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逃亡させて頂きます!

「そろそろ王都の敷地内じゃ。ほれ、門が見えてきた。」


魔法使い様はそう言いったが、私が目をやった時には既に門の内側に入っていた。


「驚いたか?これが瞬間移動(テレポート)というやつじゃ。」

「はい、驚きました。意外と違和感無いものですね。」


私は素直に返事をした。


「なんじゃ、反応がちと薄いな。」

「昔からよく言われます。」


私は、精一杯感情を表に出しているつもりでも、何故か「反応が薄いね。」とよく言われることがある。これは、前世から引き継いだものだ。


「まぁ、よい。そろそろ時間が無い。一気に城まで行くとするか。」


魔法使い様は、1度手を叩いた。すると、一瞬にして辺りの風景が変わった。

目の前には大きな城が佇んでいた。


「ほれ、着いたぞ。」

「あの、馬車で移動しなくても、瞬間移動(テレポート)で行けたのでは?」

「それも出来た。だが、一瞬にして城に着いてしまえば、困惑するじゃろ。」

「まぁ、そうですね。お気遣い感謝します。」


私達は馬車から降り、城の中へ進んで行った。

城内は無駄に煌びやかで、無駄に広かった。

ゴールの見えない程に長い廊下。等間隔で配置されている兵士達。

どれも、あの小さな村では見ることの出来ない風景だった。


どれくらい歩いただろうか。本当にゴールが見えてこない。代わり映えのしない廊下に、兵士達。何時しか同じところをグルグル彷徨っているのでは?と錯覚してしまう程だった。


「あの、魔法使い様。ここでも瞬間移動(テレポート)で一気に行けないのですか?」

「すまんなぁ、城内には強力な結界が張ってあるが故、魔法が使えないのじゃ。だが、あともう少しの辛抱じゃ。ほれ、兵士達の装いも変わってきたじゃろ?」


言われてみればそうだ。段々兵士達の鎧が豪華になっている。あと少しの辛抱。もしかしてだけど、帰りもこの道を通って行くのだろうか?そう思うと気が遠くなってきた。今すぐにでも我が家の布団に潜り込んで寝たい。


「そこの兵士よ。儂はこういうものじゃ。才能有りを連れてきた。是非陛下に謁見させて頂きたい。」


魔法使い様は、謎の札を兵士達に見せた。すると、兵士達は慌てて大きな扉を開いた。

魔法使い様はなんの躊躇もなく、扉の向こうへ歩いていった。私も置いて行かれぬよう、後を追った。


「陛下にご挨拶申し上げます。この度、初のLv10の才能有りをつれて参りました。」

「ほぉ。Lv10とな。パラメーターを見せてみよ。」


次の瞬間、私の懐から突如としてパラメーターが王様の元へ飛んで行った。これも魔法の1種だろうか。


「おぉ!これは素晴らしい。剣がLv10とな。それだけではなく、盾や神聖にも長けているとは。この国初、いや、この世界初の快挙だ!」


王様は、まじまじと私のパラメーターを見た後満足したのか、パラメーターを返してくれた。


「このパラメーターだと仕事は何がいいか。神殿勤務もありだが、城内警備も捨て難い。」


王様は早速私の働き口に着いて考えていた。


「あの、すいません。」

「なんだ?」

「無礼を承知で聞きます。もし私が働くとなれば、休みは週に何日程でしょうか?目安で構いませんので教えたください。」


私は、勇気をだして、王様に聞いてみた。すると、王様は一瞬固まった後、大きな口を開けて笑いだした。


「なにを言うのかと思えば、休みだと?休みなど才能無しのものが自堕落に生活する為の言い訳ではないか。」

「いいか?働く事こそ正義!絶対!働かぬ者には価値など無いのだ。」


今度は私が固まる番だった。これ程までにブラックな会社、いや国はここ以外に存在しないだろう、とまで思えた。労働基準法は一切存在しないらしい。

そして、私は決意した。

ここから逃亡しよう、と。


「それよりも、お主名をなんと申す。」

「名前、名前はシュガーです。」


私は名前を名乗った瞬間、回れ右をして扉から逃げ出した。後ろからは魔法使い様や王様の叫び声が聞こえる。

扉の外には長い長い廊下に、大量の兵士達。私は全力で走った。時には体当たりをして逃げた。逃げて逃げて、逃げた。


なんとか、城から抜け出した時には私はヘロヘロだった。でも、ここで止まる訳には行かない。ここはまだ王都内。いつ見つかってもおかしくない。

1度、門の付近まで行ってみたが、ダメだった。既に兵士達が守りを固めていた。私は、門から出るのを諦め、他の脱出経路を探した。だが、どこに行っても兵士、兵士、兵士だらけ。


「あ、あの!待ってください!私、脱出経路知ってます!」

「え、」


一瞬、兵士かと思い、逃げそうになったが後の言葉を聞いて立ち止まった。


「脱出経路知っているんですか?」

「はい!」


私は、しっかりと相手の顔を見て聞いた。彼女の持ち物的に弓の才能の持ち主だろう。この距離なら、罠でもなんとかなりそうだ。


「脱出経路はどこにあって、どこに繋がっているんですか?」

「私の家にあって、正門の後ろ側に繋がっています。着いてきてください。」


私は、言われるがままついて行った。彼女の家は、城の後ろ側に有り、城に阻害されて日光が当たらない暗い場所だった。この世界には日照権も存在しないらしい。

彼女は、そそくさと家の中に入り、樽を動かした。樽の下には平均的な体型の成人女性が入れる程の穴が空いていた。


「この穴から脱出出来ます。もし不安なら私が先に行きます。」

「それなら、先にお願いします。ですが、なぜこのような穴を?」


まるで、刑務所から脱獄する為に掘った穴のように感じられた。


「私、限界なんです。日々休まず働いても貰えるのは毎月5コインだけ。ようやく家に帰れると思っても、待っているのは暗く冷たい家。こんな生活もう耐えられません。なので、体調不良と嘘をついて穴を掘っていたんです。」

「そうなんですね、」


5コイン、それはパンが2つ買えるか買えないか分からない様な価値しかない。

よく見れば、彼女の目の下には大きなクマがあり、全体的に痩せ細っていて今にも折れてしまいそうだった。髪も肌もボロボロで、髪は一部禿げてしまっていた。きっとストレスだろう。


「そろそろ私行きますね。見つかればどうなるか分からないので。」

「はい、お気を付けて。」


彼女は行ってしまった。私は少し待ってから穴に入った。

穴の中は当然だが真っ暗で、いつ上から土が落ちてきてもおかしくない状態だった。


なんとか穴をくぐり抜け、地上に這い上がることが出来た。

地上では、彼女が心配そうに私が来るのを待っていた。


「大丈夫でしたか?」

「はい。大丈夫でしたよ。無事脱出出来ましたね。」

「貴方はこれからどうするのですか?私は、これから旅人に扮して近くの村を転々とする予定です。」


そう言えば、こらからどうしようか。後先のことなど考えずに、飛び出してきてしまった。

きっと、元の村には帰れない。

私も彼女のように村を転々としようか。


「そうですね。私も貴方のように村を転々としようと思います。」

「そうなんですね。それなら、一緒に来ませんか?」

「いえ、これ以上迷惑をおかけする訳にはいかないので、大丈夫です。」

「そうですか、では、私は追っ手が来る前にそろそろ行こうと思います。旅の途中、また会ったらよろしくお願いします。」

「はい。お気を付けて。」


私達はここで別れた。短い間だったが、彼女の優しさが伝わってきた。

彼女は西側へ行った。私はこのまま真っ直ぐ北へ進むことにした。

閲覧ありがとうございました

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