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5・ソ連侵攻

 こうして1944(昭和19)年4月、アメリカは一方的に対日停戦を宣言し、勝手に戦端を開いて勝手に自滅した。


 日本にすればただの迷惑でしかなく、ようやく雑音が収まるのかという気分であった。

 それほど関心が薄かったのである。


 この時、既に日本からは数十万人の開拓民が新天地へと雄飛し、新たな生活を始めていたのである。


 新天地には大河が流れる大平原が広がり、夏はカラッとした暑さで、冬も大雪が降ることは稀であった。

 そんな穏やかで肥沃な土地の開拓が進むニュースが日本では最大の関心事であり、広大な水田計画に魔導機械が導入されるニュースや、新天地の馬は地球の馬の数倍は力強く、それでいて賢く大人しいと言ったニュースがお茶の間を席巻していた。


 その頃、欧州では戦争が佳境を迎え、7月には多大な犠牲を出しながらもノルマンディーへと米英軍が上陸を果たしていた。


 本来ならば6月に予定された上陸作戦だったが、アメリカ大統領の弾劾とそれに伴う臨時政府への政権移行という混乱からひと月延期されていたのであった。

 その間にドイツ軍が守りを固めた事から上陸作戦は難攻を極めたものの、物量に勝る米英が押し切る形で作戦を成功させた。


 それから1年あまり戦争が続き、1945(昭和20)年5月18日、ソ連軍による総統官邸占領によって戦争が終結したのであった。


 日本には何の関係もないニュースであったので、ラジオでは後回しにされ、新聞には数日遅れで掲載されたほどである。


 そんな、完全に地球への関心が薄れていた日本であったが、世界はそうではなかった。


 ソ連はドイツとの戦争が終わるとすぐさま東へと兵を向ける。


 アメリカも、フィリピンへと舞い戻るとすぐさま大陸へと分け入って行った。


 そんな怪しい動きが行われている情報は日本軍もつかんでおり、警戒は行っていた。


 日米講和において、日本は盧溝橋事件以前の状態への回復が再確認され、戦前の状態へと速やかに回復されていた。


 アメリカは戦前同様に日本への石油輸出を再開させるが、思ったほどの輸出量は伸びる事が無かった。

 この頃には、日本は魔導へとそのエネルギー源を転換させていたのである。


 南雲機動部隊は完成された魔導タービン機関を持ち帰り、艦船や飛行機、発電所などに導入されていく。

 さらに、飛行機用を転用して戦車用魔導タービンまで登場したが、当時の技術ではそれが限界であった。

 大型貨物車ならまだしも、バイクや乗用車、農業用などの小型発動機には、魔導タービンでは大き過ぎた。

 

 そこで、ガソリンエンジンを基にした魔導レシプロ機関の開発が行われ、1945(昭和20)年には量産を開始出来るまでになったのである。


 こうして、戦前は喉から手が出るほど欲しかったガソリンが、講和を迎えた頃には不要になっていた。

 まだ民間での魔導機関普及にはほど遠かったが、新たに導入される動力がほぼ全て魔導機関となるのだから、ガソリン需要が増える事には繋がらなかった。

 アメリカは日本を排除して中国市場を盤石にしようにも、新たに日本を挑発するネタも無く、早々に戦端を開こうにも、西海岸の市民感情を鑑みれば不可能となっていた。

 そのため、日本側もあまりアメリカには関心を払っていなかった。彼らが中華大陸で何をやろうと、被害さえ被らなければそれでよかったのである。


 が、ソ連はそうではなかった。


 1945(昭和20)年8月15日、ソ連軍が突如として満州へと侵攻を開始したのであった。


 日本はわずか2週間でハルピンを失った事で魔晶弾の使用を決断した。


 9月3日、ハルピン北方へと魔晶弾が投下され、地上に太陽が出現したのである。


 魔晶弾の原理は極大爆裂魔法(エクスプロージョン)を魔石触媒を用いて再現した魔道具であり、威力こそ驚異的だが、ある特定種族の上級魔法使いなら、普通に使える程度の魔法であり、異世界ではごくありふれた上級魔法の一つと認識されていた。

 陸軍はその威力に魅力を感じ、魔道具開発に邁進したのであった。

 

 異世界ではありふれた魔法との認識であったが、ハルピン北方で威力を解放した魔晶弾の威力は、TNT換算100キロトンと推定される絶大なものだった。


 ハルピン北方のロシア軍陣地には、炭化した遺体が無数に散乱し、燃料は燃え上がり、弾薬は爆発し、鉄は飴細工の様に変形していたという。

 ただし、アメリカが保有している熱核反応兵器(原子爆弾)とは根本原理が異なり、魔石触媒を一定の範囲に散布し魔素を励起し、瞬時に発熱させる事で現象を起こしているので放射性降下物や毒ガス残留物などの汚染物質は生じない。

 ドワーフやエルフによれば、ひと月近く魔力の変調が生じる影響で体調が崩れたり、魔法の暴走が起きるとの事だが、地球人への影響は確認されていない。


 この攻撃によってソ連軍は一瞬で10万人の兵力を失い、観測された巨大なキノコ雲に恐怖する事になった。


 ただ、その情報はモスクワへ届く前に握りつぶされ、9月10日、新たにもう一発が進軍するソ連軍へ投下される事になった。


 さすがに2発の魔晶弾攻撃を受けたソ連軍は進軍を停止させ、ようやく情報が正しくモスクワへと伝えられたのである。

 

 残念な事にモスクワの判断は侵攻継続であり、15日にはイルクーツクが地上から消える事に繋がってしまう。


 イルクーツクへの魔晶弾投下がモスクワへ知らされたとき、はじめて書記長は侵攻停止を口にした。

 こうして9月24日に停戦が発効し、一ヶ月戦争が終結する。


 日本にとっては戦争の終わりだったが、ソ連はウラル以西の復興を優先し、イルクーツクは1年近く再建されなかったため、満州へ侵攻したソ連軍の中には満足な食料も屋根すらない森の中で厳寒の冬を迎える部隊も存在し、極東に住むソ連国民も、シベリア鉄道の途絶によって食料や燃料不足に陥り、帰るあてのない兵士と共に冬将軍の犠牲となる運命が待ち構えていた。


 この戦争は米英にも衝撃を与える事になった。


 まだアメリカしか手にしていないはずの原子爆弾を日本が開発、保有していると見なしたからである。

 だが、日本からすれば極大爆裂魔法(エクスプロージョン)の威力強化型魔道具を開発したに過ぎないと軽く考えていた。

 完全に、異世界魔法使いたちの価値観で判断しており、まさか米英の恐怖の的になっている事など、当時の日本は知る由もない事実であった。


 こうして、勝手に日本を恐れた米英は、以後日本と戦端を開く計画を全て停止した。まさか、ああも簡単に原子爆弾を複数投下する狂った国と戦争などしていられないという判断である。


 ソ連は短期的には日本の逆侵攻を警戒し、イルクーツクを放棄する事で空間防御に徹した。


 1年経っても日本の逆侵攻がない事で、ようやくイルクーツクの再建をはじめるのだが、ソ連太平洋艦隊は再度の魔晶弾攻撃を恐れウラジオストクから退避し、カムチャツカへと本拠を置く体制をとるのであった。


 この頃には米ソ冷戦の兆しも見えていたが、日本は至ってマイペースであった。

 毎日の様に伊豆大島沖へ向かう貨客船に鈴なりの人を乗せた光景も、もはや日常となり、伊豆大島沖からやってくる船にはドワーフやエルフ、獣人の姿が日常的に見られた。


 渦の向こうに得た新天地は開拓が進み、街も姿を現し始めていた。

 ただ、その生活は現地に合わせる様に些か時代に逆行した様にも見えるが、大量輸送には魔法が使われているので鉄道を敷く必要がなく、そもそも魔獣という脅威が普遍的に存在するので街には防壁が張り巡らされていた。


 その様な世界で地球の価値観を持ち込み生活を行うのは難しく、都市部出身者よりも地方出身者の方が現地に馴染んでいたほどである。

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― 新着の感想 ―
>>伊豆大島沖からやってくる船にはドワーフやエルフ、獣人の姿が日常的に見られた。 そして50年後には一般日本人との寿命差が大きな問題に……w この頃は年金問題はないけどガチ年功序列社会だから、あらゆ…
日本のガラパゴス化が進みそうw欧米はいつ気付くのかw楽しみです。
入れ替わるように日本の地方都市にはエルフやドワーフが住み着きそう 別嬪な嫁さんもろたねーなんて光景が。 都市部にはサキュバス?
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