氷
教室の空気はまさに気まずいの一言に尽きた。
何故かというと必死に神羅に声を掛ける日陰に対し、神羅がその言葉を悉くスルーするからである。
「し、神羅君…?えっと、委員にえらばれたから…その、そろそろ本から目を離してくれないかな?」
日陰は少し気まずそうに、クールに無視を決め込みながらかぶりつくように本に目を落としている神羅に声をかける。
「………」
しかし、悲しきかな。完全にスルーされていた。
「し、神羅君〜?」
基本的に誰とも友好的な関係を築いている日陰でも、クラス一のクールな人には敵わなかったらしい。
困り果て、もはや半泣きだった。
(クールっていうか、ここまでくるといっそ冷酷の方がしっくりくる気がするけど)
「………」
だが、いくら日陰が頑張って声をかけても神羅はぴくりともせず、本に視線を落としたままだ。まるで凍っているみたいに。
(さっさと日陰の方を向いてあげたらいいのに…仕方ない。氷を溶かしに行きますか)
私はガガッと大きな音を立てて椅子から立ち上がると、日陰の隣へと立つ。
そしてー神羅の肩をガッと掴んだ。
「歩友ちゃん!?」
日陰が驚いたように私を見るが、取り敢えず今は神羅だ。
そのまま私は掴んだ手に力をかけて、ぐわんぐわん揺さぶる。
「……ッ!?」
「日陰に声かけられてるでしょ?いい加減に返事をしたらどうなの?」
流石にいくらなんでも、ずっと日陰の方を見もしないのは酷い。
ようやく、神羅は顔を上げると私の手をパシッとはたき落とし眉を顰めた。
「痛かったんだが?」
「あぁ…ごめんね?ずっと声をかけてる日陰を無視するものだから寝てるのかと思っちゃった。おはよう」
そんなわけないだろと言わんばかりの抗議の視線を向けてきていたが、気づかないふりをする。自業自得だし。
私と神羅の間にピリッとした険悪な雰囲気が流れかけた…が、日陰がそれを相殺してくれた。
「神羅君…!やっと反応してくれてよかった〜!体育祭委員の話なんだけど…」
先ほどまでの半泣きだった日陰は何処へやら。すっかりいつものように明るい日陰に戻っていた。
私はそれにほっと胸を撫で下ろしつつ、神羅の方へ視線を戻す。
「体育祭委員…?……あぁ。そういうことか?」
少しの間、神羅は何かぶつぶつ言っていたかと思うと日陰の方へ視線を向けた。
「分かった。じゃあ俺が前に立って司会やるから書記は頼む」
「うん!ありがと〜!」
神羅が本から目を離したことで、やっと会議を始められそうだ。
(なんとか収まった…)
時計を見ると、ようやく一時間目が終わりそうといったところだった。朝っぱらからキツすぎる。体感はもう四時間目くらいだ。
「あぁ〜でももう一時間目終わりそうだな…」
(貴方のせいでね!!いや、あの担任のせいでもあるけど!)
「仕方ない。種目決めは二時間目からにしよう。ひ…天道もそれでいいよな?」
「ん?もちろん!みんなもそれでいいよね?」
日陰が声を大きくし、クラスに向かって問いかける。
「特に反対のものはいないようだな、じゃあそういうことで」
(そりゃまぁあんなドタバタに一時間も耐えた後に休み時間潰してまで会議したい人はいないだろうね…)
そしてキーンコーンカーンコーンと待っていましたと言わんばかりにタイミングよく一時間目の終わりを告げるチャイムが鳴ったのだった。
少し短いかもしれませんが、キリがいいのでここで切りました。次は濃いお話になりそうですのでお楽しみに^ ^




