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2

 ゴブリンたちの1隊が側面に回るのを見たダインは、それを食い止めた。


 横を突かれれば、こちらはあっという間に戦線が崩壊する。


 剣を振り、敵を血祭りにあげた。


 3分の1ほどの損失を出したゴブリンたちが、サッと退いた。


 これも、今までなら考えられない動きだ。


 余勢(よせい)をかって追撃する手もあるが、ダインは「追うな!」と叫んだ。


 前線を組み直す。


 こちらも5人、負傷していた。


「トニオ!」


 僧侶を呼び、手当てさせる。


 味方は、よくやっていた。


 勝利の可能性はある。


 半数を失えば、敵の戦意も薄れるのではないか。


 しかし、その期待は甘かった。


 ゴブリンたちの背後の黒ローブの男が、何やら呪文を唱えだし、暗闇の中に10の影が揺らめいたのだ。


「ちくしょう! グールだ!」


 オルソンが、地面に唾を吐いた。


 そう、まさしくグールだった。


 おぞましい怪物が10体。


 奴らの鋭い爪は、麻痺をもたらす。


「トニオ! (はら)えるか!?」


「私には無理だ!」


 何故か胸を張って、僧侶が答える。


(だから神など、あてにならん!)


 この窮地(きゅうち)を救ってくれるなら、今から100回でも1000回でも祈っただろう。


 ゴブリンたちが左右に割れ、グールが中央を進んできた。


 この新手との白兵戦は危険すぎる。


 しかし、矢で倒せるほどの射手も居ない。


 案の定、怪物たちの数は減らず、前線に迫った。


 もう、腹を(くく)るしかなかった。


 ダインは絶望的な戦いに身を投じた。


 指揮官が逃げるわけにはいかない。


 敵の邪爪をかわしつつ、2体までは倒した。


 しかし、味方が次々と麻痺し、動ける者は半減している。


 麻痺した者は捨て置いて、まるで誰かの指示に従うかの如く、怪物たちはこちらを包囲した。


 さらに外周を、ゴブリンたちが囲む。


 その向こうには、黒ローブの男が見えた。


 もはや、万策(ばんさく)尽きた。


 あとは少しでも多く、敵をあの世への道連れにするのみだ。


 その時。


 森から、強烈な光が差した。


 それは不思議と温かな、美しい光だ。


 光を浴びたグールたちの醜い皮膚から、煙が吹き出した。


 怪物たちは、苦しんでいる。


「今だ!」


 ダインは叫んだ。


 折れかけた仲間たちの闘志が、盛り返した。


 動けないグールを、次々と片付ける。


 ゴブリンたちも、光に眼が(くら)んでいた。


 光が、こちらに向かってくる。


 その中心に。


「女だ!」


 我ながら、間抜けな声をあげていた。


 まさに女だった。


 馬に乗っている。


 ただの馬ではない。


 純白のユニコーンだ。


 乗り手の10代後半、紫ミドルヘアの美しい娘は、白い軽装鎧を身に着けている。


 右手に持った銀色の片手用ハンマーを(かか)げ、彼女は黒ローブの男に突進した。


 男は何か呪文を唱えたが、それが終わる前に娘のハンマーに殴り倒され、動かなくなった。


 娘はユニコーンをこちらに向け、駆け寄ってくる。


 彼女の接近でグールはますます弱り、ゴブリンたちは散り散りに逃げだした。


 ダインたちが怪物を2体倒す(あいだ)に、娘が残りの敵を全てたいらげてしまった。


 彼女はユニコーンを止め、降りた。


 ハンマーを腰に帯びる。


 全身を包んでいた光が収まった。


「聖女様!」


 トニオが前に(まろ)び出て、深々と頭を下げる。


「何だ、そりゃ?」


 オルソンが訊く。


「知らないのか、この罰当たりめ!」


 トニオが、珍しく怒る。


「伝説の7聖女様だ! 善と悪の戦いに現れ、我々に助力してくださる!」


 どうやら、何かの伝説らしい。


 ダインも娘の(そば)まで進んだ。


 娘は屈託(くったく)のない笑顔を見せる。


「私はミリンダル」


「オルソン」


「ダインだ」


「気安く話しかけるな!」


 トニオがキレた。


「良いのです」


 ミリンダルが微笑んだ。


 若く見えるが、瞳は落ち着き、底知れない何かを秘めている。


「あー」


 ダインは右手を差し出した。


「とにかく礼を言うよ。その…聖女様?」


「それには及びません」


 ミリンダルが握手に応じる。


























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