表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

短編集

空目

作者: 豆苗4

 私は時々「空目」する。「空目」とは空耳の耳を目に適用した言葉である。普段見えていたはずのものが脱落し、見えなかったであろうものが見えるようになるのだ。何も目だけに限ったことではない。強いて言うならば「空目」というのが一番近しい。私からいったい何が抜け出ているのだろうか。いや、こんな風ではなかった。私を伝って、通じて何かが通り抜けたのだ。きっと妖精のいたずらに違いない。それとも、小人かもしれないが。とにかく、「空目」の内容がとか構造がとかをうんたらかんたらと言いたいのではない。私はそれに「空目」と名前を付けざるを得なかったということだ。このような表現でしか表すことのできないもの。用心せよ。愚かな鹿を追い落とす狩人のようになってはならない。ある秋の夕暮にばったりと出会うのだ。ひらひらと舞い落ちる赤い葉の軌跡を追っているうちに。

 ベクトルの構成要素にばかり注視してはならない。もちろん始点と終点をじっくり眺めることも必要だが、くれぐれもそれが企図するものをそぎ落としてはならない。木を見て森を見ず。誰がが何かを指さしているのにもかかわらず、ある人は指さしている先を見るのではなく、指先をじっと見ていた。ずれているが故に面白くも虚しい。この場合はほんのちょぴりだけ。ではそれが複素平面上であったならば、球面上であったならば、何も指していないあるいは何かを指しているように「見えた」のならば、どうすればいいのだろうか。そうしたら一息入れて、耳を澄ましなさい。山でさえずる小鳥の鳴き声が、神社の麓を流れる小川のせせらぎが、すぐ脇のけたたましい車のクラクションが、太平洋に浮かぶ積乱雲の雷鳴が、それを教えてくれるでしょう。どこかでシチューのいい香りがする。きっと今日はおでんの日に違いない。晩ご飯が冷める前にはやく家に帰らなくちゃ。ハヤクイエニカエラナクチャ。イエニ、カエラナクチャ。結局のところマンモスにお願いするしかないのだ。五臓六腑に染み渡るあの血を浴びるように飲まなくちゃならない。そうでなくちゃ、我々は前後不覚で三日三晩洞窟の中で神聖なる火を囲んで踊り回るしかないのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ