第1話 追放は突然に
まだ夢から醒めきってもないのに、俺は二階の自室から飛び出して、階段を駆け降りていた。小説が好きだったから、このあとどうなるのかの見当は大体ついていた。追放されるのだろう。
「アレン! 今すぐきなさい!」
駆け降りた先には、顔を真っ赤にして、憤慨している父・ユーゼンフォール侯爵の顔があった。お父んは俺の顔を見ると、座っていたローテ革の、回転椅子から立った。確かこれを買うのに200ポコロド(1)だったはずだ。
「お前はな、追放だ!!」
追放だとわかっていても、耳を塞ぎたくなった。
椅子は、庶民が買いそうな、高級ぶったただの商品だった。実際ローテ革だって名ばかりで、牛肉にランク付けされているのと一緒だ。オチコボレ侯爵の赤字財政は、有名無実という言葉が似合いすぎているぐらいだし、ローテ革だってC級グルメである。
さて。なんで俺がこんなに日本特有の言葉をペラペラ喋っているのかというと、さっき追放されるだろうと勘づいた時、俺の脳内から前世の記憶がどばーっと溢れ出してきたわけだ。
つまり俺は転生者だった、とこういうわけだ。
「さてー!!! そうと決まればやることはひとうつ!」
荷物を一つのカバンにまとめられるほどに三男である俺の全財産は少なかったので、支度を整えるのにそんなに時間はかからなかった。
ドアを開けた瞬間に、開放感が吹きつけてきた。
孤独さは感じず、俺は、ボーイをキッと睨み、高級そうなカーペットを土足で踏みつけながら、外へ出た。
楽しそうな異世界。外に出るのは、十二年ぶり。で、たった今、アレン十七歳の冒険が始まった。
(1)ポコロド 異世界での通貨単位。10ポコロドで水が買えるところからして、1ポコロド12円程度と思われる。
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