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紫桜の下で

作者: 庄直ネムイ

生まれて初めて書いた小説です。最後の頃は急ぎ急ぎになってしまいましたが、感想などあればよろしくおねがいします。

僕の名前は田中雅昭。

どこにでもいそうな高校二年生をやっている。

ただ他の高校生と違うのは高校には登校していない事。

いわゆる不登校児と言うやつだ。

別にイジメられてる訳でもなく、多くはないが友達がいない訳でもない。 

いつからだろうか。

そこに行く意味を見いだせなくなってしまったのは…

不登校になって最初の頃は冷やかしだろう。友達が遊びに来たが、今では誰も来なくなったので毎日パソコンに向かい目的もなくネットサーフィン。

飽きたらテレビゲーム。

一通りのハードは持っている。

それにも飽きたら外に散歩しに行く。

帰ってきたら飯を食い風呂に入って寝る。

最近は毎日これの繰り返しだ。

他の人から見たら暇だろとか言いそうだが、中々充実した毎日を送っている。

そんな生活が続き、季節は冬から春へと変わろうとする頃の事だった。

珍しい事ではないがその日は起きると日は沈み辺りは静まりかえっていた。

「ん…んん…う〜ぅうん…。」(はぁ、また寝過ぎたな…何時だ…?)

ベッドサイドの時計を取り上げ時間を確認すると3月1日10時42分を表示していた。

このまま起きても特にやることも無いので、起きてても仕方ないと思い二度寝する事にした。


しかし、その日は珍しく寝れなかった。

と言うか風の強いのだろうか?外が騒がしい。(うっさいな…寝れやしない。……起きるか…)

体を起こし部屋の灯りを付けた。いつもの習慣でそのままパソコンの電源をいれる。

取り敢えず今日のニュースを見ていると見覚えのある学校の名前が表示されている。

「差名高校に通う高校二年生の女子。遺体で発見。謎の死。」

僕の通っている(いた)学校だ。しかも同学年。

僕は気持ちが高ぶった。

正直、驚きよりも好奇心が先行してる。人が死んだというのに楽しんでいる。誰なのか気になる。知り合いかも知れない…

知り合いだったとしても悲しむ事はないだろう。所詮は知り合い程度の関係。

きっと

「あいつが死んだのか!」と言いながら笑うに違いない。

自分で言うのも何だが嫌な奴だ。

クリックするとすぐに詳細が表示された。

「昨夜未明、差名高校に通う高校二年生の女子の遺体が学校近くの公園の木の下で発見された。腹部を数ヶ所刺された痕がある事から警察では他殺の可能性もあると公表した。」

学校近くの公園…

僕はすぐに分かった。

と言うより同じ学校に通ってる人なら知らないはずがないぐらい有名な公園だ。

昼間は子供連れの親やペットと戯れる人が多く夜になるとカップルやホームレスが集まる。

人通りも少なく無くいつでも人がいるイメージだが…

あ、それと中心には立派な桜の木がある。詳しい事は分からないが、なんでも何百年も昔からあるらしい。

僕は公園に行きたくなった。

別に深い意味は無い。暇つぶし程度だ。人が死んだ場所だと言うのに不思議と怖さは無かった。それよりも珍しいものが見れると言う好奇心でいっぱいだ。

さっさと着替えを終え部屋をでる。シーンと静まり返った我が家。

親を起こさないようそっと進み、玄関を閉めた。

外はすごい風だった。空き缶がカラカラと音を立てながら転がっている。

「さて行きますか。」

ジャンパーのポケットに両手を突っ込み、少し走るように歩き出した。

街灯など一切無く道は暗かったがさすがに通い慣れた道。

すぐに着いた。

いつもなら人が多いのだが、人が死んだばかりだからだろうか。当たりには人気は無く、周りの木々だけがザワザワと音を立て少し不気味な感じがした。

「さぁて、どこでしょうかね」

僕は歩き出した。

ニュースでは具体的な場所など出ているはずが無いが公園に行けばドラマみたいにテープで囲まれてすぐに分かるだろうと思っていた…のだが…

しばらく徘徊したがそれらしきものはまったくない。

風で飛んでいってしまったのだろうか?

「んな訳ない…か」

しかし一向に見つかる気配は無い。

風が強くなり体が冷えてきた。

「諦めて帰るか…」

そう思い来た道を引き返そうと中央の桜の木の下に小さく人がうずくまっているのが見えた。

女の子だろうか?遠いここからでも小柄な体型だと分かる。髪は肩にかかるぐらい、制服っぽい服装をしている。

少し霊的なものかとも思ったが入り口は桜の木を曲がればすぐだ。わざわざ回り道するのも面倒だし、人が死んだからと言っていきなり幽霊と言うのも…イタズラか…とか思い、ちょっと早足で少しづつ近づいて行った。

グスッ…ズッ…ズッ…

その娘の近くに差しかかった時、聞こえた声。

グスッ……

よく見ると僕の通ってる学校の制服。

そしてその娘は泣いている。

はっきり言って不気味すぎる。

真夜中の人が死んだ公園に女の子が一人うずくまって泣いている。

僕は素通りしようとした。

が、気づいたら話しかけていた。

男の使命感と言うやつだろうか。

ほおっておけなかった。

「ぁ、あの…大丈夫ですか?具合でも悪いの?」

僕の存在に気づいて無かったのだろうか、話かけられたその娘はとても驚いた顔でこちらを見ている。

(あれ?どこかで見たような…)

続けて僕は話だす。

「差名高の人だよね?僕も差名高……」

「す、すいません!あ、大丈夫ですから!大丈夫ですから!」

(なんだよね…)

その娘は僕が話している途中で逃げるように入り口と反対方向に去っていった。

(な、なんなんだ?変な奴だな…人の話ぐらい聞けよ…)

その娘が去った後、僕は霊的な物では無かった安心感と変わった女の子に出会ったの面白さが入り混じった変な感覚のまま帰宅した。

部屋についた僕はパソコンでニュースを見た。

しかし、事件は進展していないようだ。

時計は2時5分を表示している。

僕は寝ることにした。

さっき会った変なん女の子を思い出しながら。

(本当に訳の分からない奴だよな……)


翌朝、目が覚めると夕方だった。

正確にはもう夜と言っても言ってもいいくらいの時間だった。

(んん…さてと…)

僕はいつものようにパソコンへ向かう。

ニュースをみるがやはり進展無し。

「さぁて…」

僕はまた公園に行く事にした。

というよりは公園に行く為めにこの時間に起きたと言っても過言ではない。

早々に用意を済ませ公園に向かった。

(今日こそ見つけるぞ。)


公園について驚いた。

そこには昨日うずくまった娘が同じ場所に、同じ格好で居たのである。

僕は周りを調べるついでに、と言うか面白半分にその娘に話しかける事にした。

「昨日はどうしたの?」

また驚いて逃げると思っていたが予想に反してその娘はゆっくりと恥ずかしそうに喋りだした。

「ぁ、き、昨日の方ですか?す、すいませんでした。突然逃げちゃって…誰もいないと思ってたから…」

彼女は申し訳無さそうに何度も頭を下げる。

「き、気にしなくてもいいよ。僕だって突然話しかけられたら逃げ出すよ!きっと。」

彼女が頭を上げ顔がはっきり見えた。

(……!思い出した。確か、隣のクラスの…加藤由衣。あまり目立つ存在では無いがけっこー可愛い。学校の男子にも人気があった。たしかいつも眼鏡をかけていたと思ったが…)

「加藤だよね?眼鏡かけてないから分からなかったよ!」

僕は問いかけると不思議そうにこちらを見ている。

しばらくすると今にも

「あっ!」と言いそうな表情をして話しだした。

「あれ?田中君?学校こないで何してるのよ!」

なぜか少し怒り気味だったが話を続けた。

「学校か…何でもいいじゃん。それより眼鏡はどうしたの?」


そう言った瞬間、彼女の顔が一転し悲しそうな表情をしている。

今にも泣きそうだ。


「……置いてきた……」

弱々しい声でそう言った。

「置いてきた?普通、眼鏡を忘れるか?」

僕は笑いながら冗談混じりでそう言うと彼女は僕に背を向け走り出した。

「ど、どうしたの?」

少し離れた所から叫んでいる。

「何も知らないくせに!」

彼女はそのまま昨日と同じ方向へ走り去った。

何も知らないくせに?

全く理解出来ない。

なぜ眼鏡ぐらいで…

しかし僕が言った事で怒ってたのは間違いない。

僕は全力で追いかけた。

運動不足のせいですぐに息が上がってしまう。

公園全体を走り回る。

「はぁ、はぁ、はぁー。ど、どこに行ったんだよ…。また泣いてるのかな…はぁはぁ…」

僕はもう走れないぐらい走った。

隅々まで探した。

しかし彼女を見つけることは出来なかった。

久しぶりに走ったせいでどっと疲れがくる。

「帰るか…」

諦めたく無かったが体が言うことを聞かない。

僕は当初の予定を忘れ帰宅する事にした。

家に着くとすぐにベットに倒れ込んだ。急にこれだけ走れば無理もない。そのまま僕は寝てしまった。


事件現場探し三日目、僕の目的は変わっていた。

加藤に謝る。

なぜだか謝らなくてはいけない気がした。

しかし同じ場所に三日連続で会えるだろうか?

不安はあったが日が沈んだ時間、いつもの公園に向かった。


いた。

加藤がいた。


同じ場所に。

僕には探してください。見つけてくださいと言ってるような気がした。

わざと気づかせるように足音を大きくたて加藤の方に近づいた。

「田中君?」

加藤が気づいた。

僕は間を入れず謝った。

「ごめん!よく分からないんだけど…眼鏡…本当にごめん!」

「私こそごめんなさい。眼鏡ぐらいで怒ったりして…」

やはり怒っていたようだ。

「許してくれるかな?」

加藤の顔を見ながら聞いてみた。

今日も眼鏡をしていないようだ。

「悪いのは私だから…私の方こそ許してほしいな…」

「いゃいや、悪いのは俺だから」

「いや、私よ」

こんなやり取りがしばらく続いた。

途中、笑いながらも続けた。

結局無駄に時間だけがすぎ、お互いがお互いを許すと言うことで決着がついた。

「はぁ、なんか久しぶりに人としゃべったら疲れたな。そろそろいい時間だし。帰るか?家まで送るよ?」

そう言うと加藤は慌てた様子でこう返してきた。

「あ、うん。私、家近いから平気。じゃ先帰るね。おやすみ。また明日!」

そう言うと加藤はいつもの方向に行ってしまった。

「あ、ちょ、加藤。」

僕の声はまったく届いてないようだ。

(また明日…か…)

その言葉が気になりながら僕も帰宅した。

(明日も来てって事かな…)

もちろん、次の日も加藤はいた。

そして下らない話をして帰る。

そして次の日も…また、次の日も…


月日は流れ、公園の桜も満開になる時期になった。

僕は完全に事件の事など忘れ、加藤に会いに毎日公園に行っている。

ぶっちゃけ好きなのかもしれない。他人に興味を持っている。それが好きだと言う事なのか?


朝は加藤が学校とか塾があるらしく寝て過ごす、夜は加藤と公園で話す。いつも先に来ていて先に帰る。


話の内容なんて親とか学校の事とか、そんな話は全くせずお互いの趣味とか流行りとか下らない話ばかりしている。

そのうちに時間が過ぎる。

先日、ペアリングが欲しいと言うので望み通り買ってプレゼントしてやった。

もちろん金など無いので安物だが…

しかしとても喜んでくれた。

喜んだ顔を見るとたまらなく嬉しかった。

笑った顔が愛しかった。

きっと…

これが…

恋……


本気で人を好きになることを始めて知り実感した。

遊びじゃない…

いつまでも一緒にいたい…


僕は決心した。

次に会うときは必ず言うんだ。僕の気持ちを……


そして、いつものように夜がやってきた。

例のごとく加藤は先に待っている。

「ごめん。待った?」

「待ったよ〜」

いつもの会話だ。

でも僕はいつもと違う。

言うんだ。

「好きです」と…


「…君……中君…?」

加藤が呼んでいる。

「どしたの?元気無いね?ははぁん。さては寝起きだなん?」

「ん、ぅん。」

僕は覚悟を決めた。

「実はさ。俺…加藤の事が…」

言いかけた瞬間、加藤が大声で怒鳴りつける。

「言わないで!お願いだから…それ以上…言わないでよ…」

僕は戸惑った。

今まで聞いたことの無いぐらいの大きな声で怒鳴られた。

「お願い…」

少し泣いているようにも見えた。

しかし言いかけた以上最後まで言い切らないと。

僕は迷った…

無言の時間が訪れる。

やけに時間が長く感じる。

重く辛い時間。


耐えられなくなり僕は口を開いた。

「加藤。聞いてくれ。」

加藤は泣いていた。

「加藤……僕は加藤が好きだ。」


また重苦しい空気に包まれ時間だけが過ぎる。

一秒が何時間にも感じられる。

「私も…田中君が……好き。」

加藤はそう言った。

僕を好きだと言ってくれた。

しかし次に口にした言葉は意外な言葉だった。

「でも…でも…ごめんなさい。私は…私は田中君と一緒にいられないの…」

僕は理解出来なかった。

(え?好きなのに一緒いられない?は?なぜ?)


突然強い風が吹きつける。

桜の花びらが舞い上がる。

月明かりに反射して妖艶な紫色に光っている。

僕は見入ってしまった。

初めて見る紫色の桜。

普段のピンク色とはまるで雰囲気が違う。


花びらが舞い散る中、加藤は突然立ち上がった。どうやら泣き止んだみたいだ。

少し明るい口調で喋り出した。

「田中君。ありがとう。でも、田中君の気持ちを受け入れる訳には行かないの。」


「だって……私……」

そこまで言うと黙ってしまった。

また沈黙が訪れようとしていたので僕は耐えきれず口を開いた。

「何なんだよ…黙ってたら分からないって…」



「ワタシ…死んでるから……」



僕は加藤の言葉が理解出来なかった。理解しろという方が無理だ。

(死んでる?誰が?加藤が?じゃ目の前にいるのは?だれ…)

「は、ははっ…何言ってんだよ…生きてるじゃないか。俺の目の前にいるじゃないか!冗談にしては笑えないぞ!」

加藤は悲しそうな顔でこちらを見つめている。

今にも泣きそうだったが我慢しているように見えた。

そして興奮気味の僕の隣に座り話し出した。

「……田中君、聞いて。私は殺されたの。理由なんて分からない。ただこの木の下で読書をしていただけなのに。たぶん誰でもよかったんだと思う。座ってる私のお腹に刃物を突き刺し逃げて行ったの…」

加藤は服をめくり、お腹についた傷を見せてくれた。

「犯人はまだ捕まってない…」

僕は話を聞き終えた瞬間、忘れていたあのニュースを思い出していた。腹部を数カ所…まさかあの事件の被害者は…加藤…

加藤は僕の考えを読んだかのように悲しい顔でコクっと頷いた。

もしかしたら声に出ていたのかもしれない。

しかし意味が解らない。

いきなり死んだと言われても現に目の前には加藤が立っている。

困惑している僕を困った顔で見ている加藤は話しだした。

「だから…私は田中君が好きなのに一緒にいられないの。そして、今夜が最後…私は帰るの…天国へ」

いきなりの事でまったく理解できない。

死んでるの次は帰る?

天国って?もう会えないのか?

加藤は小さく顎を引いた。

そして泣き出した。

「私が…私がここにいられる…のは……見つかるまでの間だけ…だったの…」

さらに泣き出す加藤。


「何が?!何が見つかるだって?」

必死で訴えたが加藤は下を向き泣いているだけだった。

「もう少し…早く…会えてたら、よかった…ね?」


そう言うと加藤の体が見る見る透け、後ろの桜の木が加藤ごしで見えていた。


「加藤!待っ…!」


言葉を言い終えないまま加藤は消えていった。

「加藤…」

その場に立ち尽くし、空を仰ぐ。

紫色の桜の花びらが降り注ぐ。

加藤、加藤、加藤、加藤……


加藤は消えた。天国に行った。死んでいた。

そして…

好きだった…


「加藤…うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

声だけが虚しく辺りを響きわたっていた。



次の日、一睡も出来なかった寝不足と加藤の事が頭を巡り巡り、頭は崩壊寸前だった。

習慣とは恐ろしいもので、そんな時でもパソコンを起動させニュースを見た。


あの事件が解決していた。

腹部を刺されて死亡したのは加藤だった。

加藤が見つかったと言ったのは


「体」


加藤の体が見つかったと言う意味だったらしい。

ニュースによれば死体は川の底から見つかり、犯人特定、検挙のきっかけになったのは

「眼鏡」だそうだ。

意味はわからないが、そう言う事らしい。

「加藤…」



僕は思い出すだろう。

紫色の桜を見るたびに。

死んでも死にきれず、

桜の木の下であった、

悲しく、切なく、楽しかった思い出を………

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― 新着の感想 ―
[一言] 女の子の最初の登場でオチが予想でき、やっぱりその通りでした。なのに主人公もそう思いながらも「幽霊じゃない?」と思い直したことから、結局最後まで引き込まれてしまいました。単純なのに二重の罠………
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