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10.放課後のひととき

放課後のグラウンド。普段は部活動くらいにしか使われないその場所も、体育祭の前日とあっては賑わいを見せていた。

何を隠そう私たちもリレーの練習をしているところだ。

私は日陰から受け取ったバトンをスムーズに神羅へと渡すと、振り返って日陰に話しかけた。

「にしても人多いね〜日陰」

日陰が息を切らしながら答える。

「そっうだね…歩、友ちゃん」

「大丈夫…?」

日陰は額の汗をハンカチで拭うと、ニコッと笑みを浮かべて見せる。

「大丈、夫…!………ふぅ。心配しないで。流石にレーンを使わないバトンパスメインの練習ならそこまで疲れないし」

「いや、本番はしっかりグラウンド走るんでしょ?普通に今息切らしてたら本番だいぶきついと思うんだけど…」

「歩友ちゃんの鬼ぃ〜!私が思っても気にしないようにしてたことを!」

「あ〜…ごめんごめん」

「も〜!」

日陰が頬をぷくっと膨らませて怒ってくる。普通に可愛いだけなんだよなぁ…。

「疲れたなら一緒にちょっと休憩する?」

そんな提案をしてみる。話したいこともあるしね。

「いや、大丈夫!みんなに迷惑かけていられないし、リレーに出るからにはもっともっと練習しないと!!」

日陰はえいえいおーと腕を振り上げる。

私も釣られて腕を上げた。

「お、おー…」

微妙にノリきれなくて、空気が少し冷えた気がしたけれど気にしないことにする。

「二人とも、何やってるんだ…?」

すると、頭上から少し呆れたような声が降ってきた。

「もうグラウンド一周してきたの?速いね、神羅」

馬鹿正直に説明しても仕方ないので話を逸らす。

「別にそんなことはない。普通だ」

普通であってたまるか。

「あはは、レイレイがフツーだったらリレーとか一瞬で終わりそーだねぇ」

シノが少し茶化すようにいう。

「玲君足速いもんね!すごいよ」

日陰が素直に褒める。

「そ、そう、か…?」

神羅が照れ、二人がなんかいい感じの世界を形成する。

「日陰の時だけ反応違いすぎでしょ…」

これでフラれているというのだから、世界は広い。

「二人だけの世界になってるねぇ〜」

シノが面白い物を見たとでも言わんばかりに、すっと目を細めた。

「仕方ないし、帰ってくるまではそっとしておくのが一番かな」

遠回しに少しだけシノを牽制しておく。今この二人の関係を引っ搔き回されてはたまらない。

しかし、シノはもう二人から興味をなくし……誠に遺憾なことに何故かその視線は私を捉えていた。

試しに後ろを振り返ってみるが、こういう時に限って何もない。

(何かあったら話を逸らせたのに…)

なんだかとてもいやな予感がする。

「えっとね、シノ」

「ねーねーウワサの転校生さん、生徒会に入らない?」

「………は?」

幻聴かな?…幻聴だな。

「(いやいやだってあり得ないでしょ!?私まだ転校して来てひと月も経ってないんだよ!?え、生徒会…生徒会??)」

「どうかな〜?決して悪くない提案だと思うんだけど?せ、い、と、か、い」

幻聴じゃないですね、はい。

「い、いや…私まだ転校して来てちょっとしか経ってないし…お役にも立てないと思いますケド?」

挙動不審気味に引く様子を見せておく。

日陰と神羅が両方生徒会の勧誘を断っている以上、よほどのことがない限り生徒会に入ってもコミュ障な私は孤立する未来しか見えない。

下手すれば二人と対立することになってしまう。

二人がそんな狭小な人たちではないであろうことは重々承知だが、大事なのは周りがどうみるかだ。

…と、それっぽい理屈を並べてみたが根底にある思いは一つだ。

「それに…生徒会とか私みたいな一生徒には荷が重すぎると言いますか…」

…そう。正直にいうならば、

「非常に面倒くさそうで気乗りしません」

言い切った…!なんとか言い切ったぞ!

「確かに一見面倒くさそーに見えるかもだけど、あゆぽんに負担がかからないように融通をある程度きかせることはできるよ?」

食い下がってくる、か。面倒な…。

「融通って…それなら名前とかだけになるかもよ?それでもいいの?」

いいよと答えられたら少し困るけれど、シノのスタンスを知るためには多少のリスクはかけなければならない。

「んー…別にそれでもいーよ。ボクは労働力じゃなくてあゆぽんが欲しいから」

シノはいつもの軽い感じを捨て、真面目なトーンで言う。

「……」

でも、私は気づいていた。その瞳は私ではなく、さらにその奥の獲物を虎視眈々と狙っていることを。

生徒会に勧誘しているのに、仕事をしなくてもいいとは…薄々思ってはいたけど労働力としてじゃなく、神羅と日陰を釣り上げるエサとしての期待をされてるみたいだ。

そりゃあ得体の知れない転校生よりも、何倍も役に立ってくれる二人だろうけど。

しかし、こんな方法では誰も幸せにはならない。

まぁ、それならそれで返事を返させてもらうだけだ。

「それなら余計そのお誘いは受け取れないよ。仕事もしないのに名前だけ生徒会にいてもただの迷惑な人だし」

日陰と神羅が生徒会に入るかどうかは本人が決めることだ。

だが、思ったよりもシノの諦めは悪いらしかった。

「どーしてもダメ?受験にだって有利に働くし、仕事だって無理のない範囲を約束するよ?」

「どーしてもダメ」

ここは譲れない。今のこの立ち位置が心地よいのだから。

「生徒会は先生からも一目置かれてるし、先生生徒関係無しでみんなと仲良くなれるよ?アットホームな生徒会だから!!」

「もはやどこからツッコめばいいんだ…」

って…ん?

「生徒会って本当に沢山の人と仲良くなれるの?」

「え?うん!色んな人と生徒を繋ぐ仕事とも言えるくらい」

「へぇ…じゃあ名前だけ入ろうかな」

「ホント!?やったぁ!」

シノがいっそわざとらしいほどに無邪気に喜ぶ。

流石にこれだけ騒いでいた為気づかれたらしい。日陰と神羅が背後から声をかけて来た。

「何がやったぁ!なんだ?」

「レイレイ、あゆぽん生徒会入るってさ」

シノがしてやったとでも言いたげにとびきりの笑顔を浮かべて自慢げな顔で言う。

「え?シノ君、歩友ちゃんも生徒会に誘ったの?」

シノの方を見て、驚いたように日陰がいう。

「うん。仕事も調整するし、沢山の人と仲良くなれるよってあまりにも必死に頼まれちゃったからね。いいかなって」

「揣摩、お前はそういうの面倒臭がるタイプかと思っていたが。本当にそれだけか?」

日陰の反応とは対照的に、神羅は私ヘ猜疑的な視線を向けてきた。

「うぐッ。別に名前だけでもいいって言われてあまりにもしつこかったから諦めた、とかじゃないからね?」

私がそう言うと、神羅が呆れたように返事を返してきた。

「そんなことだろうと思った」

鋭い。少しだけ焦った。まぁでも私から言わなければ思いもしないだろう。

……まさか私が生徒会入りを決めた理由が、先生と仲良くなれるからだなんて。

少し期間が空いてしまいましたが、これからまたまったり更新していきます

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