途中経過
「聴き取りの進捗具合はどうですか?」
「うん。今回は初めて人を殺めた話と、高木組との繋がりの始まりのキッカケを知れたよ!」
俺は聴き取りをした調書を纏めていた。
今回はかなり重要な内容を知る事が出来た。
「何だか田所先生…嬉しそうですね…」
「そりゃあね。これでまだ見つかってない事件なんかの手がかりになってくと思うとね。」
「そうですか…」
「他に何かあるかな?」
「いえ…少し心配で…」
「何が?」
「精神科医は患者の心に寄り添い過ぎると危ないと思いますよ。取り込まれないように気をつけた方が…」
「ははは!今まで一応それなりにこなして来てるからね!その辺の距離感は弁えてるつもりだよ!」
「そうですか…出過ぎた意見、申し訳ありません。」
「いやいや、幅広く意見を聞くのも大事だからね。判断が偏らない様にね。また何か思ったら遠慮なく言ってね!」
「はい。有難うございます。それでは失礼致します。」
そう言って、最近入って来た看護助手の人は部屋を出て行った。
看護師からの連絡で来たが、何だか医者みたいな事を言う人だな?と思った。
増田三治は、数々の事件の容疑で逮捕された。
罪状があり過ぎて裁判も何年もかかるだろう。裁判中も新たな被害などが出てくる可能性もある。
ただ、精神状態が不安定でこのままだと、心身喪失となる可能性が高い。死刑は執行出来無いが危険人物な事は間違いないので、野に放たれず一生この警察病院の監獄で監視になるかも知れない。
この、心身喪失で刑事責任無しと判定されるケースはままある。
正直怪しケースも多い。
此方から診て、これはどうだろう?と言うケースもそれなりにあるが、まあ色々な力や圧力なんかでねじ伏せられる事も無きにしも非ず…
ただ…
この増田三治は間違いなく本物だ。
それも、中々お目にかかれない程の怪物だ。
恐らくサイコパスだろう。
本人に罪の意識は全く無い。
まだ、聴き取りも全て終わっていないので、取材等は全て断っている。
噂を聞きつけてチラホラ取材の問合せも来ている。
多分中身を知ると大騒ぎになるだろう。
皆この事件を物語の様に楽しむんだろう。
俺もその読者になりつつ有るのかも知れない…
増田三治の物語の終わりが来るのを恐れているのだろうか…
増田三治には2つの世界が有る。
今供述書を作成している増田三治の物と
ギルドマスターとして生きていたファンタジーの星の世界
此方の星の世界は粗方纏められた。
逮捕当初がギルドマスターだったので、比較的簡単に聴き取れた。
今着手している増田三治の物はまだ途中段階だ。
薬物治療などで此方の世界に引き戻してはいるが、まだ不安定でたまに彼方の世界に入ってしまう。
注意しながら此方に引き戻って来ていて尚且つ精神状態が安定している時に話が聞ける。
中々難航はしているが、俺も我慢強い性格なんで、それ程苦では無い。
現実世界とファンタジー世界の話が大体リンクしていて、それも興味深い。
多少違う箇所は有るが、大きな隔たりは無い。
違いを見つけるのも楽しい作業となりつつある。
当の本人は一体どう言う状況なんだろうか?ファンタジー世界の住人の時には現実世界の記憶は無くなっているのだろうか?
まだ全ての話が終わっていないので、その辺りを聞ける段階では無い。
しかし、それを聞いてしまうと本当にこの物語が終わってしまいそうだ。
もっと聞いていたい気持ちになって来て、さっきの忠告を思い出し、自分を諌めていた。
しかし報告書を作成しているパソコンのキーを打ち込む音は弾んでいた…