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2・南雲機動部隊の行方

 1941(昭和16)年11月29日、南雲機動部隊の眼前に巨大な漆黒の渦が現れ、彼らを次々と飲み込んで行った。


 僅かに補給隊の油槽船が渦から外れ、事態を日本へと急報する事になった。


 渦にのみ込まれた艦隊は、驚いた次の瞬間には海上に在った。

 先ずは艦隊の安否確認が行われ、何隻か落伍した船がいる事にも気付いたが、今は無線封止中であり、容易に落伍した船の安否確認も出来ないと考えた。


 さらに困った事に、コンパスが狂っている事にも気付いた。


 そうこうするうちに夜になり、彼らはさらに驚く事になる。


 夜空に浮かぶ星座が、どれもこれも見知らぬものばかりだったのである。

 これでは何処へ向かえば良いのか解らないと困惑していた艦隊へ、翌日の朝一隻の帆船が近付いてきた。


 その帆船が光モールスらしき明滅を発していたが、まるで判読出来ない調子なので、駆逐艦に近寄らせて誰何したところ、帆船は意味不明な事を告げてきた。


「君たちを呼んだのは我々だ、勇者よ、我々の為に戦ってくれ」


 と言うのである。


 言葉こそ通じたが、まるで意味の解らない話を一方的に告げる欧米人風の船乗り。


 軍人なので勝手な事は出来ないと告げると、


「ここはあなた方の世界ではない。我々を助けるために別の世界から君たちを呼んだのだ」


 と、さらに意味不明な世迷い言を重ねてくる始末で、まるで話にならなかった。


 そして、その内容を聞いて、さらに意味が分からなくなる。


「人に害をなす魔族どもが勢力を伸長しており、その様な魔族を討伐し、人の世を手に入れなければならないが、そいつらのアジトは海の向こうにあって我々の力では容易に討伐する事が叶わないので、代わりに行って来い」


 と、もはや命令姿勢なのである。


 一体何様で、何を勝手に言っているのか、しかも、言い方からして南雲艦隊がこれから向かおうとしている「敵」と似ているナニカであると。


 ただ容姿が似ている時代錯誤な帆船などという話ではなく、言っている事もやろうとしている事も、まさしく日本人が憎むソイツラであり、これから戦おうとしている相手である。

 だた、目の前の船を沈めたところで事態が解決しないという判断は出来た。


 そこで、そのアジトがどこにあるのかを聞きだすことにしたのだった。


 すると、相手は喜々として、その方角と距離であるらしいことを教えてくれた。


「そうか!では、アレス神の方角へ4千フォリオの場所である!神のご加護があらんことを!!何?方向が分からん?あっちだ、日の昇る方向へ20日の場所である!!」


 と、教えてくれたのであった。


 その言葉に従い、参謀たちは帆船基準で距離を計算し直し、おおよそ4千浬前後の距離であろうと目算を立て、東へと航海を行うのであった。


 そして、その近海へとやって来た時、また帆船と邂逅した。


 その帆船は先日の物よりも進んだ様式をしており、まだ話せる相手かも知れないと考えた南雲艦隊は、その帆船へと簡単な信号を送ってみた。

 相手もどうやら交戦の意志が明らかなものとは思っていないらしく、接近して平和的に交渉が持てた。


 その相手は力士の様な体型をした者たちであり、先の鼻につく欧米人風の者たちよりも親近感が持てた。


 話を聞いてみれば、先の者たちから迫害を受け、また、侵攻を受けている事を知り、より同情的になっていった。

 そして、彼らに先導される形で訪れた陸塊には、産業革命以前と思われる文明度のそこそこ進んだ営みが広がっていた。

 さらに親しみが持てたのは、幸いなことに水田があり、米文化が存在していた事だった。


 悲しいかな、日本とは違いモチ米を主食とする文化であったが、米があるというのは大きかった。


 そこには大掛かりな鍛冶場があったり、見た事もない金属があったり、よく分からない手品師が種も仕掛けもなく芸を振るっていたりと、全く知らない世界が広がっていた。


 そこで、ようやくここが地球では無いのだと、南雲艦隊の誰もが理解せざるを得なかった。


 どうすれば地球へ帰れるのか、自分達には重大な任務があったのに、無理やり訳の分からないヤカラによってここへ飛ばされてきたことを伝えれば、力士風な面々も真剣に相談に乗ってくれたのである。


 さらに、彼らによって眉目秀麗な面々を紹介され、帰還方法を模索する事になった。


 ただ、南雲艦隊には大きな問題があった。


 いつ帰れるか分からないが、ただじっとしていては腕が鈍ってしまう。


 だからと言って訓練を行えば、これから真珠湾へ向かわなければならないのに、燃料を浪費してしまう。当然だが、時間が経てば船体の修繕や貝落としも必要になるし、ずっと海の上にあるのでは機体の寿命が持たなくなってくる。


 そうした事に協力してくれたのは、力士風な面々、ドワーフ族であった。


 そして、眉目秀麗なエルフ族が帰還について研究してくれたのだが、結局数か月内に帰る事は叶わず、そうこうするうちに欧米人風なヤカラが大船団をもって侵攻してきたのであった。


 帰るために研究を行ってくれているエルフや艦船や航空機の維持に協力してくれているドワーフを失う訳にはいかない南雲艦隊も戦いに身を投じ、空飛ぶ物語上の生き物ドラゴンや、海の魔物クラーケンと戦い、燃料や弾薬を消費し、機体を損耗し、船体も損傷した。


 そんな戦いが断続的に2年にも及び、ドラゴンやクラーケンと戦った事で、加賀、蒼龍が沈み、駆逐艦も数隻を失ってしまった。


 ただ、そうした犠牲によって神聖帝国と称する賊を撃退し、平和を取り戻すことが出来たのだが、もはや燃料弾薬もなければ機体も満足に残っていなかった。


 燃料弾薬の消費や機体の損耗は当初から懸念されていた事なので、獣の特徴を有した人々、獣人が中心となって石油の探鉱を行ってくれていたのだが、いささか採掘、製油設備に対して消費量が多すぎた。


 そこでドワーフ達が考え出したのが、この世界で普遍的な魔石を用いた触媒によって熱を発生させる方法だったのである。

 艦艇にはボイラーに替わって熱発生装置を据える事で燃料を必要としなくなったが、航空機の発動機に用いる事は難しかった。


 そこで、タービン機関を駆動する力と同様な装置の開発を始めたのだが、後方へ風を吹かせて進むのであれば、難しい装置は不要ではないかと考えたドワーフによって、熱触媒を用いて空気を熱し、後方へ吐き出す装置が考案され、機体構造が根本から異なる噴式装置を用いた飛行機が製作されることとなった。


 それらが形となり、動けるようになるまでに、さらに3年の歳月を要した。通算5年もの時間をその世界で過ごした南雲艦隊であったが、ようやく、エルフたちが召喚魔法の解析を終え、帰還の目途がたったのであった。


 こうして、ようやく帰還を果たした地球では、まだ2週間ほどしか経過していない事に、南雲艦隊の面々は驚くことになった。

 ただ、還れない英霊たちも相応に居り、ドワーフやエルフ、獣人たちも、ただ帰してしまう事に後ろ髪をひかれ、生じさせた渦を出来るだけ持続させる努力をした結果、行き来が可能となるのであった。

 本当なら志願して地球へ向かった面々のみが、日本において魔導を伝えるという覚悟であったのだが、行き来が可能となったことで、より一層、異世界側が前のめりに協力を行っていくことになるのであった。

 


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