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人間だと思っていた俺、実は滅びた古代種族の生き残りでした  作者: みちおもち


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報告と影

ギルドの扉を開けると、空気が変わった。


いつもの喧騒ではない。

視線が集まっている。俺たちに。


「——あれだろ。西門で闇種族を食い止めたE級パーティ」


「5級が二人いるんだと。E級でだぞ」


「嘘だろ、E級って入って半年も経ってないじゃないか」


ひそひそ声が、あちこちから聞こえる。


居心地が悪い。


「あんた、顔引きつってるよ」


リーナが横から突いた。


「引きつってない」


「嘘つき。さっきから目が泳いでる」


否定できなかった。


ベルが俺の前を歩きながら、肩越しに笑った。


「まあ、しばらくは噂の的だろうね。E級パーティが西門の防衛線を守り切ったなんて、普通はないよ」


「僕の《テンペスト》がなかったら、左翼は持たなかったよ」


フィルが胸を張った。耳がぴんと立っている。

嬉しいのだ。こいつは素直に喜べる奴だから、少しだけ救われる。


ガルドは何も言わずに歩いていた。

いつも通りだ。視線など気にもしていない。


二階のギルドマスター室に通された。



  * * *



オーゲンが机の向こうに座っていた。


赤い髭を撫でながら、六人を見渡す。


「防衛戦の報告は受けている。西門を守り切ったのは、お前たちの働きが大きい」


「ありがとうございます」


ヴィーナが代表して頭を下げた。

こういう場面ではヴィーナが仕切る。俺より余程まともだ。


「レイン・アルシードの剣技5級昇格、フィルの風魔法5級昇格。どちらも防衛戦中の実績で確認済みだ。正式にギルドの記録に反映した」


オーゲンが羊皮紙を広げた。


「リーナの水魔法6級、レインの土魔法7級、水魔法7級、光魔法7級もな。お前たち、たった二日で随分と伸びたものだ」


「あたしたちのパーティ、なかなかやるでしょ」


リーナが腕を組んだ。こういう時だけ堂々としている。


オーゲンが俺を見た。


「レイン。お前は剣技5級に加えて、火・風が6級、水・土・光が7級——闘技まで含めれば7属性全てに級位がある」


「……はい」


「E級の冒険者でこの成長速度は、俺がギルドマスターになって以来、見たことがない」


視線が重い。

称賛だけではない。何かを見定めるような目。


「お前たちにはE級は窮屈だな」


オーゲンが髭を引いた。


「防衛戦の実績と級位の伸びを踏まえて、ギルドマスター権限でお前たちをD級に昇格させる」


「D級……」


「ただし」


オーゲンの目が鋭くなった。


「今回の防衛戦で、西側の被害が深刻だ。ルーンヘイムの西に位置する村がいくつか壊滅的な損害を受けている。闇種族の脅威は、もう遠い話じゃない」


机の上に地図が広げられた。

西門から街道を西へ。点在する村の印に、赤い×が付いている。三つ。


「住民は避難済みだが、集落の復旧には時間がかかる。冒険者ギルドとしても、西方の警戒強化が急務だ」


ガルドの集落もこの中にあるのだろうか。

ちらりとガルドを見た。鉄灰色の目が地図を見つめている。表情は読めない。


「……俺たちにできることは」


「まずは力をつけろ。D級に上がれば、受けられる依頼の幅も広がる」


オーゲンが立ち上がった。


「今回の防衛戦、お前たちは十分に戦った。まずは休め。正式な登録変更は明日以降でいい」


「はい」


ヴィーナが再び頭を下げ、俺たちも続いた。


部屋を出た。

廊下を歩きながら、フィルが呟いた。


「D級……僕たちがD級だ!」


フィルの耳がぴんと跳ねた。


「一人前の冒険者ってことだろ? 僕の実力なら当然だけど」


「フィル、D級ってことは依頼の難易度も上がるんだよ。報酬も上がるけど、危険も増す」


ベルが横から釘を刺した。


「……それは、まあ」


フィルの耳がぺたんと垂れた。

リーナが笑った。久しぶりに聞く、普通の笑い声だった。


一階に降りると、ヴィーナが足を止めた。


「私は少し書庫を調べてきます。気になることがありまして」


「何を調べるんですか?」


「古い記録ですわ。少し、確認したいことが」


紫色の瞳が一瞬だけ俺を見た。

すぐに微笑んで、書庫の方へ歩いていった。


古代種族のことだろう。

昨日の話の続きを——ヴィーナはまだ、一人で調べている。


「行こうぜ。腹減った」


フィルに引っ張られて、宿に向かった。


街は日常を取り戻している。

露店が並び、鍛冶の音が響き、子供が走り回っている。


だが、西門の外では村が壊滅している。

闇種族の脅威は、もう目の前にある。


D級に上がろう。もっと強くなろう。

仲間のために。この街のために。


——そして。


右手を握った。

まだ冷たい。


この力が何なのか。知らなきゃいけない。



  * * *



——闇種族の陣営。西の山脈を越えた先にある砦。


石造りの広間に、松明の灯りが揺れていた。

闇の瘴気が壁を這い、床に影を落としている。


魔人族の将が、片膝をついていた。


防衛戦から三日。

撤退した軍勢を率いて砦に戻り、報告の場に立っている。


将の前に座る影。前線指揮を統括する上官だった。

闇色の鎧に身を包み、深い紫の瞳が将を見下ろしている。


「——報告は以上か」


低い声。上官の指が、肘掛けを叩いた。


「いえ。もう一つ」


将が顔を上げた。

闘技3級・闇魔法4級。あの防衛戦で4級の剣士を一蹴した将の目が、今は慎重な光を帯びている。


「防衛戦の最中、光側の冒険者に——気になる者がおりました」


「気になる者?」


「若い剣士です。級位は5級程度。脅威には遠い。しかし——」


将が言葉を選んだ。


「あの者の右手が、我が軍の闇の波動に反応していました」


上官の指が止まった。


「反応?」


「闇の弾を受けた右手が——闇の光を帯びていました。我が闇種族ですらない反応です。あれは闇の魔力を吸収し、自らの力として応答していた」


沈黙が落ちた。


松明の炎が揺れる。影が壁に踊った。


「光側に、闇に適性を持つ者が……?」


上官が呟いた。紫の瞳が鋭くなる。


「ありえん。光種族に闇の力は宿らない。世界システムがそれを許さない」


「私もそう考えました。ですが——あの反応は見間違いではありません」


将の声は淡々としていた。

軍人の報告。事実だけを述べる口調。


「ゼクス様のお耳に入れるべきかと」


上官の表情が強張った。


魔王ゼクス。

闇種族を統べる王。その名を口にするだけで、広間の空気が重くなった。


「……わかった。報告は私が上げる。お前は部隊を休ませろ」


「はっ」


将が立ち上がり、広間を出た。


上官は一人残り、松明の灯りを見つめていた。


光側に、闇に適性を持つ者。

世界システムが許さないはずの力。


「——500年前に滅びたはずの、あの種族ではあるまいな」


誰にも聞こえない声で、呟いた。


松明の灯りが揺れた。

闇の砦に、新たな影が忍び寄っていた。


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