屋上
「・・何してんの」
僕が彼女に最初にかけた言葉。
「・・何って。見て分からない?」
そして、これが彼女から帰って来た最初の言葉。
3月の終わり、うすら寒い屋上、制服のままセックスをする二人組の男女。
その、女が、彼女だった。
彼女の低い呟きで初めて俺に気付いたらしい相手の男は、俺の顔を見ると彼女を突き飛ばし、一目散に屋上を飛び出してしまった。
つまりは逃げたのだ。
ただ何となく屋上に寄ったという俺の行為で、他人のセックスを邪魔してしまった。
その事実に気付いた俺は、思わずその男を追いかけようとした。その時だった。
「追わなくていーよ」
ワイシャツのボタンを閉めながら、彼女が言った。
「・・でも」
「いーって。逃げたってことは、怖いんだよ。ばれるのが。あんたあいつ誰だか分かった?」
コンクリの冷たい床に座りこみ、散らばった靴下を履きながら彼女は言った。
強い風が吹いてスカートがめくれる。俺は目をそらした。
「・・いや」
男はドアに背を向けて行為をしていた。
逃げる時の顔ならちらりと見たが、一瞬のことで、何年生の誰なのかなんてのは分からなかった。
彼女はにやりと笑った。嫌な笑みだと思った。
「残念だったね。分かってたら、今みたこと脅しに使えたかも知れないのに」
俺はムッとして彼女を睨んだ。相手の男は知らなかったが、この女は知っていた。
「そんなことするかよ。俺はあんたと違う」
彼女が顔をあげる。どういう意味だ、と言われてる気がした。
「あんた、三年の谷崎だろ。有名だぜ。金の為ならひょいひょい股開くって」
ひときわ強い風が吹いた。