚痴をこぼしながら夜は更けていった。
翌日、夏の時期には珍しい雨だった。
夏の雨は湿り気が特にある。衣類との接着部分は不快指数が高くて何もする気が起きない。
つい除湿をかけてしまうことがある。
週休二日が終わったふわふわした雰囲気の中、高校の通学路を歩いてまた一日が始まる。
また繰り返しの中の1日だと思っていた。
「GQO再販に時間かかり過ぎだよな~俺速攻~予約したけど。」
「公式の体験版やったけどすげえよ。が、機器だけ持っててもな~」
「え~、あれ面白いの??なんかうちら的にいつものと変わんない気がするんだけど。」
耳に入ってきた教室の話題は俺たちの今まさにプレイ中のゲームだった。
男子だけならともかく女子までもが興味を持ち始めていることにはさすがに驚いた。
しかし、やはり公式サイト通り再販には時間がかかるらしい。
サーバー分断が決まっているゲームでの世界は案外狭い。
自分の知り合い、つまるところのクラスメートとの接触確率も格段に上がる。
この際これでこちらとしては大助かりな部分がある。
盛り上がっている中で、新が俺それやってるぞ~などと言わなかったのは本当に幸いだった。
やはりこいつは案外空気の読める一面もあるのかもしれない。
と、一人の男子生徒がドアを開け入ってきた。名は時沢下の名前は覚えてない。
なにせクラスでの呼び方が時沢一択である。
優雅な振る舞いを心がけているのがまるわかりなやつだ。しかしやつは社長の息子らしい。まあボンボンというやつだ、
「なんの話をしてるんだ??」
机の横に鞄をぶら下げながらクラスの会話に加わっていく。
ひどくわかりやすい腹が立つ高圧的な言い方に最初はみなムッと
していたが、1学期を経て慣れたのか関わっていくうちにスルーしていた。
「おお、時沢か。いやさ、話題のゲームあるじゃん、GQOってやつ。それ面白いからやりたいんだけど、
再販に時間がかかるって話。」
「私たちもやってみたいんだけど、どうにかならないかなって」
「ああ、そのゲームならまだ在庫あるよたくさん。俺もやってるし。」
は、と思わず傾けていた耳の方向に顔を向け時沢がこちらを向く。
目は合わせないようにすぐそばにいる新に目線を向ける。
新も驚いていた。あいつは表情を隠すのが苦手だから好都合だ。
時沢が俺に視線を送ることで、新のバレバレな態度は隠し通せた。
状況は当然のように、まじかよ時沢!!くれ!!、1万までなら出す、頼む、お願い~などと
時沢を囲んでおねだりに移行し出した。
男子なら断っていただろうが取り囲みのメインは女子だ。うちのクラスの男子は交渉の術を良く
わかっているようだ。
これにはやつもタジタジといった様子で、面倒くせーな、などと言いながら顔はにんまりと
頬が緩みまくりだった。
そのまま話は、トントン拍子に進み、今日時沢の家に遊びに行くという口実で
ゲームをもらうらしい。さすがの太っ腹というべきか。
そんな勝手な話、個人のエゴが許されるわけもないが、面倒臭いのでスルーだ。
だがしかし、
「まじかよ。じゃあ、みんなでできるな~。」
ここまでは想定内だ。
「そういえば、福嶋くんこれ持ってるって話してたよね~!」
「やった、なら一緒にやろうよ。」
「勝守くんも一緒だったよね。」
「なんか意外かも、勝守君ガリ勉のイメージだったけどやるんだ~。」
ん??
なんかさらっと俺も言われた気がする。話に思わず、目を向けると、
女子軍団がこちらを見ながら談笑している。
キッと新を睨みつけると、両手を前で合わせ頭を下げる姿が見られた。
推測するに、女子とのパイプも持つ人当たりのいい性格と絡みやすさ、加えてイケメンの成分、
女子が放っておくはずもなく、会話は弾む。
その中でつい短所といえるお調子が出てしまい、口を滑らしたというところか。
だが、あの暴力事件(一方的に殴られた被害)以来は、登校はしてない。
携帯端末の会話アプリだろうな。
すぐ目を逸らし、
心の中ではため息。時沢からの視線は感じていたが、無視しようとした。
「おい、勝守お前も来るのか」
周りの女子の雰囲気に流されているがあまり呼びたくないのがまるわかりな口調で
誘ってきた。
「仕方ねえよな!康、行くか!!」
おい、勝手に決めるな。返事はしてない。
というかお前、呼ばれてないよな。新・・・・・・




