quest31 Support ~支え~
お待たせしました。
ではどうぞ!!
セントラル サンシア地方 噴水前
噴水前は静まり返っていた。
奇声をあげたルッコ以外は茫然とし、特に藍色の髪の毛の青年は目を見開いたまま固まっていた。
「驚いた。こんなにも大きな声を出せるなんて。」
彼の開口一番はこの一言だった。
アルと私はこの一言で正気を取り戻し、ようやくアルがあいさつに行きつく。
「こんにちはネ。ワタシはアルっていうネ。職業は武道家、よろしくネ。」
アルの挨拶が終わり、ボーっとしていた私に青年は視線を向けた。
慌ててあいさつをする。
ーーーーーー男の人~~。普通に。普通に。自然体を意識して。よしっ!!
「わ、私、ナギって言います。職業は自由です。今日はよろしくお願いします。」
彼は、私とアルを見た後、ゆっくりとうなづいて左手を右肩に触れさせ首を下げあいさつをした。
「僕は、レツィエと言います。ジョブは、皆さんわかっていると思いますが戦士です。
今日は、よろしくお願いしますね。」
「ほらルッコ挨拶するネ。」
「ルッコです!!大学生です。よろしくお願いします!!」
「よろしく」
ルッコの雑な挨拶にも彼は、笑顔で答える。
ーーーーーーーーーーー爽やかだな~~。
「リーダーは誰がしようか??」
「レツィエさんで!!」
ルッコが考える暇もなく発言する。
「二人はそれで構わないかな??」
レツィエと呼ばれる男性はアルと私に視線を移し、確認を取る。
「問題ないネ。」
私は、首を縦に動かすことで肯定を示した。
「わかった。それでいいなら、そうしよう。あと、同年代なんだからタメでいこう。
敬語や丁寧語は距離を感じるからね。」
「同年代なんですか??嬉しい!!」
ルッコが興奮のままそれにこたえる。
「うん、僕も大学生だから。」
「へぇ~何回生ですか??」
「え、え~と・・・・・・」
「ルッコ、レツィエさん困ってるネ!!」
アルがやっとのことで暴走していたルッコを鎮めてやっと本題に入っていく。
「それでレベル上げをするとなると場所はどうするネ??
アルたちは昨日スフィーダの1階を攻略したネ。」
「え!本当かい??」
彼は、私たちがスフィーダの1階を攻略したことにひどく驚いた様子だった。
「ってことは、あのフロアボスを騙しの巨人を倒したの??」
その質問はルッコやアルではなく私に向けてだった。答えずにはいられず、言葉を選んで返答する。
彼は、敬語は不要と言っていたけど大学生で男性となれば取り除くことはできず、やはりいつも通り
で答えた。
「ええと私たちはもとは5人のカメラート進んでいたんですけど、ちょっとトラブルがあって二人と三人にに別れてしまったので少し語弊があるかもしれません。それに私たちだけのちか」
私たちだけの力じゃありませんという重要な言葉は遮られてしまった。
「すごいよ。確か攻略したのは掲示板でも数えるほどだったと書き込まれていた。
君たちは優秀だ、君たち以外の残りの二人を含めてそれをやってのけるなんて手馴れてるね。
期待できそうだ。」
トラブルにつっこむということはせず、称賛を与える辺りはさすがだなと思っていると
「っていうことは三人は右回り順路と左回り順路のどっちかを経験しているということで間違いない??
それともその三人に別れた方にみんないたのかな??」
この質問にはルッコが答えた。興奮状態はすっかりなくなっていた。
「私とナギ、えっと銀髪のほうね、が右回り順路のほうでアル、一くくりの女の子が左回り順路の方で
すすんでいったわ。」
「なるほどわかった。ごめん少し興奮してしまった。掲示板でもかなりレスが賑わっていたからね。」
「大丈夫、ルッコほどではないネ。」
「ちょっと、アルやめてよ。」
そのやりとりをみて彼はおもしろそうにはははと笑っていた。
少しして彼は決心したように見えた。
「よし、じゃあ、そろそろいこうか!!後方支援はルッコよろしく。あとは前線でいいよ。みんなのレベルは35前後だから西のフィールドポイントから少し深くまで行ってみよう。
奥に行く前にみんなの戦いぶりも知っておきたいしね。」
「わかりました。レツィエ様~~」
「了解ね。」
「うん」
一人完全に虜になっていたがようやく冒険である。
ーーーーーーーーーー西のフィールドポイント 15:00
時刻は3時をまわったところ、レツィエさんの言った通り、西のフィールドポイントにやってきた。
私はコウに助けられた以来だったが、ルッコがシンとアルで一度レベル上げに来たことがあるとレツィエさんに話していた。
私には、苦い記憶があったので少し緊張していた。
リーダーであるレツィエさんはフォーメーションを説明してまさにそのフォーメーション通りの位置で前進いている。
今回はArrow↑(上矢印)の形で少人数体制の基本の形らしい。前線に3人以上、
銃後※(後ろの人)が一人以上で組める簡易フォーメーション。
防御役が最前線の矢印の上の部分、左右線対称になるように私とアルの攻撃役
が組んでいる。真ん中部分では攻撃を受けにくく回復を行いやすくするするために回復役が
待機している。
一見なんでもないフォーメーションでもかなり隙のないものと言える。
前回と同じように霧が立ちこんでいる。前方からの敵に対して身構えていた私は視界が自分でも気づかないうちに狭まっていたのかもしれない。
「ナギ、いったよ!!」
振り返ると私とルッコの間から一体のマッシュが霧からすごい速さで突進してくるのが見えた。
「わっ!!」
動転した私は、直にマッシュの突進攻撃を受けて吹っ飛んでしまう。
「大丈夫!?」
慌てて寄りかけてくるルッコ。
「ルッコ、レジリエンスを。」
「え、うん」
「アルは敵を倒してくれ。防御は僕が引き受ける。」
防御役のレツィエさんが素早く指示を出す。
「レジリエンス」
詠唱とともに緑のイフェクトで体力がすぐ満タンになった。
尻もちをついていた私にルッコが手を差し出して立ち上がらせてくれる。
「ありがとう」
感謝を伝え、戦況を見つめる。
ちょうどレツィエさんが私の無事を確認してマッシュの攻撃を盾と大剣ではじき返した。
ひるんでいる隙にアルが氷爪で一発で敵を倒す。
「どうかした??」
当然この質問が飛んでくることは予想できた。
なので答えはすぐ出た。
「ごめんなさい、少し緊張してしまって、決まった人以外でカメラートを組んだのは初めてで。
特にはなにもありません」
「そっか、まだまだ打ち解け切れてなかったか~じゃあしょうがないね。あんまり緊張しないでね。
っていっても無駄か~ははは」
本当に笑顔が似合う人だ。世間一般のイケメンの中でも上位だと思う。
「あれ~ナギってばまだレツィエに緊張してんの~??」
また意地悪い笑いを浮かべながら、茶化してくる。
ーーーーーーあなたがコミュ力高すぎなだけだ
「ナギ、そこまで気負わなくてもいいネ。」
首肯で答えると、
「よし、じゃあ、気を取り直していこうか。の前に少しアルとルッコきてくれないか??」
継続を促すレツィエさんがなにやらルッコとアルに対して、話し込んでいる。
すぐに二人は奥の方に歩いて行った。
私も二人のあとに続いて行こうとすると
「じゃあ・・・僕たちもいこうか・・・」
突然耳もとで囁かれた、
ビクゥと肩に力が入り、動けなくなった。
ドクン、ドクン、心臓が激しく活動している。
自分でもポンプとしての臓器が活発になるのがわかる。
ナギ?ナギ??私を呼ぶ声がする。
「ごめんごめん、驚かせた。まだ僕の事怖い??」
「い、いえそんなことはないです。」
「ごめん、二人には、少し先を行ってもらったやっぱり連携は大事だからね。」
「うーんそれとやっぱり敬語は取れない??壁があるようだからなんか寂しいんだけど。」
「ごめんなさい、まだ慣れなくて」
そう言うと彼は、少し眉をひそめたがすぐに元に戻り、
「こっちのフィールドポイントでなにかあった??」
核心を突かれ彼を思わず見てしまう。
「なんかあったみたいだね。」
そういってまた笑うレツィエさん。
私の中では少しの疑念が生まれていた。
「なぜ私が男性の人を怖がっていると??」
そうか、といった風な仕草のあとに
「あの二人から聞いたよ。悪かったかい??」
「そんなことはないです。少し疑問に感じただけです。」
「それで、こっちのフィールドポイントでなにかあったみたいだけど??」
話をそらそうとしたことに関しては察することはできないようだった。
「大したことじゃないんですけど、前にここで死にそうになってしまって・・・・・・」
彼はすぐに真剣な顔で尋ねてきた。
「死んだのかい??」
「いえ、間一髪のところを助けてもらって」
「それはよかった。」
ひどく安堵した様子だった。
「それで、助けてくれたのは誰なんだい??」
「えっとそれは・・・・・・」
「なにかあるのかい??」
「い、いえなんと言えばいいのかなって。」
「ん??特徴は??」
「特徴は背はレツィエさんより少し小さいです。背が高いところは変わりません。
髪は、えーとなんだっけ??そういえばローブだから・・・・・・」
ここで気づいた。知らなさ過ぎた。私の冒険の半分以上を占めていた時間を過ごした。
容姿について曖昧なところがありすぎた。
「黒ローブ!?」
彼はまた驚いた。本当によく表情が変わる。
「はい。初めて会った頃からそうでした。」
「へえ~そうなんだ。まあVRRPGは基本そんなもんじゃないかな。」
それからまた少し話をしてつい言葉がでていた。
「私、助けられてばかりなんです。その人に、まだ知り合って1か月も経ってないのに
2回も助けてもらいました。
3度目は嫌です。レベルはみんなについて行っただけでお飾りみたいなものです。
私の失敗が原因なんですけど、みんなの力に頼り切らない
一人でも戦えるようになりたいんです。」
「いい心がけだと思う。君のトラウマを克服してほしいことが僕の願いなんだけど。
やっぱりいちユーザーとしてもプレイヤーとしても楽しんでもらいたい。
じゃあ、次に出くわした敵には君一人で戦ってみよう。」
答えあぐねている私に向かって話しかけてくる。前方から敵の影。
レツィエさんは私から少し距離をとり、呼びかける。
「ほら!!噂をすればだ!!マッシュだ。ルールド化してる。
さっきの借りを返すには、絶好の機会じゃないか。
こいつを倒して嫌な思い出は早く消しちゃわないとね!!」
「大丈夫!!君ならできるよ。」
「危なくなったらすぐに助けるから。」
不安だったけれど、彼はついてくれるといった。その言葉が後押しになった。
「やってみます!」
不思議と彼の言葉には、勇気がでた。
敵モンスターと向き合う。モンスターは様子を窺っているようだった。
ここで、攻略サイトの情報を思い出す。
習い事の空き時間には情報端末で予習をしてきた。
このための準備でもあったし、なによりこのゲームでは情報がなにより
大事なのはβテストで身に染みている。
ルールドマッシュ、通常のマッシュより攻撃力をはじめとするパラメーターは高いが
経験値も多いルールドモンスター、突然変異ということでプレイヤーには認識されている。
マッシュはその名の通り似たキノコのマッシュルーム。
傘は通常なら丸いので突撃時の衝撃ほどのダメージは負わない。
が、ルールドは違う。
傘は鋭い刃物。突撃を受ければ衝撃よりも刃物で一突きされる方がダメージは多くなることは
想像に難くない。
サイト情報なら、ダメージは通常のダメージ以外にも出血状態による追加ダメージも実装されている
とかかれてあった。
さっきのモンスター別物だった。
やはり見たことがあるかもしれない。
コウに会って逃げろと言われた時も木の陰から戦っている姿は見ていた。
「ナギ、君ならできるよ!!」
伯母さんからあなたはできるからしなさい。いつも聞かされる期待の塊のような言葉だったけど
彼に言われた時は悪い気持ちはしなかった。
敵に集中する。
背中のベルトにつるしてある短剣を握りしめて突進攻撃に備える。
あまりスピードが出ていないが、ルールドマッシュがむかってくる。
私も短剣で切りかかる。
しかしマッシュは突撃ではなく、切りつけた攻撃に対して傘を盾にして払いのけ
その攻撃は傘の部分に当たった。数ミリ程度の緑ゲージが減少する。
前よりは成長してる。少しずつ減らしていこう。
長期戦覚悟だった。本来ならもっと攻撃の数を増やすべきだけど、ルールドモンスターはなかなか出会うことはない。慎重な戦闘でも倒すべきだった。
距離を取り、彼を見る。
大丈夫、問題ないよ、と微笑んでいた。
距離を取ったのには、狙いがある。
簡単だ。突進攻撃を誘発させるためだった。
その願いが通じたのだろうか、右足で砂を蹴り、闘牛のような体勢になった。
すぐさまルールドマッシュは、スピードを上げてくる。
避ける、その背後を狙おうとまっすぐな突進に対して少し外側から回り込んで
追撃する方法を取ろうとした。そして、避けた、チャンス!と追撃に足を動かす。
が急にマッシュとの距離が近くなる。気づいたときには傘の先端が近くなり衝撃に備えて、
瞬間的に両手を出して急所を庇う。
「ナギ!!」
叫ぶ声が聞こえた気がした。
グサりと自分でも聞いたことのない音が皮膚から伝わる。素早く離れる。
刺されたのだと認識するのに秒は経たなかった。痛覚が刺激される。物理ダメージは
あの巨人の時もあったけど初めて味わう出血ダメージには精神的にくる。
目で見て再確認する。刺されたのは肘より高い位置、肩口との空いた隙間部分だった。
布で覆われていない部分を突かれた。妙に現実的な血のイフェクトが目に映る。
寒気がする。
レツィエさんは駆け寄ろうとする。
リーダーの責任を感じているのかもしれない。無理だと思ったのかもしれない。
でも今はまだ待ってほしい。
「待ってください。まだできます。」
静かに言い、意志を伝える。
きょとんとした顔だったがすぐに
「わかった。体力ゲージは半分、大体2割を下回った瞬間に戦闘を止める。
アドバイスだ。わかったと思うが、傘は耐久度が高い。狙うなら身を狙え。
盾を持たない君には、真正面からは厳しいし、迂回して攻撃しようとするとすぐに
切り返して攻撃する。機転が利くようだ。接近戦がいいと思う。短剣は
フットワークがウリだから、手数での方がこの場は良いと思う。
思いきって行こう。」
そして彼は離れて、敵のマーク外に距離を取る。
「敷かれたレールには抗ってみせる。」
確か・・・・・・
敵が地を蹴った。 ・・・
私もそれをみて敵に真正面から向かう。
衝突するであろう場所で最高スピードになるように徐々に上げていく。
ここで!!
素早く短剣を抜いて力を入れすぎず刃を敵に立てるようにしてに走りきる。
ルールドマッシュの奇声が響き、青白い光を発する。
ドスッと気の抜けた私はその場にへたり込んでしまった。
たかが10分の戦いだったかもしれない。実際には30分にも感じられた。
ため息をついていると
耳元でささやかれた。
「やったじゃん。」
キュッとまた身が縮まった。
安心したような声色だったので、すぐに力を抜く。
「ありがとう、ございます・・・・・・」
「本当に驚いた。手数の効いた攻撃を選択するかと思ったけど、僕の予想を斜め上に行く戦闘だった。
すごいよ。」
「これもさっき聞いただけなんです。さっきの黒ローブの人が実践した方法らしいです。」
「へえ~そんな動きができるとはすごいね君のお友達は。というかすごく考えられてるね。」
「やっぱり、なおさら会いたくなってきた。」
「まあ、そのうち会うかもしれないから急がなくてもいいかもね。」
少し間を空けて
「どう??もう吹っ切れた??」
本当にリーダーなんだなこの人はと思いながら、
「自信がついた気がします。レツィエさんのおかげです!!」
そう言ってやっと実感が湧いてきた。
だけど、ここで過剰になってしまった昨日のことを思い出して、自分を戒める。
「それじゃ、二人を待たせてるから行きましょう。レツィエさん。」
なぜか少し間があった。もう一度顔を見直すと、はっとして
「ああ、君には、いやナギには驚かされるばかりだ。おもしろすぎるよ。」
笑顔で言った。
「でも回復はしないとね??」
おどけながらレツィエさんは体力ポーションと止血の回復と思われる包帯みたいなものを渡してきた。
ポーションはすぐに飲むが、包帯をじっと見つめる。
「あれ、包帯の巻き方しらない??ほら貸してみて。」
包帯が彼の手に渡り、すぐにまき始める。
自然と顔が近くなり、動悸が激しくなる。
「よし、完了。この包帯は、回復していくと自然に消えるから気にしないで。」
ナギとレツィエはすぐに二人と合流して四人は奥地に進み敵を倒していく。
と言っても新しいモンスターは現れず、レベルが高くなっているだけだった。
順調にレベルは上がり、時間は流れていった。
それから、四人は安全な場所に着いて、カメラートは解散となった。
解散時には、メイトで登録し合い、また今度冒険することを約束した。
帰り道、アルと二人で歩くルッコ。
ルッコがぼそっと髪を掻きながらアルに言った。
「あれ~~もしかして恋のベクトル間違えた??わたし」
「さぁ~??まったくわからんネ。ナギのことかネ??」
「当たり前よ。私レツィエ様狙ってたけど正直パッと見微妙。」
「まあ、たしかに普通の戦士だったけど理想押し付けすぎネ。」
「恋は、つらいわ。」
「なに言ってるネ。そんなに多く恋愛してないネ。」
「うるさいわよ。まあいいわ~おつかれさま~」
すっかり当初の計画は行方不明だった。
次回は一周年の二月某日にお会いしましょう。




