3.体育祭は問題山積み
朝、余裕を持って登校する。教室に着くと、何故かいつもよりもにぎやかな気配がした。
まるで何か楽しいものがすぐそこまで迫ってきているかのような。その様子はまるで誕生日前日の子供のようだ。
まぁ、何となく楽しそうな感じがしただけで、特に何の確証もないのだが。
(あとで日陰あたりに何か行事でもあるのかと聞いておこうかな)
リュックから教科書を出し、一限目に向けて準備をしながらそんなことを考える。
すると、いつも通りにぎやかな声の集まりが近づいてきた。
どうやら日陰が来たようだ。彼女は持ち前のコミュ力の高さと、細かな気配りで男女問わず校内での人気が高い。それ故に他クラスや多学年ともばったり会える時間帯である朝や昼休みはいつも彼女の周りは人で溢れかえっている。
彼女の真の凄さは誰にも分け隔てなく接せる事なのだろう。
「歩友ちゃんおはよ〜」
私にもこうして毎日声をかけてくれる。
「おはよ、日陰。今日も相変わらず人気だね?」
少し茶化すように言ってみる。
「あはは。そんな事ないよ〜。人気って言っても、四六時中たくさんの人に囲まれてるわけじゃないしね〜」
明るく返される。
最初はグイグイ来るなと思っていたけれど、数日経ち関係性が少し落ち着いてきた今、日陰に対しての印象は変わっていた。彼女は普段明るく笑顔なのでギャルみたいな印象を初めは受けるが、恐らく割とおとなしめのタイプだ。
「それでも。すごい事だと思うよ」
「ありがと〜。でも確かにみんな気合いは入ってるかもね?だってもうすぐ体育祭だし」
朝の盛り上がりの原因それじゃん!
っと、危ない危ない。気になっていたことの答えを知れて思わず心の声をそのまま出しそうになった。落ち着いて返さないと。
「あ〜。それでみんな朝から盛り上がってたんだ」
「まぁ…二学期の一大イベントだし、ね」
言葉の割に、日陰は少し不安そうだ。彼女ならもっと明るく返しそうなものなのに。いや。明るく返さないと言うことは…
「もしかして日陰って運動苦手?」
「あ、あははー…。実はそうなんだよね。は、恥ずかしいからナイショにして〜!」
反応可愛いなぁ…。
「でも、体育祭はどうにもならない気がするけど…」
「そ、そうかも知れないけどね?でも借り物競走とか障害物競走ならまだ大丈夫かも知れないし!」
日陰は自分を鼓舞するかのように拳をぎゅっとにぎる。
「そっか…そうかな…?」
「うぅ…。まぁ、とにかく大事なのは種目だから!リレーとかにならなかったら多分大丈夫だし!うん!きっと多分絶対大丈夫!」
「そ、そっか…種目っていつ決めるの?」
「今からだよ…だからみんなソワソワしてるみたい。私もドキドキする〜!歩友ちゃんは何の種目がいいの?」
「う〜ん…私もリレーは嫌かな」
別に何でも良いけど。
「よし!リレーは回避するぞぉ〜!」
「そうだね」
などと二人で話していると、先生がドアをガラッと開けて入ってきた。
「それじゃあ体祭の種目決めするぞ〜」
体育祭と言うことさえ省略したいのかこの先生…。
だが、それだけで終わるような人ではなかった。
「まぁ、みんなで話し合って自由に決めろ。体祭委員は決まったら男女それぞれ俺に提出な。この時間で決まらなかったら、放課後までに出してくれれば良いから」
一切関与しないのかこの先生…いや高校ともなるとこれが普通なのか?
などと考えていると、そのまま先生はさっさと教室から出ていく。仕事早いな…。
先生が扉を閉めると教室は一瞬シーンとした静寂に包まれた。朝はあんなに盛り上がってたのに…変だなぁ。
「日陰、何でこんなに静かなの?なんか変じゃない?」
そう問いかけながら、日陰の方を見ると…なぜか呆れたような諦めた目をしていた。
(……?)
「歩友ちゃん…実はまだ決まってないんだよ…うちのクラスの体育祭委員」
「ゑ?」
何ですと?
「本当は先生が最初に体育祭委員を決めるところまでは仕切って、そこからバトンタッチ…っていうのが普通なんだけど…忘れてるみたい」
忘れるって…そんな事ある?いやありえるか?あの超せっかちな先生なら。
「マジかぁ…いやそれ普通にやばくない?」
「ヤバいに決まってるよ…しかも体育祭委員は色々と仕切らなきゃいけないし、仕事も多いしで不人気な委員なんだよね…最悪今日は種目ぎめまで行けないかも」
「先に種目を決めることはできないの?そこで比較的出る種目が少ない人とか空いてる時間が多い人を委員に抜擢するのは?」
「それでも別にダメってわけじゃないんだけど…種目決めは割と人気な種目と不人気な種目の差が大きいんだよね…そういう時に仕切ってくれる体育祭委員がいないと、なかなか人数を絞ることができないの」
「あぁ…ジャンケンでも話し合いでも誰か仕切ってくれる人がいないと特定の種目に人が集まりすぎたり、もしくは既定の人数に足りなかったりした場合決めるまでに時間がかかりすぎるのか」
なるほどね…いや、ん?
「じゃあ先生呼びにいけばいいんじゃない?」
「そうなんだけど…正直効率重視がいきすぎてるところがあるからね…早見先生は」
困ったような顔をして日陰がいう。
「あぁ…本当そうだよね!!ね!!」
全くもって激しく同意だ。
転校して最初の説明以来、ほとんど…いや。全くと言っていいほど声を聞いていない担任の早見先生を思い浮かべる。
基本的に職員室に籠り、ほとんどのことを他人に丸投げしている。それは効率重視と言えばまだ聞こえはいいが、はっきり言って担任としては職務を放棄していると言ってもいいだろう。
(私のことも、日陰に丸投げしていたし…)
「でも、流石に今回は呼びに行った方が良さそうだね。私、行ってくるよ」
そう言って日陰が席を立ち、歩き出そうとした瞬間だった。
ガラリとドアが開き、担任こと早見先生が帰ってきた。
一度教室から出ていけば、しばらくは帰って来ない先生の思わぬ早い帰還に教室はざわめく。
先生は教卓につくと、困ったように頭をぽりぽりとかいた。
「あ〜。すまん。体祭委員決めるの俺の仕事だってことすっかり忘れてたわ」
不思議だ。謝っているはずなのに、先生の立ち姿が堂々としすぎて一周回って開き直っているようにしか見えない。
日陰の方をチラリと見ると、複雑そうな顔をしていた。
だが少しすると日陰は気を取り直し、少し気まずそうに椅子を引いて座ろうとしー
「あ、じゃあ委員だが。そこに立ってる天道と…」
「………へ!?」
悲しいことに先生の目に留まり、日陰は体育祭委員に選ばれてしまった。
…おそらくみんな座っている中一人だけ立ち上がっていたため、目立っていたからだろう。何というか…可哀想だ。
早見先生はシュッと後ろを振り向き白板に書かれている日付を確認するとその後にこう告げた。
「じゃ今月は九月だから、出席番号9番の……神羅か。じゃあ、天道と神羅あとよろしくな。俺は今度こそ戻る」
先生は適当に委員を決めるとそそくさと帰ってしまった。
日陰は不自然なところで手を止めたまま固まり、神羅は机の上で分厚い本を広げており席を立とうとする様子は全くない。
「どうしてこうなるかなぁ…」
どうやら転校初めての体育祭は初っ端から問題が山積みのようだった。
2026年一発目です!
ついに歩友が転校してきて初めての行事「体育祭」が始まります。
おそらく次話から本格的に体育祭の前準備が始まってくると思います。え?今は冬じゃないかって?マラソン大会があるところもあると思うのでセーフということにしていただけると…。まぁ、割とお話の進みはまったりなので…きっとそのうち追いつかれると思います。
個人的にはあの二人の関係が気になりますね。(登場人物が少ないのでバレバレかもしれませんが…)
体育祭編楽しんでいただけると嬉しいです!




