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12.体育祭前編

9月下旬。本来なら少しは涼しく、運動もしやすくなるであろう時期だが、こと今日は違ったようだ。

眩しい日差しが、燦々どころかギラギラとグラウンドに体育座りしている私たちを容赦なく照りつける。

(まさか体育祭当日の日差しがこんなに良いとはね)

グラウンドに座って早30分。校長先生やお偉いさん達からのありがた〜い話をただじっと聞いていただけだが、ゴリゴリと体力が削られていくのがわかる。

(この前の台風の反動か何か知らないけど…暑すぎでしょ!?今って本当に九月??)

気取られないようそっと周りを見渡すと、かなりの生徒がゲンナリとした顔で吹き出す汗を拭っていた。

そりゃあそうだ。だって今からが体育祭(ちなみに学年別クラス対抗らしい)の本番なのだから。

しかしそんな中、涼しげな顔で話を聞いている生徒もいた。神羅だ。

(凄いな…こんなに暑いのに)

最早羨ましいとかいう次元を超えて凄いの方が先に来る。

私は正面に向き直るとパタパタと手で顔を仰ぎながら、なんとか残りの時間を乗りきるのだった。


長かった話も終わり、クラスごとに分かれている待機スペースで水分補給をする。

待機スペースにはテントが張られており、貴重な日陰スポットになっている。

しかもグラウンドの様子が少し遠いもののしっかり見えるので、応援にはもってこいだった。

流石に椅子は用意されてないので、立ったまま、グラウンドを走り回って準備をしている体育祭委員であろう人たちを眺める。

私が仲良くなった日陰と神羅は両方体育祭委員に選ばれているので、私は二人が準備に当たっている間は結構暇だ。

他の人に話しかけにいけば良いんじゃないかって?

……それができるなら長年陰キャやってないよ。

私は懐から体育祭のプログラムを取り出すと、最初の種目を確認する。

(えーと、なになに…?1.教職員挨拶、2.生徒代表挨拶、3.外部の方からの手紙朗読、4.100メートル走。…最初は100メートル走か)


〜100メートル走〜

100メートル走はかなり多くの人が参加するので、一回一回で得られるポイントはそう高くはないものの重要な種目だ。

などと考えている間に準備がちょうど終わり、ついに最初の種目が始まるらしい。

さっき、日陰に名前を教えてもらった明地先生がスタートラインのところでピストルの先を上に向けている。

「オンユアマーク…セット!」

バン!!

とスタートの合図がグラウンドに響き渡った。

そして少し経つと、明地先生がまたピストルを上に向けてスタートの合図を出す。

「オンユアマーク…セット!」

バン!!


「オンユアマークッ…セットォ!!」

バン!!


「オンユアマークッ!…セットオォ!!!」

バン!!

明地先生…気合い入りすぎてスタートの合図を出すごとに声量が上がっていってるんだけど。

なんというか…熱血だなぁ。

明地先生から目を逸らし、ざっと着順を見る。かなり順位は入り乱れているが、我らが2組は割と上位の方に食い込めている。

100メートル走は好調な滑り出しと見て良いだろう。


〜200メートル走〜

先ほどの100メートル走は女子がメインだったが、次は男子が主軸の短距離走だ。ここでは4組が優勢だった。


〜借り人競争〜

ものではなく人をゴールに連れてこなければならない種目。ちなみに2組からは日陰が出場している。

ピストルの合図を聞き一斉に四人が走り出す。日陰は…二位だ。

日陰はトラックを走り、お題が書かれた紙が入っている箱まで到着すると迷わず紙を引く。そのままおりたたまれていた紙を開くと、迷わずに本部へと走り出した。

(本部にいる人ってなると…先生かな?)

本部に走っていった日陰は見えなくなってしまったので他の人に目を向ける。

一人は保護者席に、一人は待機スペースに走っていっている。

残りの一人はお題を見て立ち尽くしていたかと思うと急に膝をつき、拳で地面を何度も殴り始めた。

(純粋に怖いって…)

いったいどんなお題だったらあんな反応になるのだろう…。

すると日陰が本部から誰かの腕を引っ張ってゴールへと走って行く。

(えーっとあの人は…って早見先生!?)

日陰は顔を真っ赤にしており、早見先生を全力で引っ張ってゴールへと走っていこうと頑張っているのが伝わってくる。

しかし肝心の早見先生は両手を何かの紙?とペンで埋めており、日陰はそれの邪魔にならないように腕を引っ張っている。

見ているだけでもやりづらそうな感じが伝わってきた。

結局日陰は途中で二人に抜かされてしまい、三位に終わった。


日陰が疲れた様子で、手をプルプルと振りながら待機スペースへと帰ってきた。

「お疲れ様、日陰」

私は日陰を労う。

「うう、まさか三位なんて…お題引いた時はいけると思ったんだけどなぁ」

「お題は何だったの?」

「えっと、私のお題は"今の担任の先生"だね」

「なるほど」

それで早見先生だったのか。他にも担任の先生はいるだろうけど、"今の"とついているせいで早見先生に限定されている。

「早見先生が本部で体育祭の点数計算の仕事に当てられていることは知ってたからいけると思ったんだけどね…悔しい〜!」

「早見先生側に協力する気が全く感じられなかったからね…仕方ないと思うよ。むしろあの状況では大健闘だと思う」

ていうかそれで早見先生は紙とペンを持っていたのか〜。

…いや本部の机に置いてきなよ!!

なんで持ってきてるの!?

「ちなみに他のお題は、"クラスで最も仲の良い友達"、"小学生以下の子供"、"彼氏または彼女"の三つだったみたいだね」

「へぇ…じゃあお題の箱のところで絶望してた人のお題ってまさか…」

日陰が苦笑いで答える。

「"彼氏または彼女"だったみたい。彼女いない歴イコール年齢の俺に対する当てつけか!?って4組の生徒が発狂してたよ…」

「うわぁ…ていうかそんなお題アリなんだ」

「まぁ、いくつかはハズレも混じってるらしいからね…。でも彼氏や彼女がいない人も割といるわけだしちょっと不公平かな、とは私も思ったんだけど…」

「だけど?」

「その時は他の人の彼氏や彼女を連れてくれば良いじゃん。別に自分の彼氏または彼女なんて書いてないよ?って委員の人が言ってたよ…」

日陰はかなり引いた顔をしていた。

私も同感だ。

「いや他の人の彼氏または彼女って…連れて行く時めちゃくちゃ気まずいでしょ!?基本手を繋がなきゃいけないわけだし」

「本当にね…。お題に当たらなくてよかったよ」

日陰は疲れた顔でしみじみとそう言った。


〜障害物競走〜

私は気を取り直して日陰に聞く。

「この種目は神羅が出るんだっけ?」

「そうだね…結構大変だからなぁこの種目」

「大変?たしかに普通に走るよりは疲れそうだけど、そんなに?」

「そんなにだよ。そもそもシンプルに障害物が多いのと、走る距離も3000メートルと長いんだよね」

「3000メートル…!?そんな走るの!?」

「しかも普通にじゃなく障害物があるからね…ハードル、水濠、網潜り…そしてラストのぐるぐるバットからのボール投げ!目が回った状態で、九つある的を全部ソフトボールで抜かないといけないの。これが本当にキツいらしいんだよね…」

「神羅そんなのに出て、リレーとか出来るの?いくらお昼休憩があると言っても絶対リレーする元気なんて残らなさそうな種目だけど」

「普通ならそうだろうけど、玲君なら絶対大丈夫だよ!」

日陰の声は神羅への厚い信頼に満ちていた。

「まぁ、日陰がそこまでいうなら大丈夫なのかなぁ…?」

(日陰は私よりも幼馴染として神羅のことを知っているわけだし、それに運動神経もいいって聞いたしね)

それを踏まえても普通にオーバーワークだとは思うけど。

しかし種目が始まり、そんな心配は無用だったのだと否が応でも思い知らされた。

当然のように一位でゴールした神羅が、3000メートルも走った後だというのに悠々とこちらに歩いてくる。

流石に走り終わった後には息が乱れていたはずだが、こちらに辿り着く頃には息が乱れるどころか汗さえ見当たらなかった。

「神羅って本当に普通の人間…?」

「れっきとした人間だが?」

涼しい顔で返される。

「玲君凄いね!カッコよかったよ〜!ハードルも水濠も軽々飛び越えちゃうし!」

「そ、そうか…?」

神羅が少し照れたように頰をかく。

「しかも全部の的を一回で抜いちゃうなんて!前代未聞じゃない!?」

日陰は相変わらずの眩しい笑顔で玲君凄いよ、おめでと〜!と言っている。

(今なら分かる…確かにこんなエグいの見せられたら自信を持って絶対大丈夫って言えるよね…まさかここまでとは)

正直神羅のことを舐めていた。

そしてこれなら…昼休憩と応援合戦の後。最後の競技である男女混合リレーでも大差をつけて優勝することができるだろう。


〜昼休憩〜

私は日陰と一緒にお弁当を持って保護者席の方へ移動する。

(日陰の両親と会うのは初めてだし、少し緊張するなぁ)

などと考えながら日陰と雑談しつつ、移動する。と、ふいに刺すような視線…いや。それ以上の厳しい敵意を感じた。

(確か前にこんな感じの視線を向けられた時は神羅だったけど…今回は違う。警戒というよりは敵意。最早殺意に近いかもしれない…一体誰が?)

「あ、お父さ…ん?」

日陰の声がトーンダウンする。

そして私も気づく。視線の主…日陰の父親に。

私への激しい敵意を隠そうともせず、思いきり睨みつけてくる。

なるほど、これは神羅があんな顔をするわけだ。

しかし、睨みつけられただけで特に他のアクションは起こされていない。

(少しずつ追い詰められて行く感じ…ね)

確かにこれはさぞ居心地が悪かったことだろう。私はこういう視線に慣れているからまだ平気だが…少なくともこの視線に晒されながらご飯を食べたいとは思わない。

「お、お父さん…えっと、紹介するね?私の新しい友達の揣摩 歩友ちゃん。最近仲良くなってよく話してるんだけど…その。一緒に食べていいかな?」

日陰がおずおずと言った調子で尋ねる。

すると、日陰の父親は厳しい顔をした。

駄目だと言いたいが、愛娘のお願いは聞き入れたい。が、しかし…と言ったところだろう。

悩んだ末に日陰の父親が口を開く。

「日陰、先にお母さんのところへ行きなさい。お父さんはこの子に少し話がある」

日陰は心配そうに私を見つめた。

「え、でも…」

「大丈夫だよ、日陰。私のことは心配しないで先にいってて」

即答する。これは勘だけれど、ここで日陰に悲しい思いをさせようものなら私の平穏なお昼は決して訪れない気がした。

…今更だけど、なんでお昼ご飯ひとつでこんな大騒ぎになってるんだろう。

すると日陰のお父さんが、日陰が見えなくなったのを確認し、ずいっと距離を詰めてきた。日陰のお父さんはかなり大柄で、近づかれると割と迫力がある。

「なんでしょうか?」

一応聞いてみる。

「君は本当に日陰の友達なのか?」

見定めるような視線を向けられる。嘘などつけばすぐに分かるぞと言わんばかりだ。

真面目な場面だからあんまこういうこと言いたくないけど…すっっごいデジャヴ!!

「えぇ。はい。席も隣で、転校してきてからすごくよくしてもらっています」

「そうか」

「そうですね…?」

日陰のお父さんが何かいいたげに口を開いたり閉じたりする。

しかし、覚悟を決めたようで急にカっ!と目を開くと本題らしい問いを投げかけられた。

「間違っても、神羅 玲とかいうあの憎たらしい小僧目当てじゃないだろうな!!えぇ!?」

神羅は一体何をやらかしたんだか…。日陰のお父さんも憎たらしい小僧は言い過ぎだと思います。

「目当てということが、神羅と付き合うために日陰と仲良くしているということを指すのでしたら違いますね」

「それは本当か?」

「本当ですよ…フフッ」

「何が可笑しい?」

やっちゃった…まさか笑ってしまうとは。

でもまぁ正直にいうしかなさそうだ。

「すみません、思い出し笑いです。憎たらしい小僧…でしたっけ?神羅と仰ることが一緒だなぁと思いまして」

「一緒…だと?私とあの小僧を一緒にするとは!愚弄しているのか!?」

やらかした。地雷踏んだっぽいな。

「そうですね。どちらも日陰をすごく思っていることが分かるので。その点で一緒だなぁ、と」

「む、う…」

日陰のお父さんが言葉に詰まる。ここで下手に否定したり難癖をつけると自分が日陰のことを思っていないということになってしまうからだろう。

言葉にはしなかったが、神羅と日陰のお父さんはどちらも日陰に弱すぎるところも共通していると思う。

日陰のことが大切だから。

日陰に傷ついて欲しくないから。

ここまでして守ろうとするのだろう。

これほどまでに暖かく思われている日陰が羨ましく感じた。

「…いいなぁ」

すると、ひょこっと小柄な女の人が出てきた。

「何が"いいなぁ…"なんですか?」

「え!?あ、独り言です!気にしないでください」

まさか口に出してしまっていたとは。

しかし私がその女の人に目を向けた頃には、既にその人は日陰のお父さんにビシィ!と人差し指を向けて怒っていた。

「ていうかあなたも!前に話したでしょう!?そうやって日陰のことを制限しすぎるのは良くないと!もしかしてまた睨みつけたりしたんじゃないでしょうね!?」

「えぇ!?い、いや。その、だな…?」

女の人は私の方に向き直るとぺこりと頭を下げた。

「本当にごめんなさいね?怖かったでしょう。うちの夫の悪いところなの。あ、私は日陰の母です。この人は気にせず、これからも日陰と仲良くしてくれると嬉しいわ」

「気にせずとは…流石に酷くない、かね?」

意気消沈した様子で日陰のお父さんがいう。

「全くどの口が言っているのかしらね?あぁ、ごめんなさいね?えぇっと、歩友ちゃん、だったかしら。向こうの方で席を取っているからついてきてもらえる?」

特に気にした様子もなく日陰のお母さんが続ける。

……この人強すぎない?

(ていうか私の名前知ってるんだな…日陰が話したのかな?)

「あ、はい!向こうですか?」

「えぇ。こっちよ」

そして先導してくれる日陰のお母さんと、後ろからトボトボとついてくる日陰のお父さんにサンドイッチされて私はなんとか日陰のところへと辿り着いた。

日陰は私を見つけると、パァッと顔を輝かせる。

「歩友ちゃん!良かったぁ!お父さんのせいだろうけど、あまりに遅いからお母さんと心配してたんだよ〜!」

すると思いっきり抱きつかれた。日陰がここまで感情を表現するのは珍しい。私は一瞬驚いたものの、しっかりと日陰を抱きとめた。

「何はともあれ、これで一緒にご飯が食べられそうだね!」

「そうだね…」

ここに至るまでが本当に大変だった。

ちらりと日陰の両親の様子を伺うと、嬉しそうな日陰の様子を見て少し涙ぐんでいた。流石にもう止められることはなさそうだ。

そして私は日陰と美味しいお弁当を食べて昼休憩を満喫したのだった。

ついに歩友にとって初めての行事である体育祭本番が始まりましたね!

割とキャラも出てきて、賑やかな回になったのではないでしょうか。

特に日陰両親は割と初期から存在をちらちら仄めかされていたものの実際に喋ったのは今回が初めてですね。

姿を見せないあの人が少し気になるところですが…おそらく次話あたり出てくるような気がします。

楽しみに待ってていただけると作者が喜びます^ ^

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