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人間だと思っていた俺、実は滅びた古代種族の生き残りでした  作者: みちおもち


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翡翠の守護者

翡翠のゴーレムが、一歩を踏み出した。


それだけで通路が揺れた。

天井から砂が落ち、壁の結晶がびりびりと振動する。


「逃げる?」


リーナが聞いた。

声が震えている。


「逃げ道がねえ」


背後は落とし穴と行き止まりだ。

前に進むしか道がない。


「落ち着きな」


ベルの声だけが低く、冷静だった。


「あたしが弱点を見る。坊やと嬢ちゃんは、まず生き延びることだけ考えな」


ゴーレムが右腕を振り上げた。

翡翠の拳が壁を砕く。

飛び散った石の破片が頬を掠め、熱い痛みが走った。


「散れ!」


ベルが叫び、三人が左右に飛んだ。


ゴーレムの動きは重い。

だが一撃が重すぎる。

かすっただけで骨が折れる。


「《アクアショット》!」


リーナが水球をぶつけたが、翡翠の表面で弾けただけだった。

傷一つつかない。


「効かない……!」


「当たり前さ。あの全身の翡翠が鎧と同じだよ。正面から砕ける相手じゃない」


ベルが壁に張りつきながら、ゴーレムの動きを観察している。

琥珀色の目が素早く全身を舐めるように動いた。


「——見えた」


ベルが叫ぶ。


「関節だよ! 肘、膝、首の付け根。翡翠の結晶が繋ぎ目になってる。あそこが弱い!」


見た。

確かに、腕を振るたびに関節部の結晶が微かにずれている。

身体を覆う鎧と違い、繋ぎ目の結晶は薄い。


けれど——近づけるか。


ゴーレムが再び腕を振る。

床が陥没した。

衝撃波で身体が浮き、壁に叩きつけられそうになる。


「くっ——」


足を踏ん張る。

立っているだけで精一杯だ。


「リーナ!」


「わかってる!」


リーナの手に水の光が集まった。

けれど《アクアショット》では傷がつかないと、たった今わかったばかりだ。


「関節部を狙え! 結晶を冷やせば脆くなる!」


ベルの指示が飛んだ。


リーナの目が変わった。

狙いを定め、両手を突き出す。


「《アクアショット》——!」


今度は拳ではなく、ゴーレムの右膝の関節に水球が直撃した。

水が翡翠の結晶に染み込み、表面が白く曇る。


「冷えてる……! もう一発!」


「任せて!」


リーナが二発目の《アクアショット》を同じ場所に撃ち込んだ。

結晶が凍りついたように白濁し、ぴきり、と小さなひびが走った。


——今だ。


身体が動いた。


ゴーレムの懐に飛び込む。

巨大な左腕が振り下ろされる。

間一髪でくぐり抜けた。風圧で髪が逆立つ。


右膝の白濁した結晶が、目の前にある。


《スティング》


全体重を乗せた突きが、ひび割れた結晶に吸い込まれた。


手応え——砕けた。


翡翠の破片が飛び散り、ゴーレムの右膝が崩れる。

巨体が傾いた。


「膝が折れた! 今のうちに——」


ベルがクロスボウを構え、矢を射った。

矢は左肘の関節に命中し、結晶にひびを入れる。


「坊や、そっちも!」


言われる前に走っていた。


左肘のひび割れた結晶に《スラッシュ》を叩き込む。

横薙ぎの刃が結晶を砕き、左腕が脱落した。


ゴーレムが片膝をつき、残った右腕で床を叩く。

衝撃で足元が崩れ、バランスを失いかけた。


「レイン、首!」


リーナの声。


見上げると、首の付け根の結晶が見えた。

膝をつかせたことで、手が届く高さに下がっている。


だが遠い。

通常の間合いじゃ届かない。


——届く。《スティング》なら。


間合いの外から一点を貫く技。


深く腰を落とす。

剣を引き、脇を絞る。


全身の力を、右腕の一点に集めた。


何かが胸の奥で弾けた。

二日前のゴブリン戦と同じ——いや、あの時より強い熱。


「——ぁああああ!」


《スティング》が首の結晶を貫いた。


翡翠が粉々に砕け、ゴーレムの赤い目の光が消えた。


巨体が崩れ落ちる。

轟音と砂埃が通路を満たし、やがて静寂が戻った。



  * * *



三人とも、しばらく動けなかった。


俺は壁にもたれて座り込んでいる。

全身が軋む。腕が上がらない。

口の中に砂と血の味が混じっている。


リーナは膝をついたまま、荒い息を繰り返していた。

魔力を使い果たしたのだろう。顔が白い。


ベルだけが壁に背中を預けて立っていたが、額には脂汗が浮いていた。


「……勝ったのかい、あたしら」


ベルが笑った。

引きつった笑いだったが、確かに笑っていた。


「勝った」


「信じらんないよ。5級向けのゴーレムを8級ペアと斥候で倒すなんてさ」


ベルがドライフルーツを三人分出した。

受け取って口に入れる。干し杏の甘酸っぱさが、乾いた喉に染みた。


「坊や」


「ん?」


「あんた、本当に8級かい?」


「ステータスにはそう書いてある」


「数字はそうだろうさ。でも今の動き、5級クラスだよ。あの最後の突き——あたしでも見えなかった」


リーナが俺を見ていた。

口を開きかけて、閉じる。

また何か言いたそうな顔だ。


「リーナ?」


「……ううん。なんでもない」


嘘だ。こいつが「なんでもない」と言う時は、だいたい何かある。

二日前の夜もそうだった。手が光った、目の色が変わった、と。


今度は何を見たのか、リーナは言わなかった。

ただ一瞬だけ、俺の胸のあたりに視線を落とし——それから俺の目を覗き込んだ。

何かを確かめるような、戸惑うような視線。すぐに逸らされた。


追及する余力がない。

今はとにかく、ここから出ることが先だ。



  * * *



ゴーレムが塞いでいた通路の先に、上へ続く階段があった。

ベルの読み通りだ。


「さすがベテランだな」


「当たり前さ。ダンジョンの構造を読むのはプロの仕事だよ」


階段を登りきると、浅層の見覚えのある通路に出た。

翡翠の光が明るい。

冷たい空気が肺に沁みて、生きている実感が戻ってきた。


洞窟の外に出た時、夕焼けが目を灼いた。


「眩しい……」


リーナが目を細める。

風がぬるく、汗と砂埃にまみれた肌を撫でていく。


「あー、生きてるって感じだね」


ベルが大きく伸びをした。


戦利品の翡翠の欠片をベルと分配し、ルーンヘイムへ歩き始めた。

疲れ切った足取りだが、三人とも口元は緩んでいる。


ふと、俺はなんとなくステータスウィンドウを開いた。


半透明の板が浮かぶ。


```

——世界システムより通知——

【剣技が7級に昇格しました】

【新技能を付与: ツインアーク】

```


「……また上がった」


「は?」


リーナとベルが同時に声を上げた。


ステータスを見せる。


```

名前: レイン

種族: 人間


【技能】

剣技: 7級

闘技: ---

火魔法: 9級

水魔法: 9級

風魔法: 9級

土魔法: 9級

光魔法: 9級

闇魔法: ---


【使用可能技】

スラッシュ / スティング / ツインアーク / フレイム / アクアショット / ウィンドカッター / ロックショット / ライトボール

```


ベルの目が見開かれた。


ドライフルーツを齧る手が止まっている。


「3日で9級から7級? ……坊や、あんた何者だい?」


答えられなかった。

俺自身、わからないからだ。


リーナだけが、何も言わずに俺の横顔を見ていた。

その視線の奥に、二日前の夜と同じ色がある。


——あの時も、こいつは何かに気づいていた。


夕焼けの中、三人で街へ向かう。


頭の中に、新しい構えの感覚が流れ込んできた。

二連続の斬撃。弧を描く軌道で回避しにくい——《ツインアーク》。


また一つ、強くなった。


なのに、胸の奥のざわつきは消えない。


強くなるたびに、何かが近づいてくる気がする。

それが何なのかは、まだわからない。


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