森で女の子を拾いました!
私は今、宛もなく北の森を彷徨っている。
そろそろお腹が空いてきた。なにせ、丸一日は食べ物を口にしていないのだ。口にしたのは川の水だけ。衛生的には最悪かもしれないが、比較的綺麗な川を探して飲んだつもりだ。正直不味かったが、これも生きる為には仕方の無いことだ。
そんなことよりも、今は食べ物だ。
こんな事なら逃げる前に王様に食べ物でも用意して貰っておくんだった。逃げてしまった手前、もうどうすることも出来ないのだけれど。
私は、森の木々に木の実でも実っていないか注意しながら進むことにした。
(ん?あれは、、)
歩いている途中、道の真ん中に何かが落ちていた。
駆け寄ってみると、なんとそれは人だった。
(え!?人!?大変!こういう時ってどうするのが正解なの?!)
私は悩んだ末、とりあえず声を掛けてみることにした。
「あのー、大丈夫ですか?生きてますか?」
返事は無い。
よく見ると、この人は女の子の様だ。そして、腹部から血が出ている。
(血?!これって、止血した方がいいのよね?でも、どうやって?なにか使えそうな布はあったかしら)
私は持ち物をくまなく探してみた。私は何も持っていなかった。持っているとしてもパラメーターだけ。布は今着ているボロボロの服しかない。
(はぁ、使えそうな物はないか、、)
私は、いい案が思い浮かばず、パラメーターをクルクル指で回した。
そして、失敗した。
パラメーターが起動し、私のステータスが表示された。
(あれ?この神聖って、文字的にヒーラーみたいな役割のことよね?もしかしたら、つかえるかも!!)
私は、使ったこともない力を使うことにした。
(呪文とか言った方が成功率上がったりしないかしら)
私は何となくで呪文(?)を考えてみた。
女の子に手をかざしてなんとなく指先に力を込める。
「治れ!」
呪文(?)を叫んでみた。特に何も起こらなかった。
「アバダケダブラ!」
「なんとカナーレ」
「血よ!止まれ!」
「回復しろ!」
「れでぃおーさ!」
「まつたけ!」
「まいたけ!」
「ふなしめじ!」
「神様!お願いします!」
「おー、神よ。偉大なる神よ!我に力を!」
私は、幾つもの呪文(?)を唱えてみた。特に何も起こらなかった。
(あーもう!呪文ってなんなの!?私一応神聖Lv7よ?なんで出来ないのよ!)
私は段々イライラしてきていた。だから次起こることは怒りに任せた私が適当に発した言葉だった。
「痛いの痛いの飛んでけーー!!!!」
この呪文を発した瞬間、女の子の患部は光に包まれた。
(え、なにがおこっているの?もしかして、神聖の力発動した!?あれで?)
私は錯乱していた。まさかあんな言葉で発動するとは夢にも思わなかった。
女の子を再び見ると、光が消え掛かっていた。
もう一度声を掛けてみることにした。
「大丈夫ですか?生きていますか?」
「ん、」
女の子が微かに返事をした。
私はこの機会を逃すまいと、必死に声を掛けた。
「大丈夫ですか?痛いところはありませんか?腹部以外で痛むところはありませんか?」
「ん、あ、」
女の子は目を開いた。
女の子の目は淡い水色と紫色のグラデーションでとても綺麗だった。つい、魅入ってしまうほどに。
「ここは、、?」
「あ、ごめんさない。建物の中とかでは無いんです。貴方はここに倒れていたんです。」
「そうなんですね、よかった。逃げられたんだ。」
「逃げるとは?」
「そんなことはどうでもいいんです。助けて下さりありがとうございました。貴方はもしや、神聖の才能有りの方ですか?」
「まぁ、そうですね。」
「そうなんですね。本当に助けて下さりありがとうございました。是非、お礼をさせてください。」
「いや、お礼なん、、、、」
私はこの時閃いた。この子に食べ物を恵んでもらえばいいのでは、と。
「あはは、ではお言葉に甘えて。私旅の者でして、少しばかり食べ物を恵んで頂けたら嬉しいです。」
「分かりました。お任せ下さい!」
女の子は何処か森の中へ消えていった。ついて行こうとしたが、あまりにも速すぎて気がついた時には居なくなっていた。
仕方ないので私はここで女の子を待つことにした。
近くで乾いた木の枝を沢山探し、前世テレビで観たのを頼りに火を起こしてみた。
どれだけ木と木を擦り合わせても火どころか、煙すら上がらなかった。
どれだけ時間が経ったのだろうか。すっかり日は暮れ、綺麗な星々が見えてきた。
幾ら月明かりや星々の明かりがあるとは言え、夜の森は怖かった。
『ガサガサッ』
葉が揺れる音がした。
今は一切風が吹いていない。なのに、葉が揺れた。動物か、魔物か。それともあの女の子か。
私は申し訳程度に木の枝を拾い、戦闘態勢に移った。
葉の揺れが激しくなり、木々も揺れだした。
そして、次の瞬間、木々の隙間を掻い潜って猪が突進して来た。
(猪!?この世界にも存在するのね。)
絶対に今考えるところはそこでは無い。
私はできる限り猪を刺激しないよう、物音をたてずに息を潜めた。
猪が去ろうとしていたその時、私の背後から葉の揺れる音が聞こえた。この音は猪にも聞こえたらしく、猪は私の方へ進行方向を変えて向かってきた。
(あ、やばい。死ぬやつだ。)
私は死を察して、目を瞑っり衝撃をまった。
だけど、どれだけ待っても痛みも何も感じない。私は不思議に思い、ゆっくりと目を開いた。
(?)
目の前には黒い毛?黒いなにかが目の前に広がっていた。
(何これ)
試しに触ってみた。ふわふわしている。なんだか猫を触っているみたいだ。でもあまり毛並みの状態は宜しくないようだ。
「遅くなってしまい申し訳ありません。でも、沢山お肉を取ってこれましたよ!」
黒い毛が離れていき、代わりにあの女の子の姿が見えた。女の子は自分の体よりも大きな熊を右側に担ぎ、左側には先程の猪を担いでいた。
(さっき触ってたのって、もしかして熊!?)
私は驚きのあまり、自分の手を二度見した。
「さて、今すぐ火を起こしますね。木の枝、、あ、丁度いいのが沢山ありますね。少し待っていてください。」
女の子はそう言うと、慣れた手つきで火を起こした。
(私はあんなに苦労したのに、、、)
少し悔しくも思うが、人には向き不向きというものがあるのだ。私には向いていなかった、ということだろう。
「今からこのお肉達を解体するので、その間火を見ていてください。火が弱くなってきたらこの枝を追加してください。もし家事になりそうならこの水をかけて消してください。」
「分かりました。」
女の子は私に水の入った水筒を手渡した後、少し離れた所で解体を始めた。
解体中、いくら離れているとはいえ、少し血なまぐさい匂いがした。気分が悪かった。
私は気楽に焚き火で暖まりながら過ごしていると、解体し終わった女の子が肉を両手いっぱいに抱えて帰ってきた。
「では、今から焼きますね。好みの味付けとかありますか?」
「特にないよ。貴方のオススメで」
「分かりました。では、ソルトメインの味付けでいきますね。」
女の子は何処からかソルトを取り出し、肉に振り掛けた。そういえば、解体に使っていた大きな刃物は何処から取り出したのだろうか。見た感じ、あの大きさの刃物を持ち歩いているようには見えない。
「ねぇ、さっきの刃物やそのソルトは何処から取り出しているの?」
「え?それは、ここからですよ。」
女の子はパラメーターを取り出した。
「パラメーター?」
「はい。パラメーターにはいくつか機能が備わっているんです。例えば、バック機能。入れたいものをパラメーターでタッチするだけです。そして取り出したい場合は選択して『取り出す』を押すだけです。」
女の子はそう言いながらソルトを入れたり出したりを繰り返した。
「次にマップ機能です。これは、自分で埋めていく形式のものになっています。だけど、自分の好きなようにピンを指したり、メモを書いたりも出来るので便利ですよ。」
女の子は私のパラメーターでマップを開いてくれた。そこには、私の村から王都、王都から今の現在地までの1本道のような地図が表示されていた。
「貴方は寄り道をしなかったんですね。」
「そのようですね。」
「機能紹介はこのくらいにしましょう。他にも機能はありますが、残りは御自身でお確かめ下さい。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「お肉も丁度やけましたので、温かいうちにどうぞ。」
女の子に前世、漫画でみたような骨付き肉を手渡された。私はそれに噛み付いた。
「美味しい」
「それなら良かったです。」「まだまだあるので沢山食べてください。」
私達は沢山の肉を食べた。それと同時に沢山の話をした。
「そういえば、貴方の名前はなんて言うんですか?」
「名前、、、シェリーです。」
「シェリーさん。素敵な名前ですね。」
私は嘘をついた。そもそも王様に名乗った『シュガー』というのも嘘だ。
「貴方の名前は?」
「私はリズです。」
「リズさん。綺麗な名前ですね。」
「ありがとうございます!気に入っているんです」
女の子は『リズ』と名乗った。
「そう言えば、リズはどうしてこんな場所で倒れていたのですか?」
「それは、____」
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