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人間だと思っていた俺、実は滅びた古代種族の生き残りでした  作者: みちおもち


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鍛冶師の旅立ち

朝靄の中で目を覚ますと、ガルドの姿がなかった。


焚き火はまだ微かに燻っている。

フィルはリーナの隣で丸くなって眠り、ベルは木にもたれたまま薄目を開けた。


「ガルドなら鍛冶場だよ。夜明け前に出て行った」


「……起きてたんですか」


「斥候は寝てても耳が立つのさ」


ベルが欠伸をして立ち上がった。


鍛冶場に向かうと、ガルドが焼け跡を片づけていた。


崩れた屋根の残骸を脇に寄せ、散らばった工具を一つずつ拾い上げている。

壊れたものと使えるものを、迷いなく仕分けていく。


使える工具を革袋に詰めていた。

ハンマー。鑢。火箸。焼き入れ用の掴み。


旅に持っていく道具を選んでいる——そう気づいた時、胸が跳ねた。


「ガルドさん——」


「……待て。まだ言ってない」


ガルドが背を向けたまま、工具を袋に詰め続けている。

俺は口を閉じた。


やがてガルドが立ち上がり、鍛冶台の前に歩いた。


煤だらけの鍛冶台。

何年もハンマーを振るってきた場所だ。


ガルドの指が、台の縁に刻まれた文字をなぞった。

イーラ。昨日ベルが見つけた、あの名前。


太い指が、一文字ずつ、丁寧に辿っていく。


「……行ってくる」


声は小さかった。

聞こえるか聞こえないかの、呟き。


けれどその一言に込められた重さは、俺にもわかった。


ガルドが鍛冶台から手を離した。

背を向ける。


振り返らなかった。



  * * *



あの老人が集落の入り口で待っていた。


杖をついて立つ小さな背中。

ガルドを見上げて、皺だらけの顔を綻ばせた。


「出て行くのか」


「……ああ」


「そうかい」


老人が頷いた。驚きはなかった。

わかっていたのだ。昨夜のガルドの顔を見て。


「お前はもう充分ここを守った。三十年だ。もういいだろう」


三十年。


この男は三十年間、一人でこの集落を守り続けたのか。


「……住人は避難所に分散させた。防壁も直した。しばらくは持つ」


「ああ。お前がいなくても、わしらは生きるよ」


老人がガルドの腕を叩いた。

ガルドの身体に比べると、枯れ枝のような手だ。


「生きて帰ってこい。鍛冶場は残しておく」


ガルドが顎髭を撫でた。

鉄灰色の目が、一瞬だけ揺れた。


「……ああ」


それだけだった。

三十年を共にした集落との別れが、たったそれだけだった。


けれどその短い声の中に、すべてが詰まっていた。



  * * *



俺たち四人は、集落の広場で出発の準備をしていた。


荷物をまとめ、水筒を補充し、リーナが薬草ポーチを確認している。

そこに、ガルドが革袋を肩に担いで歩いてきた。


戦斧と大盾。背中の革袋には鍛冶道具。

旅の装いだった。


ガルドが俺たちの前で足を止めた。

四人の顔を、一人ずつ見た。


「……恩を返す」


低い声だった。


「お前たちが来なければ、俺は死んでいた」


「ガルドさん——」


「お前たちと行く」


静かな声だった。

けれど揺るぎがない。岩のように。


「ガルドさん、でも集落は——」


「あの爺さんに任せた」


ガルドが顎髭を撫でた。


「……ここで一人で壁を直しても、また来る。何年もそうだった。次はもっと多い。その次はもっとだ」


初めて聞く、長い言葉だった。


「根を断たなきゃ、守れるもんも守れん」


ガルドの目が俺を見た。

昨夜の焚き火で交わした、あの鉄灰色だ。


「お前は、仲間が危ねえ時に迷わず前に出た。言葉じゃなく身体で」


昨日の夕暮れの会話が蘇った。

弟も、そういう奴だった——と。


「そういう奴の隣なら、斧を振るう甲斐がある」


胸の奥が熱くなった。


「……よろしくお願いします」


「ああ」


フィルが駆け寄ってきた。


「おっ——ガルドさんも一緒に来るのか!?」


「……おっさんって言いかけただろ、小僧」


「言ってない!」


ベルがケラケラと笑った。


「五人パーティか。前衛が厚くなったね。坊やとガルドが前、嬢ちゃんとチビ助が後衛、あたしが遊撃。いい布陣だ」


リーナがガルドに水筒を差し出した。


「ガルドさん、よろしくお願いします」


「……ああ。よろしく頼む」


ガルドが水筒を受け取り、一口飲んだ。


ベルが指を鳴らした。


「パーティを組むなら戦力共有だ。ガルド、ステータスを見せな」


「……ああ」


ガルドが無言で指先を払った。

半透明のウィンドウが浮かぶ。


```

名前: ガルド

種族: ドワーフ


【技能】

剣技: 6級

闘技: 6級

火魔法: ---

水魔法: ---

風魔法: ---

土魔法: ---

光魔法: ---

闇魔法: ---


【使用可能技】

スラッシュ / スティング / ツインアーク / ソニックエッジ / ストライク / スピンキック / アイアンガード / シェルブレイカー

```


フィルが声を上げた。


「剣技も闘技も6級!? 魔法なしで6級って——」


「ドワーフは魔法を使わん。身体と武器で戦う」


ガルドが当たり前のように言った。


ベルが口笛を吹いた。


「物理特化の6級か。しかも技が八つもある。あたしらのパーティ、前衛が一気に厚くなったね」


6級は熟練のベテランが到達する領域だ。

魔法なしでそこに至ったということは、純粋な身体能力と技術だけで戦い続けてきたということ。


三十年間、一人で集落を守り抜いた男の実力。

伊達じゃなかった。



  * * *



夕方、山道を下りながら野営の準備をしていた時、なんとなくステータスウィンドウを開いた。


半透明の板が浮かぶ。


数字を見て、目を疑った。


```

——世界システムより通知——

【剣技が6級に昇格しました】

【新技能を付与: ソニックエッジ】

【闘技が9級に検出されました】

【新技能を付与: ストライク】

【火魔法が7級に昇格しました】

【新技能を付与: フレイムウォール】

【水魔法が8級に昇格しました】

【新技能を付与: アクアシールド】

【風魔法が7級に昇格しました】

【新技能を付与: エアシールド】

【土魔法が8級に昇格しました】

【新技能を付与: アースウォール】

【光魔法が8級に昇格しました】

【新技能を付与: ルミナスシールド】

```


```

名前: レイン

種族: 人間


【技能】

剣技: 6級

闘技: 9級

火魔法: 7級

水魔法: 8級

風魔法: 7級

土魔法: 8級

光魔法: 8級

闇魔法: ---


【使用可能技】

スラッシュ / スティング / ツインアーク / ソニックエッジ / ストライク / フレイム / フレイムアロー / フレイムウォール / アクアショット / アクアシールド / ウィンドカッター / ヘイスト / エアシールド / ロックショット / アースウォール / ライトボール / ルミナスシールド

```


「……は?」


リーナが覗き込んで、固まった。


「全部上がってるんだけど……!? しかも闘技まで付いてる!?」


「闘技? 修行なんかしてないのに——」


ダークドワーフとの戦いで、咄嗟に拳を使ったことを思い出した。

あの一撃だけで、世界システムが検出したのか。


「全部上がってるのかよ!?」


フィルが目を丸くした。


ベルが腕を組む。

琥珀色の目が真剣だった。


「坊や。あんたの成長速度、ちょっと異常だよ。ほんの半月前は9級だった魔法が軒並み7〜8級って——普通ありえないからね」


「わかってる。俺にもわからないんだ」


ガルドが俺に向き直った。


「……お前の級は上がり続ける。なぜだかはわからん」


鉄灰色の目が、真っ直ぐ俺を見た。


「だがその力、正しく使え」


重い言葉だった。

家族を闇に奪われた男の、経験から絞り出した言葉だ。


「……はい」


ガルドが頷いた。


「闘技が付いたなら、教えてやる。剣だけじゃ守れないものがある」


「お願いします」


夕焼けが山道を染めている。

五人で国境の先へ向かう。


強くなっている。確かに、異常な速さで。

それが何を意味するのか、まだわからない。


けれど——使い道は決まっている。


仲間を守るために。


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