リズの事情
「それは、ある方々に襲われたのです。」
「襲われた?」
「はい、」
リズが襲われていた?この子は華奢な見た目をしているが、熊や猪を倒せるくらいには強いのに。
「順をおってお話します。私は今年で18歳になりました。」
「え、そうなの?私と同い年だね。」
リズはどうやら18歳のようだ。だが、見た目はあまり18歳には見えない。せいぜい15、16と言った所だ。
「そうなんですね。それなら、タメ口でも構いませんか?」
「うん、大丈夫。」
「ありがとう。」
「では、続きを。18歳になった私は村の同い歳の者達と王都に向かう途中だった。」
「王都に向かう?何故?『才能検査』なら村に王都の方々が来てくれるはずよね?」
「えぇ、本来ならそのはずだった。でも、来たのは馬車と兵士様1人だけだった。そして、私達は兵士に言われて馬車に乗って王都まで向かった。」
「そうだったんだ。私は村まで魔法使い様がいらっしゃったよ。」
「そうなんだ。私の所とは違ったんだ。」
私の所には兵士様どころか、騎士様と魔法使い様もいらっしゃった。この差は一体何が原因なのだろう。
「王都まで向かう途中、トラブルがおきた。それは、『反才能』と呼ばれる反逆者達が馬車の行く手を阻んだ。」
「反逆者?」
「うん。私もよく知らないんだけど、王都では有名なんだとか。兵士様が仰ってた。名前の通り、才能主義を掲げる王様を批判する者たちの集まりなんだとか。」
「へぇ、そんなのがいるんだ。」
(仲良くなれそう)
「その集まりには『才能無し』の烙印が押された者達しか入れないんだって。」
(あ、無理そう)
『反才能』の者達は王都の現状を見たことがあるのだろうか。私も見たのはほんの一部だけだ。だけどそれでもあそこは酷い所だ、と理解出来た。世の中には知らない方がいい事もある、とよく言うが本当にそうなのかもしれない。
事実を知らなければ、何時ぞやのニーナみたいに『才能有り』に選ばれ働くことを夢見ることが出来る。だけど、真実を知っている、知ってしまった者は王都で会った女性や私みたいに脱走を企てる。勿論、働くことが本当に生き甲斐の人も一定数いるとは思うけど。『反才能』の者達は真実を見て何を思うのか。『才能有り』の者達を不憫に思い、今度は違った目的で王様を批判するのか。それとも自分達が『才能無し』だった事を喜び、踊り狂うのか。
「『反才能』の者達は兵士様に言ったの。「助けて欲しければ今すぐ王をだせ」って。」
「目的は王様か。まぁ、当たり前だよね。それで?兵士様はどうしたの?勇敢に戦った?」
リズは私の問に対して悲しそうに首を横に振った。
「兵士様は私達を置いてどこかへ行ってしまった。そして、兵士様は去り際にこう言ったの。「最終的に生き残ってた奴を王都に連れて行ってやる。死んだ奴は花っから才能も運も無かったって訳だ。」て。」
「え、さいっ、、」(最低!)
危ない、一瞬心に留めておく筈だった言葉が口に出てしまった。だけど最後まで言わなかったのだからセーフだろう。
私は咳払いを1度し、話を戻すことにした。
「それで?リズはどうなったの?」
「『反才能』の者達も兵士様の行動に一瞬呆気にとられていたんだけど、直ぐに我に返ったのか私達を襲ってきた。」
「私達は必死に抵抗した。だけど相手は武器も持っているし、人数だって多い。最終的には生き延びる為に無様に逃げるしか無かった。」
「逃げても逃げても敵ばかり。そんな中、私は攻撃を受けてしまった。それでも私は必死で逃げた。意識が朦朧としてたからどの方角から来たのか分からないけど、気づいたらここに倒れていて貴方に助けて貰ったって訳。」
「そうなんだ、大変だったね。」
「うん。でも、貴方に会えてよかった。私には運があったみたい。」
「私もリズに会えてよかった。こうして食べ物にもありつけているしね。」
リズには悪いが、今の会話はパラメーターの録音機能で録音してある。この録音を王様に届けたらあのクズ兵士はどうなるのだろうか。それとも、王様は見て見ぬふりをするのだろうか?私はなんとかあの兵士に痛い目に合わせたい。その為にはどうするべきだろうか。
私は考えた。考えた末、思いついた。
この世界は才能主義。才能有りの中でもレベルが存在する。きっと、レベルが高ければ高い程地位も高くなり、良い役職につけるという制度だろう。あのクズは兵士だ。兵士はそこまで位が高いとは言えないと私は思う。せいぜいLv5か6と言ったところだろう。それなら、リズがそのレベルを上回ればいい。そうすれば、リズの地位はあのクズよりも高いものとなり、そんな人に無礼を働いたとなればあのクズもただじゃ済まないはずだ。
ただ、この作戦には1つ重要な欠点がある。それは、リズの問題だ。この作戦はリズが『才能有り』で、尚且つレベルがクズより上だと言う事を前提に進めている。私に魔法の才能が有れば検査出来たのかもしれない。だけど私の魔法レベルは『才能有り』判定より下だ。これは完全運任せの作戦になる。そして、もし『才能有り』ならばリズをあの地獄に放り込むという事になる。
「ねぇ、リズ。リズは兵士に復讐したい?」
「え?兵士様に?勿論復讐したい。私の友達も沢山怪我をしただろうし、最悪死んでしまったかもしれない。でも、兵士様1人のせいでは無いと私は思う。」
「なんで?」
「だって、元はと言えば『シュガー』のせいだもん。シュガーが王都から逃げ出したせいで今王都はてんやわんや。沢山の人員を割いて探しているらしいよ。」
「そのせいで、私達の村に魔法使い様が来れなかったらしい。」
「へ、へぇ」
(おっと、これは不味い事になったかもしれない、、)
「はぁ、シュガーさえ居なければ私達はこんなことにならなかったのに。」
これは不味い。リズは兵士を恨むどころか私を恨んでいるではないか。私の考えに考えた作戦は全て水の泡。
「そ、そうだね。ねぇ、リズ。もう夜も遅いしそろそろ寝よう。」
「うん。そうだね。」
私は慌てて話を切り上げ、そうそうに眠りについた。これが人生で初の野宿だった。
地面からは勿論土の臭いがした。
当たり前のように暖かくてふわふわな布団はここには存在していなかった。
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