4 白は嘲り、赤は怒り
今回は冬摩先生と葛篭 震の過去編を詰め込んでいるので内容的にも展開的にもかなり重めです。
では前座はここまで・・・!
「先生は生まれたときから足が悪かったと言ったのを覚えてる?だからかな、先生の幼いころからの夢は世界中のいろんな事を知ることだった。」
ここは私たちの担任で、予知能力者である冬摩先生の家だ。正直未だに半信半疑だが。
「先生がみんなぐらいだったときのある夜、一人で家に帰っている時にいきなり後ろから声をかけられたの。」
十年前 午後七時 冬摩サイド
『ねぇ、そこの君・・・車椅子の君だよ・・・足、大変だねぇ・・・』
たぶん男の人だろう。ところが振り向こうとしても体が動かない。
『素敵な願いだ・・・でもその足じゃあ・・・』
なぜこの人は私の夢を知っているのだろう?その時、後ろから銃口のようなものを頭に当てられた。
『僕が力をあげる・・・願いを叶えてくれる素晴らしい力を・・・』
すさまじい衝撃の後、私は気を失った・・・
十年前 午後十時 冬摩サイド
結局あれはなんだったのだろう?あの後からずっとすさまじい眠気が襲ってくる。今日は変に我慢しないで早く寝よう・・・
気が付くと私は自分の部屋のベッドに座っていた。しかしドアも窓も開かない。すぐに夢だと気づく。
「障害者は障害者らしく夢なんて持たずに普通に生きていればいいのに。」
知らぬ間に私そっくりの少女が後ろに立っていた。
「そうすれば余計な苦しみもない・・・あなたがするべきことはただ生きることだけよ。」
「そんなことない!障害者だからって夢を見ちゃいけないなんておかしい、困難だからって諦めなければいけないなんて間違っている!」
急に少女は優しく微笑んだ。
「その通りよ、キツイこと言ってごめんね・・・でもこれが私の仕事なの。あなたには資格がある。夢を見て貪欲に知識をむさぼる資格が。」
現在 冬摩宅
「先生はそれ以来、知りたいことを頭に浮かべながら寝るとそのことについての夢を見るようになった。たとえそれが未来に起きることでもね。中には知らないほうがいいこともあったけど、とても便利よ。ただ、夢を見たときは全然疲れがとれないけど。」
冬摩先生の話は怪事件《逃れえぬ衝撃》とよく一致している。しかしもう一つ、先生の話は私に起きているあの現象とも一致している。
「冬摩先生、私も先生みたいな夢を毎晩見るんです。でもいつも何も言えずに夢が終わっちゃう・・・」
「今になってわかるんだけど、彼女たちは多分『心の底からの願い』が聞きたいのだと思うの。だから傘音さん、自分の本当に心から願っていることを彼女に言ってあげなさい。」
私の心からの願い・・・?そういえばこの二人は話についてきているのだろうか。
ノエルのほうは断りもなくテーブルに置いているお菓子を食べあさっている。この様子では話を聞いていないだろう。葛篭さんは意外なことに真面目に聞いていた。
「さて、そろそろ本題に入ろうかしら。《最強すぎる殺人鬼》という怪事件を知っているかしら?初めは興味本意で狩意 崩の夢を見ることにしたんだけど、驚くことに実在人物で噂は本当だった。さらに驚いたのは、彼が武装した警察官や特殊部隊が束になって捕縛に来ても惨殺できる理由なんだけどなんと・・・
「先生と同じで、常識ではありえない力が使えるから、それも特別強力なのがな・・・!」
驚く私。ノエルも何かに気づき、お菓子をボロボロこぼしながら振り返る。葛篭さんの顔には怒りが表れ、それまでの雰囲気とは一変していた。先生は知っていたらしく、黙ってうなずく。
「俺っちと狩意が深く関わるようになったのは一年前のことだ。」
一年前 午後九時半 葛篭サイド
俺っちの家庭はごく普通だった。ただ、父はいつも帰りが遅く、母もたまに帰って来れないときがあった。
母の仕事は刑事、市民を守る正義のヒーローだ。だから帰りが遅くなっても全然気にならない、人のためだもんな!今日は帰りが遅い日なのか、まだ帰ってこない・・・
一年前 次日 午前七時 葛篭サイド
チャイムの音と共に眼が覚める。玄関に出るとそこには母の同僚がいた。
「葛篭君、すぐに病院に来てください。」
とりあえず、熟睡中の父に伝言を残して俺っちと優で病院へ行くことにした。
一年前 午前九時 葛篭サイド
そこには包帯でぐるぐる巻きにされた母が管だらけで眠っていた。医者によると再び意識が戻る確率はほとんどないらしい。
「・・・何があったんすか・・・?」
「震君、君は《最強すぎる殺人鬼》という噂を聞いたことがあるかね?」
それは俺っち周りで少し前から流れている都市伝説だ。あまりに強くて凶悪なため、武装した人間が束になってもかなわないという。
「これは本来、極秘事項なのだが《最強すぎる殺人鬼》は実在する。我々警察としては当然ヤツを放っておく訳にはいかない。そしてついこの間、ヤツの居場所がわかり、大勢の特殊部隊と刑事で捕まえに行った。ところがすぐに通信が途切れ、君の母さん以外は全員瓦礫に潰されて死亡、唯一生き残った君の母さんも重傷を負ってしまった・・・」
それからも話は続いていたが、俺っちの耳には届かない・・・
一年前 午後七時 葛篭サイド
父は母を見に病院へ、優はショックでずっと泣いている。幸せだった家庭が一瞬にして崩れ去った。たくさん笑っていた母、時には厳しく叱っていた母、仕事の話を家でよくしていた母。しかしもう笑わない、もう叱ってくれない、もう口をきいてくれない・・・
「・・・ふざけんな・・・」
犯人がたった今ものうのうと生きているのが許せなかった。俺っちは台所から包丁を取って外へ出て行った。
一年前 午後九時 葛篭サイド
『犯人は現場に帰ってくるものよ。』
母の言葉だ。今はあの事件の現場に来ている。だが冷静に考えればここに犯人がいる可能性は低い。これまでも幾度となく殺人を犯している殺人鬼があえてここに来る理由がない。
「おい、坊主。そこで何してる?ガキは家に帰る時間だぜ?」
遠くから声が聞こえる。向こうから近づいてきて俺っちのことをまじまじと見る。
「なかなかデカイな・・・高校生か?」
いやいや、あんたが異常なだけだぜそれ。俺っち170cmあるのに上から見下ろされている。近くで見ると白いコートを着て、白いニット帽をかぶった背の高い男だとわかった。
「俺の名は狩意 崩だ。ちょっと考え事をしにここへ来たんだ。お前は何しにここへ?」
「俺っちは葛篭 震っす・・・先日ここで起きた事件で母が重体になったんすけど、犯人がここへ来てないかを・・・」
男は神妙な顔つきで言葉を発した。
「二つ質問をさせてもらう。もし犯人がここへ来たらお前はどうするつもりだ?」
「同じ目にあわせてやる・・・」
「復讐という訳か・・・もう一つ、俺は先日ここで大量の警察を殺したものだが・・・
その先を聞かず、俺っちは手元の包丁で男に切りかかる。しかし全てかすりはするが致命傷を負わせられない。そこで包丁を振り回すだけでなく拳と脚を使ってひるませる。
「おおっ・・・」
何に感嘆しているのだ、お前は今、ここで死ぬんだぞ!?標的を捉えた包丁が男の命を絶った。
いや、絶てるはずだった。だがそこにいたはずの男は完全にリーチ圏外にいた。
「危ない、危ない。なかなかやるじゃねーか震少年。ここは一つサービスしてやるか!」
男は近くの瓦礫に歩み寄り・・・瓦礫をすさまじい速さで飛ばしてきた。蹴ったのか投げたのかはわからないが、とにかく飛ばした。
間一髪で避けたが二発目が来たらもう避けるのは無理だろう。だが二発目は来ない。
「震少年、人生の先輩である俺から一つアドバイスだ。復讐なんてやめとけ。そんな暇があるんだったら勉強したり、友と遊んだり、彼女作ったり、家庭を築いたりまっとうに生きろ!俺みたいなダメな奴になるな。」
そう言い残すと男は目にも止まらぬ速さで逃げていった。
そこには唇をかんで悔しがる少年がただ一人・・・
ね?かなり重たいでしょ?次回はキャラクタープロフィールNO.2をあとがきに載せます。お楽しみに!
次回WISH 5 「殺意刃【ナイフ】」で会いましょう。