3
「恐れ多いぞ!」とトニオが喚く。
「あなたたちのお陰で、時が稼げました。聖宝を奪われず良かった」
「聖宝?」
「ええ。我々側の力の源です」
「こんな田舎にあるのか?」
「かつて、この地は重要でした。敵はなりふり構わなくなり、小さな積み重ねとて、疎かには出来ません」
「よく分からんな…」
ダインは首を傾げた。
まあ、ついさっきまでは死を覚悟していたのだから、今の気分が良いのは間違いない。
聖女が歩きだした。
ユニコーンもついてくる。
「どこへ?」
ダインも続いた。
「聖宝を回収します。そうしないと、またこの村は襲われるでしょう」
「それは困るな。すぐ持っていってくれ」
ついてきたがるトニオに負傷した仲間の治療を無理矢理承諾させ、ダインとオルソンはミリンダルと共に歩く。
不思議と彼女の傍に居ると、疲れが癒える気がした。
村の中央に建つ、小さな祠に着いた。
「ここです」
ミリンダルが祠を指した。
「この昔の祠が何だってんだ?」
オルソンが髭を触りつつ、訊いた。
ダインも両腕を組み、祠を見つめる。
普段から、よく眼にはしていたが、何も感じたことはない。
ダインが筋金入りに魔法に無縁な家系のせいかもしれないが。
キュートに微笑むミリンダルが(そうすると、ただのかわいい娘に見えた)祠に近づいた。
右掌を祠に向けた。
祠が輝きだし、崩れる。
中から出てきた大人の拳大の光球が、ミリンダルの掌に吸い込まれて消えた。
彼女が、ニッコリ笑う。
「これで大丈夫」
「そいつは良かった!」
ダインが手を打つ。
「毎朝、その祠を丁寧に掃除してる婆さんも、明日から昼まで寝れるな」
「否、あの婆さん、元々早起きだからな」とオルソン。
ミリンダルは颯爽とユニコーンに騎乗した。
「それでは、私は行きます。善良な人々よ」
「面と向かって言われると照れるな」
「そうだな」
ダインとオルソンが笑う。
「2人とも、お酒は程々に」
「何で知ってる!?」
「おいおい! 急に母ちゃんみたいなこと言うなよ!」
ダインは苦笑い、驚いているオルソンと顔を見合わせた。
「アハハ!」と美しい笑い声を残し、聖女はユニコーンと共に森の中へと去った。
「聖女なんて、ホントに居るんだな」
「ああ。そのお陰で命拾いした」
2人が聖女の消えた森を見つめていると、トニオが駆け込んできた。
どうやら猛スピードで怪我人たちを治したらしい。
「聖女様は!?」
「もう帰った。彼氏とデートじゃないか?」
「罰当たりなことを言うな!」
トニオが憤慨し、すぐにガックリと肩を落とす。
「私の信仰心をお伝えしたかったのに…」
「あの娘、俺たちが酒飲みなの知ってたから、あんたのことも知ってんじゃないか?」
オルソンが教えると、トニオはすぐに上機嫌になった。
「神よ!」と連呼しだす。
うるさくなった。
しかし、今はそれも許せる。
生きているとは素晴らしい。
神は信じないが、聖女への恩は忘れまい。
今夜は少し、酒の量を減らそうと思うダインだった。
おわり
最後まで読んでいただき、ありがとうございます(*^^*)
大感謝でございます\(^o^)/