6 みんながいる
ついに第一章終了です!!!なお後書きである重大発表をします。では本編へどうぞ!
午後三時十五分 葛篭サイド
さっきから何度も切りかかっているのに刃は奴にかすりもしない。前回戦ったときのように打撃も組み込んでいるのだが、見切られているらしくそれすらも当たらない。日々の修行のおかげで奴の飛ばす瓦礫は全て避けられるのだが、なぜかさっきから息苦しい。もうそろそろ限界だ・・・
「ハア、ハア、これもお前の・・・?」
「いや、それは違うな震少年。お前が疲れているのは力を使いすぎているからだ。個人差はあるが、俺やお前が持っているような異能は使うととても疲れるんだよ。」
疲れ・・・?たったこれだけしか動いていないのに?それだけこれを使うのはキツイということか・・・
「見る限りじゃあと二、三回使えばもう動けないだろ。がんばったとは思うが潔く負けを認めな。」
奴は瓦礫に近づき再び飛ばそうとする。
その時、
「見つけた!勝手な行動をしないように言われたでしょ、葛篭さん!」
どうやってこの場所を知ったのだろう、傘音さんと亜木々がこっちへ走ってきているのが見えた。ただマズいことに奴の注意力もそちらへ向かってしまった。俺っちへ飛んでくるはずだった瓦礫が二人に向かって飛んでいく。
「お、お前ら!危ない!」
狩意にとっても予想外だったらしくかなり慌てている。
「おい、ガキども!頼むからそれ避けてくれ!」
午後三時十五分
方向はわかっているのだが、見つけるのには時間をかけてしまった。間に合ったか?
「見つけた!勝手な行動をしないように言われたでしょ、葛篭さん!」
よく見ると葛篭さんともう一人、背の高い男がいる。まさか・・・
「琴葉ちゃん、危ない!」
いきなりノエルが突き飛ばす。何するのよ!と叫ぼうとしたその時、
ヒュッ ドゴォォン
「え・・・?」
目の前を何か大きな物体が横切り、ノエルの身体をさらっていく。その物体は遠くの壁にぶち当たり粉々になって小さな山となる。
刹那、何が起きたのかわからなかった。
「おい、大丈夫・・・」
「てめぇ・・・俺っちの母ちゃんに続き大切なダチまで・・・絶対許さねぇ!」
葛篭さんは怒り狂って今にも飛び出そうとしている。しかし明らかに顔色が悪い。これはひとまず、逃げて作戦を練った方が得策だろう。
「いったん隠れるわよ。」
「ちょっ、何言って・・・」
とりあえず壁の裏にでも。
「おい、何してんだよ!早くしないと亜木々が・・・」
「そんな事わかってるわよ!誰のせいでこうなっていると思ってるの!?」
言った後、口が過ぎたことに気がつく。これはいけないな、落ち着け私・・・胸に手を当てて深呼吸する。少しずつ冷静になってきた。
「ごめん、言い過ぎた・・・」
「や、こっちこそわりぃな・・・でもどうするつもりだ?急がなければならないことは変わらないぜ?」
「でもここで負けちゃうと誰もノエルを助けられないのよ?やっぱり慎重にいった方がいいよ。まずは現状を全て私に教えて!」
午後三時二十五分
幸い全て聞き出すまで狩意に見つからなかった。戦況、狩意の攻撃方法、葛篭さんの能力・・・などありとあらゆる情報を得た中、あと一つ欲しい情報がある。
「葛篭さん、もう一度狩意と戦ってきて。ただし向こうが攻撃してくるように誘って葛篭さん自身は回避に専念して!」
「?まぁ、それぐらいなら余裕だぜ。」
葛篭さんにそう言うと私たちは狩意を探しに表へ駆けだした。
狩意の姿は割とすぐ見つかった(裏を返せば見つかる寸前だったともいえるが)。狩意にとって私たちの再登場は予想外だったらしい。
「逃げてなかったんだな・・・いったい何をしていたんだ?」
「お前に言う必要はねーな!」
そう言うと葛篭さんは殴りかかるふりをして狩意の攻撃を誘い始めた。どうやらこっちの意図には気がついていないらしく先ほどのように瓦礫を飛ばし始めた。
午後三時半
「どうした?さっきから避けてばかりだな。まさか俺の攻撃の癖でも探っているのか?」
さすがにばれたか・・・だがもう動きは読めている、後はチャンスを待つばかり。
「震少年、お前にこんな小賢しいマネはできないと思うが。ということはそこの嬢ちゃんの入れ知恵か?だが瓦礫はどれも形や大きさが違う、癖はそんなにないはずだぜ?」
確かにあまり癖はない。しかしよく見ると狩意は場合によって瓦礫を使い分けている。ターゲットが遠くにいるときは小さめの瓦礫を飛ばす、対してターゲットが近くにいるときは大きめの瓦礫を飛ばしている。そして小さな瓦礫はよく狙って飛ばしているが、大きな瓦礫の狙いはかなり大雑把なのだ。
私の知っている情報ではまだ狩意の能力はまだわからないがこれだけ動きが勝機は十分ある。
そう思った矢先、
目の前で葛篭さんが膝をついた。限界が来てしまったのだ・・・
「ゲームオーバーだ・・・もう少し早く登場するべきだったな、嬢ちゃん。」
狩意がこちらへ歩み寄ってくる。もはやこれまでなのか?まだ何かやれることはないのか?
ゴツンッ
小さな石ころが狩意の頭に当たる。
「二人に手出ししないでよ!」
「ノエル!?なんでここに!?」
ノエルはあの瓦礫の山に埋もれているはずだ・・・なぜここにいるのだろう?だが運の良いことに一瞬狩意の意識がノエルへ向く。
この瞬間を待っていた!
「今よ、葛篭さん!突撃して!」
葛篭さんが最後の力を振り絞り、狩意に向かって走り出す。反応が遅れた狩意は案の定、大きな瓦礫を飛ばそうとする。
「斜め前に避けて切りつけて!」
いくら大きくても狙いが曖昧なため大きく避ければ当たらない。加えて瓦礫が大きい分、狩意は前の様子がわかりづらいので葛篭さんが右から来るか左から来るか判断できない。
「もらった!!」
剣を具現化して振り下ろす。そこには真っ二つになった狩意の死体が・・・
「「いない!?」」
確かにそこにいたはずの狩意の姿が忽然となくなっていたのだ。とすると・・・
「高速移動か・・・ヒートアップしすぎて忘れていたぜ。」
しばらく待っても襲ってこないところを見ると、もう遠くへ逃げたようだ。それは良かったこと、さて・・・
「なんで報告もなしに動くのよ?」
「言ったら絶対止めに来るだろうが・・・」
「それはその通りだけどね〜けど心配してここまで走ってきた俺らの身にもなってごらん?」
「うっ、そりゃ・・・その・・・悪かった。」
わかれば良しと頷くノエル。というより、
「えっ、なんでほぼ無傷なのよ!?」
戦闘に加わっていない私ほどではないが、ノエルは数箇所すりむいていることを除けば全く怪我をしていない。
「いや〜琴葉ちゃんを突き飛ばしたときに瓦礫がかすって横に少しだけ飛ばされてさ、そこに穴なんてあったものだからそれに嵌っちゃって。自力じゃ出れないし、琴葉ちゃんたちは俺が瓦礫に巻き込まれたと思ってたみたいだし、どうしようか困ってた時にあの背の高い人が助けてくれて。俺が怪我していないか確かめた後、何も言わずにどっかに行っちゃってさ。俺も琴葉ちゃん探しに歩いていたらあの場面に出くわしたって訳。」
冷静ならばすぐ気づけたのだろうがあのときの私には穴に気づくことができなかった。しかしそれが本当なら狩意はノエルを助けたということになる。いったい狩意の目的は何なんだろう?
「でも悪いことしちゃったな・・・いくら琴葉ちゃんたちを助けるためとはいえ、恩人に石を投げちゃったのはマズイでしょ?今度会ったときにはちゃんと謝らなくちゃ。」
できることなら二度と遭いたくないけどね。私は危ないことと面倒なことは嫌いだから、その両方の面を持つ狩意は天敵以外の何者でもない。
「震君、復讐はどうかと思うけど、あの人を捕まえるのは俺らも協力するよ?」
ノエル・・・心が読めるのならどうか今の私の心を読んでください。なんで私まで巻き込むの!?とはいえ既に冬摩先生と同じ約束をしていたか・・・
「・・・しょうがないわね。ただし今回みたいな無茶をしないのが条件よ。」
「お、お前ら・・・本当にいいのか?」
笑って頷くノエル、(恐らく)渋い顔で頷く私。
「さっ、帰ろっか。琴葉ちゃん、震君もう動けなさそうだし運ぶの手伝って。」
午後三時三十五分
二人で抱えているとはいえ、葛篭さんの身体はかなり重い。これは帰るのにかなり時間がかかりそうだ・・・
「なあ、傘音さんさっきから亜木々のことをノエルって呼んでるけど、それって亜木々の下の名前なのか?変な響きだな。」
「え、ええ、まあ・・・」
そこは肯定半分否定半分、微妙なところだ。本当のことは他言しない約束だし、私のネーミングセンスに関わる話だからね。
「んで亜木々は傘音さんのこと下の名前で呼んでるのな・・・えっ、お前らもしかして?」
「ちょっ、変な事言わないでよ!置き去りにするわよ!?」
取り乱す私のことをその赤い眼で不思議そうに見つめるノエル。でこぼこなトリオの微笑ましい光景がそこにあった・・・
各章の最終話イラストにはサブタイトルがあり、今回のは~傘音 琴葉の心内矛盾~です。
さて話は変わりますがWISHの番外編を書くことに決まりました!その名も「ALKERs」。まあ詳しくは作品を見てください。
さて次回からは新章「大根女優」に突入、しばらくはバトルなしです。ではWISH 7 「格差ある休暇」をお楽しみに!