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第1話-2

「さて、どうしたもんかね。」


住宅街。ドミノ倒しのように隙間まく建ち並ぶ家々。藤間陸斗の家はそんな住宅街の隅っこにある。繁華街で琴梨(ことり)の好きなチョコケーキ、モンブラン、フルーツケーキを2個ずつ購入した陸斗は急ぎ自宅に帰ったものの、家の玄関で立ち止まっている。


「うああ~~~~。ヤベェな家からドス黒いオーラが見える。琴梨の奴、相当怒っていらっしゃるな。」


嫌な汗が額から滲みでる。

携帯電話で時間を確認すると八時十七分、約束の帰宅時価は七時きっかり。一時間十七分の遅刻である。ギャルゲーでこういう場面があれば、遅刻した兄を怒りながらも許てくれるもんなんだが。

内の妹は更に上をいくレベルである。


「大丈夫大丈夫。ケーキがある。これで気を反らせばいける筈だ。」


自身に「大丈夫だ」と暗示をかけながら震えた右手でドアノブに手をかける。ガチャリと抵抗なく回るドアノブ、あまりにも簡単に開く扉に陸斗の警戒心は更に上がる。

靴をゆっくりと脱ぎ、闇が支配する廊下を進もうとする陸斗の瞳に、チカッと一瞬何かが閃く。


「危なっ!!!」


長い間武術をやり続けた賜物か、頭部に高速で迫りくる飛来物を間一髪で回避する。ガキンという音が後ろの玄関扉から聞こえ、嫌だな~~~見たくないな~~~と思いながらも律儀に振り返りる陸斗。ゆっくりと振り返る陸斗の瞳には、一般人には恐るべき物だが、陸斗には見慣れた物が玄関扉に5センチほど突き刺さっている投げナイフが映った。


「鉄製の扉に突き刺さる。…………レベル3だな

。」


内の妹には怒りレベルが存在する。レベル1が普通の人が怒る。レベル2がヒステリックに怒り、物を軽く投げつけて来る。

ここまでならまだ許容できるレベルだ。我が妹も日常生活ではこれ以上は上がらない。だが、まれに、妹がレベル3以上に上がる(主に陸斗が約束えを破ってしまう事が原因である。)と怒るレベルがろ跳ね上がる。レベルは3の怒りモードは格闘技を やり続けてきた陸斗だから回避出来るだけであって、一般人では決して回避できず、下手したら何が起こったのか解らず攻撃を受けてしまうだろう。

レベル4、5は陸斗自身が一度だけ受けた事があるが、思いだすだけで気分がブルーになるから思い出さない!!!

陸斗は焦る気持ちを必死に抑えつつも次弾を警戒しながら、ケーキが入っている箱を前につき出す。


「ほ~~~~ら琴梨。琴梨の大好きなケーキだぞ。それも琴梨の大好きなモンブランにチョコケーキ、フルーツケーキだ。6個全部あげるぞ~~~~♪」


笑顔で電気もついていない廊下の奥、暗黒にいる妹に話しかける。妹も格闘技をやってはいるが、陸斗には遠く及ばない。しかし、そんな妹が唯一陸斗に勝っている特技がある。


「!!オワッ!!」


再び投擲された投げナイフを、陸斗はビックリしながらも綺麗に左手で掴みとり無効化する。一瞬感じた気配を探るが、既に気配は拡散して闇に溶け込み何も感じる事が出来ない。


「………………琴梨の奴、また腕を上げたな。気配の位置が全然判らん。」


気配遮断。

それが妹の琴梨が唯一陸斗に勝っている能力である。暗闇の中に隠れた琴梨を探すことは、目隠ししたまま家の中に放たれ隠れたいる小さな蟻を探すのと同じレベルの難しさである。

いくら陸斗でもそんな妹を探し当てるのは不可能なレベルであり、だからこそ説得するしかないのだ。


「琴梨~~~~、頼むから訳ぐらい聞いてから攻撃してくれよ。世界で唯一の家族じゃあないか。」


暗闇から返事はない。陸斗は後ろ髪を乱暴に掻きながら、今日は野宿にするかーーと考えながら、再び靴を履き直し玄関扉を開ける。すると。


「…………….…なら兄さん、世界で唯一の家族である妹の私と二人で決めた門限を破った理由を話して兄さん。」


綺麗なソプラノ声が廊下の奥から聞こえてくる。

廊下の奥の闇の中から小さな女の子がゆっくりとまるでお姫様のように歩いて来る。

フリルがやたらある真っ黒なゴスロリを着た少女。

中学三年生であり俺の妹の琴梨だ。

身長は140センチぐらい、本人は145センチはあるといいはるが陸斗が見た感じは138センチだ。かなり小さい。だから妹は身長を聞かれた時は、145センチといい張っているが、7センチもサバ読んでいるのだ、さすがに無理があると陸斗は思っている。

髪は陸斗と同じ黒髪だが、髪の長さとボリュームが半端ではない。何せ腰を通り過ぎて膝まである髪は圧巻ではあるが、夜のようにキレイで艶がある。髪が風でなびくときの仕草は様になっている。

顔は整っており、瞳は黒曜石ような瞳。

身内びいきをぬきにしても綺麗である。

人前では表情は基本的に無感情、だが感情がない訳ではなくたん表情をだすのが恥ずかしいだけ。

その反動か、兄である陸斗には心を許しているのか感情豊かである。人前でも笑えば可愛いくて人気物になると思うんだが、実にもったいない。


「……….…….…いつまで黙っているつもりですか兄さん。…………….…まさか黙っていれば時間が解決してくれるなんて甘いことを考えてはいませんか?なら…………」


「まてまて早まるな琴梨!今まさに説明するところだから!」


「…….……なら手早くお願いします兄さん。」


今まさに服の内側からナイフを取りだそうする琴梨を引き止める。怒るとすぐにナイフに取りだそうするのは止めた方がいいと思う。

陸斗はケーキの入った箱を廊下に置き、琴梨が立つ位置まで滑らせ、同時に話し出す。


「ああ実はーーーーーーーー」


陸斗は学園から帰る途中に起こった事件を懇切丁寧に説明する。すると、


「‥…….………兄さん。一つ聞いても良いでしょうか?」


「なんだ?なんが聞きたいんだ?」


「….…….….…その助けを求めた女性は、山あり谷ありの体型をした女性でしたか?」


「はいっ?」


思わず聞き返す陸斗。いやいや、我が妹よ聞き返すポイントがおかしいだろ。普通、武器を所持した集団に襲われた兄の心配をして、怪我の有無を確認するもんじゃありませんか?

がっかりした顔で琴梨を見つめるが、琴梨の顔はこれ以上ないぐらい真剣な顔をして陸斗の言葉を待っている。

陸斗は眉間に人差し指を当てながら、さっきの出来事を深く思いだす。


「うーん、…………ああ、思い出した思い出した。確かに凹凸がはっきりした女性だったな。Eカップの胸元が大胆に開いていたから印象が強烈だーー」


プチンーー


何が糸のような細いものが切れた音が陸斗の耳に聞こえてきた。視線だけで周囲を見渡すが見慣れた廊下と壁しかない。気のせいだと決めた陸斗は、視線を戻すと。


「….……………死んでくださいバカ兄さん。」


周囲がブリザードになってもおかしくないほど冷たい瞳で兄を睨む妹があった。


「な、何をいきなり怒っているだよ?」


「…………….…怒ってなんていません。ただ、私は女性をいやらしい瞳で見る兄さんに軽蔑しただけです。」


琴梨は瞬時に服の内側に両手をしまい、抜き出す。左右の手には仕舞ってあった投げナイフが4本づつ握られながら取りだされる。


「….…….…どうせ兄さんのことです。大きな胸に騙されてついて行った違いありません。…………それで、友達も助けたら、見返りに友達だちも一緒に、え、えっ、エッチなことを強要せるつもりだったに違いありません。兄さんの不潔、鬼畜、サイテーです!!」


「お前、普段から兄をどう見ているんだ!!そんなこと俺がするはずないだろうが、自慢じゃあないが女性経験なんて俺はないぞ。」


「………………信じられません。兄さんの趣味、趣向は知っているんですから。」


妹のスカートから取りだした物を陸斗の方に投げつける、バサバサと床に落ちた物を見て陸斗は絶句する。それは、男たちなら必ずは購入する心のバイブルたちだ。

陸斗は顔を青くしながら質問する。


「な、なぜ琴梨様がこれを?これを俺の部屋に厳重に隠し、保管してあったはず。」


「………………兄さんの隠す場所はだいたい検討がつきますから。隠す場所が安易ですね兄さん。」


散らばっている本のタイトルは「巨乳のお姉さん、オトナの遊び」「美人巨乳姉妹」「巨乳司書のHなオシゴト♡」なとなど、必ずと言っていいほどタイトルに「巨乳」の文字が入っている。


「….……………兄さんは昔から「巨乳」が好きでしたものね。女性の価値を胸で決めるサイテー男です。」


「いやいや、別に胸で女性の価値は決めてねーよ!!単に大きな胸には夢と希望がつまーーーー」


ピシッとナイフが陸斗の横を通りすぎ、扉に突き刺さる。頬を切り裂かれ、血が僅かににじみ出でる。


「……….………言い訳は結構です。まずはお仕置きが先です。」


「ちょ、いくら何でも近すぎだろ!!おちつけ琴梨、俺たちは話し合えばわかり合える。なんの為に言葉があると思っているんだ!!」


「………………なにを言っているですか兄さんは?私はいつ、如何なる時も冷静です。おかしな兄さんですね。」


ナイフを持て遊びながらクスクスと笑顔で笑っている琴梨。だが、瞳がまったく笑っていない。綺麗な笑顔でも凄く怖い。


(いかん、琴梨が冷静になるまで外にいよう。このまま家にいたら明日の朝日が無事に見えまい。)


長年の武術経験で養った陸斗の危険シグナルが反応し始める。

陸斗は琴梨に気づかれぬよう少しずつ後退り始める。後退の最中、気づくな気づくなと普段は信じてもいない神様に祈る。

が、神様はいつも無情であり、人に試練を与える。


パキン!!


(げっ!!)


心の中で悲鳴をあげる。

僅かに視線だけををずらして足元を見ると、後退りし始めた靴の踵が小石を少しだけ弾いていた。普段は誰もが気づかず、誰もが気にしない僅かな音だ。

しかし、静寂が支配している廊下、琴梨の耳には、まるで爆弾でも落ちたかのような音に聞こえたに違いない。

心臓が緊張でバクンバクンと鳴り、額から滝の様に汗が垂れる。怖くて視線を戻せない陸斗の耳に、綺麗な声が響く。


「…………….おかしな兄さんですね。どうして私から逃げようとしているんですか?何か兄さんが怖がるものでもありますか?」


「いや、別に何もないし。俺が琴梨から逃げようとなんてするはずないだろ。たった一人の妹なんだから。」


つきたくない嘘をつく。同時にどうやってこの場から撤退出来るかを考える。

後ろの扉から逃げることは可能か?答えはNOだ。静かにドアノブを回して扉を開けること自体は可能だが、この場合、逃げる為に琴梨に背を見せるはめになる。後ろからの投げナイフで串刺しなりたいならやるべきだ。

ならばーー


「…………………逃げる算段は思いつきましたか兄さん?」


「だから、何を言っているだ琴梨。兄がお前から逃げようとするはずないだろうが。」


「そうですか?それはすいません。……………ですが、それにしてはずいぶん視線が落ち着きませんね兄さん。キョロキョロと周囲を見ているみたいですが。」


ギクッ!!

確信を突かれて思わず体が震えそうになるが、意志の力でねじ伏せる。さすが我が妹!エスパー並みに思考を読む。伊達に長年一緒に住んでいるだけあって兄の考えがよくわかっていらっしゃる。


「妹よ。一体何を怒っているだ。何か気にさわること言ったか俺。」


「…….…………止めて下さい兄さん。優しい言葉をかけて時間を稼ぎたいのがバレバレです。」


「やっぱり?」


互いの距離は2メートルもない。そもそも普通の家の廊下では2メートル以上離れるなんて不可能だ。琴梨は準備が完了したのかナイフの投擲態勢に入る。もちろん標的は陸斗。

対して陸斗は、体を前に傾けてダッシュ態勢をつくる。


「突撃ですか?兄さんらしくない愚策ですね。突っ込んできたらナイフで串刺しですよ。」


「バカな妹だ。なんの策も無しにこの俺がこんな事をやると思うか。」


ニヤリと笑う陸斗。

その笑顔が気にさわったのか、それとも陸斗の態度が気にいらないのか。さっきまで余裕そうな表情がなくなり、険しい表情に変わる。


「「…………………………」」


互いに無言で相手の隙を探す。戦闘漫画なら背景に`ゴゴゴゴゴゴッッ`と唸るような緊張感が発生している。そして、待っているのだ互いが行動を起こすきっかけを。

そして、


「あっ!!」


緊張が頂点に達したのか琴梨の握っているナイフと瞳が僅かに揺れて陸斗に対して集中カが低下する。

その一瞬の隙、見逃す筈がない。


ドン!!


床のフローリングを踏み抜くほど踏み込み。

瞬きすら出来ない刹那の一瞬、誰もが見えない、残像すら残らないほどのスピードで陸斗は琴梨の横をすり抜けようと走る抜ける。が、


「甘いです兄さん!」


左右に握っているナイフ、四本のうち三本を捨てると、残った一本のナイフを逆手に持ち直し高速で水平に振り払う。

ナイフはベストタイミングで陸斗の脇腹を深く切り裂く。


「………………えっ?」


琴梨は自身の目を疑う。

切り裂いたはず脇腹から血が一滴も出ないどころか、陸斗の姿が幻のように揺らぎ消えてなくなる。


「……………兄さん今のは、あっ!」


再び前方を見る琴梨の目には凄まじい光景が映る。

玄関の床には穴が空いており、玄関扉はトラックにでも衝突したかのようにべコべコに凹んだ状態で三メートルほど吹き飛んだところに転がっている。

そこには陸斗の姿はない。


「…….……….…そうゆう事ですか。まったく兄さんは。」


玄関を修理する為に携帯電話をスカートのポケットから取りだし、いつも修理を頼んでいる修理屋の番号をおす。

プルルルルルと流れる音楽を聞きながら、あの瞬間を思い出す。


(………………床を踏み抜く音で良く聞こえませんでしたけど。おそらく床を踏み抜くと同時に玄関扉を破壊して逃げたのでしょうね。)


陸斗は全力で前方ではなく、後方に下がったのだと理解する。琴梨にはどのような技術かはわからないが、一種の『歩法』であることはわかる。

あの時、余りの気迫に琴梨は陸斗が突っ込んできたのだと錯覚して反撃してしまったのだ。

彼は今ごろ近く公園まで逃げてしまっただろう。


「……………帰ったらお説教ですから兄さん。」


壊れた玄関から満天の空を見上げ決意した。







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