壊し、壊される
4話目です。
ラウさんの毒舌が炸裂します。
では、どうぞ。
本来の持ち場であった戦線の後衛に戻ると、戦況が報告された。
「前衛部隊は半壊滅状態ですが、相手の残存兵力は1割程度かと」
それを聞き、ラウはその抑揚のない声で精一杯の皮肉を吐いた。
「捨て駒が功を奏したようですね、スレイマン」
「やむを得ぬ犠牲ですよ、ラウ様」
苦笑するヴィルヘルムを尻目に、彼女は砂を蹴る。
「いつものことではありますが……機嫌が悪いですね」
「感情もないのに機嫌も何もないでしょう」
答えは、彼ではなく自分に言い聞かせるようなものだった。
「私はガイル・ホプキンスの作った兵器なのですから。この瞳も、この腕も、全部全部偽物なんです」
ラウは自分の手を空に向けて伸ばす。
どうしても無機質に見える皮膚をぼんやり眺めながら。
「私どもにとっては貴方こそが本物であり、貴方らしい姿だと思うのですが?」
ヴィルヘルムの笑みはそう告げる。
「兵器としてなら、ですが」
ラウの冷たい声に、彼は少しだけ態度を変えた。
笑みが消える。
「…彼を、ホプキンス博士を……憎んでいるので?」
「憎んでいるわけではありません。彼は温かい人です。ときどき……自分が人間なんじゃないかと錯覚するほどに」
朝起きると「おはよう」と言ってくれて。
私に料理をさせてくれて。
それから、それから――…
「では、ラウ様はホプキンス博士を愛しているのですね?」
まさかのリア充思考。
ラウは鼻で笑う真似をすると、底冷えした言葉を発した。
「まさか。私は感情など持っていませんし、あったとしてもわざわざ三十路童貞独身の研究ヲタクを選んだりしません。それと、」
聞き慣れた歯車の音と共に、長剣と化した左腕をヴィルヘルムの顔に向けた。
「次にそんなことを言ったらその口の中を刻みますよ?」
彼の顔が笑みに戻るのを見て、彼女は長剣を腕に戻した。
と、向こうで爆発音が聞こえた。
珍しいことでもない。
追い詰められたドレイク軍が自爆に走ったのだろう。
ラウは、反射的にスコープをOFFにした。
人間の爆死する現場を眺める趣味などない。
目を逸らすというのも、卑怯な話ではあるが――……
「……あの新兵」
自分に感情があるのではないかと、そう言った人間。
彼の名を聞くのを忘れていた。
幼い印象があったが、それでも瞳の奥には兵士らしい戦意が見え隠れしていた。
ああいうタイプの兵士には、――特に白鴉部隊に入った者には――期待はしないようにしている。
今回は後衛だったが、いつか前衛に回されて捨て駒にされるだろう。
何となく性格も分かった。
だから危惧しているのだ。
きっと捨て駒にされたと知っても、彼は喜んで国のために戦うだろう。
戦って、足掻いて、無惨に死んでいく。
ヴィルヘルムの掌の上で転がされているだけだったとは知る由もなく。
そして、それを分かっても何もできない自分が情けない。
その情けなさに対しても、大した感情は浮かんでこない自分には、やはり感情などないのだろう。
『貴方には……感情があるのですね?』
「……きっと、ないんでしょうね」
呟いて目をやると、前線には人がいなくなっていた。
いや、……生存者がいなくなっていた、とでもいうべきか。
死体だらけになっているであろうそこへ、ラウは向かう。
使命を果たすためだ。
『マリナスに向かってきたドレイク軍を迎え撃て』
その言葉には裏の意味がある。
全滅させろ。
一人も逃がすな。
根絶やしにしろ。
スワトリカの粘り強い国民性が生んだ、残酷な命令。
彼女はその使命を果たすため、生存者が残っていないか確認する。
「…ぅ……ぁ」
呻き声を聞き、彼女は左手首から先をピストルへと変形させる。
「……ごめんなさい」
『ラスト・ウェポン』はそう言って、また人を壊した。
いかがでしたか?
感情を中心とした心情描写が多いことに今気づきました←
では、5話目でお会いしましょう。




