11.体育祭前日
ザァァァァ!と激しい雨が窓を叩きつけるように降っている。
私は教室の窓の外から空を見上げ、ため息をついた。
「明日は体育祭だっていうのに…大丈夫なのかな」
と、横からいつもと少し違う暗い声が聞こえた。
「まさかちょうど台風が来ちゃうなんてね〜。…なんとか体育祭委員としての準備はできたものの、リレーの練習は結局全然できなかったよね」
日陰はごめんね…と顔の前で手を合わせて律儀に謝る。
「いや台風や委員はどうしようもないし、仕方ないよ。委員は神羅もやってるわけだし、シノも生徒会関連が〜ってみんな忙しかったわけでもあるしね。え〜っと、だから、何が言いたいかっていうと…日陰が謝ることじゃないと思う!ね?」
なんだか最後らへんはグダグダになってしまったが、勢いでゴリ押すと日陰はほっとしたような顔になった。
「そう言ってもらえるとありがたいよ…。あ、そういや結局歩友ちゃんは生徒会に入ることにしたんだよね?仕事とかどうなってるの?」
「う〜ん…私も良く分かってはないんだけど…シノから聞いた話だと書類関連で色々処理しないとといけないから本格的に私が生徒会として働くのは体育祭の後になりそうな感じみたい」
「そうなんだ…確かにそんなすぐにどうこうはできないよね」
「つまり私視点はとりまリレーに集中!ってことになるかな」
「リレー…そっか明日がついに本番なんだ。うぅ〜…緊張するなぁ」
「でもこの連日の大雨だとグラウンドの状態が心配だね。流石にグラウンド全体が水浸しなんてことになれば体育祭は延期になる可能性もある…いや延期になるならまだしも、最悪グラウンドがグチョグチョの状態でリレーをしなきゃいけないなんてことになりかねないよ」
「うわぁ…それは嫌だ〜!!走りにくそうだし靴も汚れそう」
日陰が顔を顰める。
「そうだね。でもまぁ、明日の天気次第だと思うよ。快晴になることを願おう」
「そうだね!私てるてる坊主作っとくよ!!」
「てるてる坊主か…いいね。私も作ろうかな」
グラウンドの状態がいいに越したことはない。
にしてもてるてる坊主か…最後に作ったのは一体いつだったかな。
〜翌日〜
「おはよっ!歩友ちゃん」
心地よい日差しの下、元気よく日陰が片手をあげて挨拶をしてくれた。
「おはよう、日陰。取り敢えず晴れてよかったね。グラウンドの状態も普通に走れるくらいにはなってる。日陰のてるてる坊主のおかげじゃない?」
すると日陰は照れたように頬をかく。
「えへへ。そうかなぁ?そうだったら嬉しいな。テルテルくんを作ってよかったぁ」
「名前つけてる…」
「誰だそいつは?」
すると、上から不機嫌そうな声が聞こえた。
しかし日陰は臆することなく声の主…神羅へと事情を話していた。
「心配しなくてもてるてる坊主の話だよ、神羅」
私も一応一言だけ補足しておく。
「別に心配などしていない。少し気になっただけだ」
嘘だなぁ…絶対気にしてた反応でしょ今のは。そうじゃなかったらテルテルくんなどと言う明らかそのまんまなネーミングに神羅が気づかないわけがない。
(…まぁ、そういうことにしておいてあげるか)
「…そういえば、日陰のご両親は今年も体育祭を…その。見に来られるのか?」
神羅がどこか気まずそうに言う。
て言うか神羅かなり露骨に話題変えたな、今。
しかし日陰は特に気にした様子はなく、普通に答えた。
「うん!見に来てくれるって言ってたよ。お父さんとお母さんは今日のために仕事の休みも前もって取っててくれてたみたい」
「そ、そうか…それはよかったな」
「うん!見に来てもらえるからには頑張らないとね!玲君のところは今年はどうなの?」
「母上だけ来ると言っていたな。母上以外は仕事が忙しくて来れないと言っていた」
「そっか仕事か…玲君のお家は凄いもんね!」
日陰の純粋な視線に耐えきれなくなったらしく、神羅は私の方へと逃げるように視線を移し、問いかけてきた。
「…まぁ、な。揣摩のところはどうなんだ?」
「ん?ん〜…私は毎年お兄ちゃんが見に来てくれてたんだけど、今年はなさそうかなぁ」
「え!?歩友ちゃんお兄さんがいたんだ…」
「まぁね。と言っても結構歳は離れてるんだけど」
「そっかぁ…てことは歩友ちゃんのところは誰も見に来れなさそう?」
「ん〜…多分そうかな」
「あ、いや、変な意味じゃなくて!!歩友ちゃんとはせっかく仲良くなれたわけだし、一緒にお昼とか食べたいなって思ってただけだよ!?」
焦ったように日陰が顔の前で手をブンブン振りながら言う。
「別にそんなに気を遣ってくれなくても大丈夫だよ。それにお昼も最近ほとんど一緒に食べてるし。もちろん日陰がいいならお弁当一緒に食べよ」
「ホント!?やったぁ!……あ」
日陰が急に何かに思い至ったと言うように、さぁっと顔を青くした。
「………」
神羅は日陰が何に思い至ったのか分かっているようで、苦虫を噛み潰したかのような顔をしている。
「…?日陰、どうかした?」
「あ〜…いや、その……えっと、なんて言ったらいいのかな…」
言いづらそうに日陰が口籠もる。
「日陰のご両親は少し、少々…いや。正直に言うとめちゃくちゃ過保護なんだ」
「最後開き直ったね、神羅」
っとツッコんでる場合じゃなかった。
「過保護?別にそれでも一緒にご飯食べることに関係はしなくない?」
「俺は数年前、日陰に誘われて一緒に食べようとした時、日陰のご両親にそれはもう怒られてな…秒で追い出された」
「あらま」
「怒ると言っても怒鳴りつけるとか暴力を振るうとかではなく、ただ静かに少しずつ少しずつ追い詰められていく感じなんだよな。反論できるわけもないし、控えめに言って結構なトラウマだ」
神羅は遠い目をしていた。
「あの時は色々あったからって言うのもあるとは思う…。それに多分歩友ちゃんは大丈夫だと思うんだけど。玲君っていう前例があるから…」
「なるほどね。まぁ、追い出された時はその時はその時だよ。私は気にしないし」
「あはは…。そう言ってもらえると助かるよ」
日陰は苦笑いをしていた。
すると突然、キイィィン!と甲高い音がグラウンドに響き渡った。
思わず反射的に耳を塞ぐ。今の音は…スピーカーから?
「コホン。あーあー、テステス。聞こえてるかー?よし。大丈夫そうだな!さっきはすまんかった!ハウリングの嫌な音が聞こえたかと思うが、多分もう大丈夫だから安心してくれ。えーっと…それじゃあ各クラスグラウンドの決まった場所に整列開始ー!」
男の人の元気な声が聞こえてくる。多分先生かな?
「今のは多分明地先生だね!整列開始だって!一緒に並びにいこ、歩友ちゃん!!」
「うん。それはいいけど…明地先生?って誰だっけ?」
日陰と一緒に整列場所へ歩き出しながら聞いてみる。今の元気な声は何処かで聞いたことがあるような気がするけど、思い出せない。
「明地先生は歩友ちゃんも見たことあるよ!だって隣の1年1組の担任の先生だし。私たちのクラスが1年2組でしょ?」
「うん。そうだね」
「で、私たちのクラスの担任の早見先生の代わりに時々終礼とか連絡とか代わりに伝えに来てくれてた先生いるでしょ?」
「あー…あのいっつもジャージ着てる人?確か体育の先生だったような」
「そうそう!その人が明地先生」
「言われてみれば…早見先生の代わりで時々来る明るくて賑やかな先生だなーっていう浅い印象しかなかったわ」
私はあっけらかんという。人の顔と名前がなかなか一致しないんだよね…。
早見先生ぐらいインパクトがあればすぐ覚えられるんだけど。
「あはは…まぁそんな感じだけど。私は結構熱血な印象が強いかなぁ。気合い!根性!やる気!って感じ。持久走の時とかひたすら頑張れー!って声かけてるしね」
「うわぁ…」
悪い人ではないんだろうが…あまりお近づきにはなりたくないタイプの先生だ。
と言っても、早見先生が担任である限りはたまに顔を見ることにはなるんだろうけど。
まぁ、他のクラスの面倒をわざわざ見に来てくれるくらいだし、いい人ではあるんだろうな…。
などと考えながら歩いていたら、指定された整列場所についた。
いつもは顔を合わせることのない他学年の生徒や先生も勢揃いしている様子を見ると、ついに体育祭が始まるのだなという実感が遅ればせながら湧いてくる。
私は何事もなく終わるといいな…と、淡い希望を抱き、体育祭開始の合図を待つのだった。
今回は新たに明地先生が登場しました^ ^
それでは明地先生、自己紹介してもらってもいいですか?(唐突
「もちろんだ!俺に任せろ!!名前は明地 烈!1年1組の担任だぞ!教科は体育を担当しているな!好きな食べ物はカレーだ!!めっちゃくちゃ辛いやつな!」
いつも明るく熱血な明地先生ですが、悩みとかはありますか?
「う〜ん…そうだな。俺は生徒たちみんなと仲良くしようと積極的に話しかけているのに、何故か話しかければ話しかけるほど生徒に距離を取られている感じがするのが最近の悩みだ!!なんでなんだろうな!」
なんでなのでしょうね…?
「俺…知らないうちに何か嫌われるようなことしたかな…?」
さあ…?どうでしょうか!
「そんな!?」
学年一熱血な先生は、実は意外と繊細な一面もあるようです。




