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AFTER THE WISH   作者: マーチヘア
開幕~傘音 琴葉の心内矛盾~
2/57

1 人形館と灼眼少年

前回は序章ということで今回から本編が始まります。

 布団にもぐり、まぶたを閉じると見慣れた風景が目に入った。そこが私が授業を受けている篝火中学校一年一組の教室だから、そしてこんな夢をここ最近毎日見ているからというのもあり、この後何が起きるか知っていた。その教室はある一点を除き本物の一年一組と全く同じだった。私の二つ前の席にいる鈴鳴さんはいつものようにその隣の衿元さんにちょっかいを出しているし、私の隣の席はやはり空いていた。たしかなんとか『いる』という名前だったと思うが、ほとんど学校に来ていないためよく憶えていない。ようするに引きこもりというやつだ。

 唯一、現実と違う点は『傘音 琴葉』と書かれた机に座っているもう一人の「私」の姿だ。パッチリとした目、自慢であるショートヘアーの黒髪など外見は似ているが服装は保守的なものを着る私に対して「私」は、すがすがしいほどに着崩していた。「そんな服装をしていれば周りから目をつけられる」そういうことを考えつつ傍観していると教室から「私」以外の人が突然消え、「私」がこちらを振り返った。

 「どう?羨ましくない?確かに周りとの衝突が多いけどやっぱり自分に正直に生きるべきだと私は思うのね」

 ご丁寧に「私」の発した声は私のそれと全く同じだ。

 「あんたみたいに『いい人』の仮面を被ってたら確かに周りは平和かもしれない。けどあんたはそれで満足なの?」

 同じ顔を持ち、全く違う考えを持つ「私」に対して言い返したかった。確かに満足ではないが、誰か一人は損な役割の人が世の中には必要なものなのだと。けれど「私」のように生きたいと思う私もいる。まさにどっちつかずである。

 キーン コーン カーン コーン

 「結局今日も答えを出せなかったね・・・」

 そう言うと「私」は教室から出て行く。追いかけようとした瞬間私は夢から覚めた。

 

 午前七時


 「・・・」

 夢というものは覚めるとすぐに忘れがちだが、この奇妙な夢はいつまで経っても私の脳裏に焼きついて私を苦しめる。気分を変えたくてケータイに手を伸ばす。着信が一件あり差出人の欄を見ると、

 鈴鳴 飛鳥

 そう、あの夢に出てきた鈴鳴さんだ。彼女はどこかのお嬢様で成績優秀、容姿端麗とまさに三高が揃っていて人当たりもいい。表向きは。裏では女子たちのボスに君臨していて『女王様』という感じだ。とにかく表裏があるように感じるので私は付き合いたくないのだが、彼女の方はクラス全女子のアドレスを知っているので私にも連絡をとることができるのであった。内容は、

 「今日の昼から街はずれの『人形館』に探検に行きましょう。衿元にも連絡しました。絶対にきてください。篝火中の校門前で会いましょう。」

 お嬢様らしい丁寧な文章なのだが内容は『人形館』に探検しに行くからお前もついて来いという命令文である。私は春休み最終日が『女王様』に潰される事を覚悟した。


 午後三時

 

 「ずいぶん遅かったじゃありません?傘音」

 探索にはどう考えても不向きであろう華やかな衣装に身を包んだ鈴鳴さんはたった一分遅刻しただけの私に一言そう言うと衿元さんに振り向き、

 「衿元、調べはついているでしょうね。」

 「はい・・・ 『人形館』は無人の屋敷で、中には大量の人形が置かれているそうです。十五年前にはある老人が管理していたそうですが、難しい人でほとんど屋敷に閉じこもっていたらしいです。あと、Aさんの証言によるとその老人は死んでいて、一週間前というごく最近からですが霊となって屋敷内をさまよっているとのことです」

 いったい誰の証言なのか全くわからないことにたいして鈴鳴さんは、

 「さすが衿元ですね。必要な情報を半日という短い間に仕入れて、その上名前をあえて伏せて雰囲気まで演出しようとするなんて!普通、こうはいかないものよ」

 「ありがとうございます。鈴鳴様」

 「衿元。鈴鳴様はやめなさいと言ってるでしょう。瀬名でいいのですよ?わたくし達親友ではありませんか」

 人に無茶振りをした挙句、貴重な休日を潰しておいてこの言い様である。全くこの女のあつかましさにはあきれたものだ。


 午後三時半


 「ところでその幽霊の風貌はどんななのですか?」

 「ほとんどが人影などの証言で顔かたちが判らないのですが、唯一の情報として赤い目で黒髪の男が廊下を歩いていたというものがあります。」

 「赤目で黒髪ねぇ・・・あっ、そろそろ正門が見えてきましたわ。衿元、例のあれを出してみてください。」

 『例のあれ』がなにか最初はわからないが、正門が見えてきて取り出すものとはおそらく工具の類だろう。『人形館』は無人の屋敷なので普通に考えると鍵が閉まっている。無断で入るだけでも犯罪なのに鍵か窓まで壊そうというのだ。もし他の人に見られていたらどう言い訳をするつもりなのか。

 好奇心と無感情と罪悪感は門の前へ。しかし門には鍵の類がなく、するりと開いた。

 「おや?まあ、いいでしょう。鍵を壊す手間が省けましたわ。さあ私たちの冒険が今、始まるのです!」

 やっぱり壊すのか・・・というか私と衿元さんが楽しんでると思っているのか・・・まあ、そう思っているのならそう思わせておけばいい。

 そうして屋敷の中へ入る三人。それを二階の窓から見つける赤目の一人。その顔には五分の驚きと五分の歓喜が浮かんでいた。


 午後三時四十五分 

 

 入ってからたったの十五分。その間に私たちは散り散りになった。あの勝手な女はともかく、あのおとなしい衿元さんがはたしてはぐれたりするのだろうか。渋々二人を探すうちにこの屋敷の異様な点に気づく。ほとんどの廊下が人形などで散らかっているのだが、時折片付けられて雑巾をかけたばかりの湿り気を感じる廊下があるのだ。つまり私たち以外にも人がいるということである。冷や汗が流れる。

 「は、早く帰ろう」

 そう思った瞬間、一人分の足音。男の声。蝋燭に照らされる赤い目。

 「本日はどのような御用でございましょうか、お客様。なんてねっ! ってあれ!?」

 私の視界が暗くなる・・・


 午後四時


 「いや~いきなり倒れたからびっくりしたよ。ごめんね、大丈夫だった。」

 鈴鳴さんと衿元さんは先にここに着いたらしい。今私たちは赤目の彼の淹れてくれた紅茶を飲んでいる。

 「まさか亡霊が淹れた茶を飲むことになるとは思いませんでしたわ」

 「だーかーらー、俺はおじい様の霊じゃなくてちゃんと生きているんだって。」

 つまりこういうことである。彼は昔ここを管理していた、というよりここの主人であった老人の孫で一週間前からここで一人で生活しているらしい。急に幽霊の噂が出始めたのはそういうこと。それはさておき、

 「勝手に侵入しまして申し訳ありませんでした。」

 「傘音がどうしても行きたいというので逆らえなかったのです。」

 この女。なぜ私を連れてきたのか疑問に思っていたが、こうなった時のための身代わりというわけか!

 「なに人に罪擦り付けてんだ。このブロンド女。屋敷に入る前からの会話、全て聞いていたんだぜ?」

 いったいあの距離の会話をどうやって聞き取ったのだろう?たぶん何らかの心を読む手段を持っているのだろう。急に口調が変わったのに驚きながらも私は疑われていないことに安堵。

 「それに別に怒っていないしね。来て一週間、誰も訪ねてくれなくて寂しかったんだよね~」

 お化け屋敷じゃ普通誰も来ないだろう。よっぽどの酔狂じゃないと探索しようともしないし。

 「んじゃ三人の名前をカミングアウト!さっきはごめんね、ブロンドちゃんから。」

 「鈴鳴 飛鳥でございます。先程はすみませんでしたわ」

 「もう終わったことだし気にしないでよ、鈴鳴ちゃん。次は俺よりこの屋敷がよく似合いそうな貞子ちゃん。」

 悪意満点の振りに衿元さん、 

 「衿元 牡丹です・・・」

 全く動じず。

 「ん~なんでだろ?すごく暗いな。最後は短い黒髪にクリッとした目のかわいいそこの君。」

 三人目のことを指してそう言ったのだから、たぶん私のことだろう。

 「傘音 琴葉です。助けてくれてありがとう。」

 「三人とも終わったし今度は俺の番だね。亜木々っていいます。13歳なので多分みんなと同じぐらいだと思います。」

 動揺していたせいで目が行かなかったが、亜木々さんの身長は私たちよりもほんの少しだけ低い。

 「それでは私たちと同い年なのですね?両親は今どちらへ?」

 許してくれたとたん図々しく質問する鈴鳴さん。しかし亜木々さんは一瞬複雑な表情をした後、

 「もう既にだいぶ遅くなっているよ?『二つの怪奇事件』が心配になってくるしもうそろそろ帰ったほうがいいと思う。」

 急に話題を切り替える。でもたしかにもうかなり遅い。

 「じゃあもうそろそろおいとまするね。紅茶ありがと。」

 「こっちこそ遊びに来てくれてありがと!また明日ね。」

 また明日?どういうことだろうか。とにかく笑顔の亜木々さんに手を振りつつ帰路につく。

 

 『私たちの街には今、二つの怪奇事件が起きている。一つ目は《最強すぎる殺人鬼》。警察に顔、《狩意 崩》という本名さらには隠れ家まで知られているのに一向に捕まらない殺人鬼。その真相は逮捕しに来た警官、特殊部隊を全て惨殺しているというものである。ゆえに最強すぎる殺人鬼。もう一つは《逃れえぬ衝撃》。一人でいるときに突如として現れ、後ろから空砲を撃って気絶させるというもので撃たれたものは高確率で不幸な目に逢うという。』


 次の日 午前九時

 

 今日から私たちは二年に進級する。私の席の前は鈴鳴さん。どうやら衿元さんは違うクラスにいるようだ。鈴鳴さんの右隣は『いる』さんの席。もちろん今日も来ていない。しかし気になるのはわたしの左隣。誰もいない。


 キーン コーン カーン コーン


 チャイムとともに全員着席、担任が登場。女性のようだが車いすに座っている。

 「おはようございます。今日から一年間この二年一組を担当します冬摩 結衣です。先生は生まれつき足が悪いので皆さんに迷惑をかけるかもしれませんがよろしくお願いします。あと今日は転校生の紹介をするつもりなのですが、彼は少し遅れてくるそうなので先に出欠をとります。」

 私の隣が転校生の席らしい。転校初日から遅刻するとは一体どんな人なのだろう? 


 午前十時半

 

 今日は始業式なので早めに終わるのだが、転校生はギリギリ間に合ったようだ。

 「転校初日から大遅刻するなんていけませんよ。」

 「すみません。家の片づけが忙しくて・・・まぁ主役は遅れてやって来るものですし企画的には良いのではないでしょうか。」

 「反省しなさい!それでは教室に入って自己紹介をお願いします。」

 どうやら相当の曲者のようだ。しかしその姿をとらえた途端、私と鈴鳴さん驚く。向こうも気付き、

 「今日からよろしくね~」

 とあいさつ。

 「では名前をどうぞ。」








 「亜木々です。みんなっ、これからよろしく!」

 

 

 


 読んでくださいましてありがとうございます。なお次回の投稿には少し時間がかかります。ご了承ください。次回予告をしますと、『やりたいこと』と『使命感』が一致しない少女・傘音 琴葉と明るくも謎の多い少年・亜木々に重点を置いた話です。

 では次回『WISH 2 事実は小説より奇なり』をお楽しみにしていてください。

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