屋上・2
彼女の短い細い髪が揺れた。靴下を履く手が止まっている。俺は言葉を続けた。
「女子はどーだか知らねーけど、うちの高校の男子生徒は皆知ってるよ。お前のしてること」
勝ち誇った様に叫んだ。
止まっていた手が動き出す。
靴下を履き終え、谷崎がゆっくりと立ち上がった。泣くか怒るか。俺は相手の出方をみた。
「脚をね」
「・・は?」
「脚を、捻られちゃったの。さっきのやつに」
「・・え」
俺は困惑した。会話が噛み合っていない。
「あいつね、入れてる間中、ず〜〜っと足首掴んで離さないの。やめてって言ったんだけど、足首掴んでやると、相手のこと征服してるみたいな気持ちになれて興奮するんだって。サドだよね〜。」
俺は返す言葉に詰まった。
相手が何を求めてこんな話をしてるのか分からない。
俺の狼狽をよそに、彼女は淡々と話を続けた。
「でね、何だか知らないけどあいつ、妙に力入っちゃったみたいで、両足首とも・・ぐきって。捻られちゃった」
気付けば彼女は目の前に立っていた。
頭一個ぶん俺より低い場所にある彼女の顔。
可愛いとは言い難い顔だと思っていた。
谷崎美穂は身体だけだと。
が、間近で見ると、睫毛が驚く程長く、目の色素が薄い。
茶色の瞳に黒い光彩。
そう、まるで、西洋人形の様な・・。いつの間にかその瞳に見入っていた。
「・・だ、だから、何?」
喉が乾き、声がかすれる。身体が熱くなっているのが分かった。
「だから・・」
彼女は更に顔を近づけ、小さく呟いた。
「うまく歩けないの。おんぶして・・くれない?一階まで」
心臓がはねあがる。頭の中に、彼女の吐息が甘く響いた。