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たかが世界の終わり  作者: 森大洋
森のなか
85/99

1 じわり、

目を閉じ上を向き、ミレは息を吐いた。

数日前と比べ、体調はだいぶ整っている。集中力を要する能力の実験を、自分のペースでできることは有り難かった。とはいえ、まだ果たして自分が何かの役に立てるかどうか、この時間に意味があるのかどうかは分からない。セイシアという自分を助けてくれた女性に会ってから、ただでさえ慌ただしかった周囲の速度が加速したように思う。しかし何故か、ミレはその流れから外れている気がする。一体何が起きているのだろう。

かちゃり、と扉が開きタグリットが入ってきた。

「あ、お疲れ様です」

「お疲れ様です」

「皆さんは…まだお忙しいんですね」

ここは第3研究所のシャイネの実験室だ。最近主不在の時間が増え、仮住まいのミレとタグリットが図らずも占拠しているような形となってしまっている。

「うん、なんだか大変そう」

「研究所合同の調査があるんですもんね」

詳しくは分からないが、先日ゼンから簡単に説明された。その準備の為、少々忙しくなります。その間お二人には無理のない範囲で実験を続けていただけたらと思っております、と。

「らしいですね」

そう答え、ミレはふと質問を投げた。

「ここが第3で、ワイザードさんが術式専門の第1。第2は遺物に特化した研究所でしたよね。所長ってどんな方なんですか?」

タグリットは眼鏡を押さえながら首を傾げた。

「俺もお会いしたことなくて…。ただこの間ワイザードさんがすごく渋い顔をしていたから、厳しい方なのかもしれません」

「ああ、ワイザートさん堅苦しいの駄目そうですもんね」

ふふ、と小さくミレは笑った。タグリットもへにゃりと笑い返す。

「まあでも、切れ者なのは間違いないでしょうね」

俺も頑張ります、と自らを鼓舞してタグリットも座った。持ち込んだ鉢植えの植物と書物を机の上に置く。

「言語化?」

「そうです。相変わらず感覚でしかないから、言語化して型化ができたら、他の方でも使用できるのかを調べたくて」

そか、頑張ろうね。そう言葉をくれたミレに、はい、と返事をしてタグリットは前を向く。

最近ずっと心に引っかかっていることがある。

力の大きさに竦んでしまうことは以前もあったが、ミレに会って体の奥底にじわりと苦いものが滲んでいるのに気付いていた。

ミレは、無意識とはいえ自分で自分の力に辿り着いている。

しかし自分は、父がやっていたという動作を真似ることで、力に行き着いた。

俺は何も生み出していない。選ばれた訳でもない、ただ猿真似をしているに過ぎない。

この能力は、自分が使用していいのだろうか。

顔も知らない父はどうやってこの力を知り、会得したのだろう。

まるで罪滅しのように、タグリットは本を捲る。答えがその先にあることを願って。




***************




「しっかし…」

スゥハの執務室にて机に腰掛け、ルクスが呟いた。手には書類を持っている。

「色々あって改めてこれを見ると、解釈がちょっと変わってきそうですね」

「ああ、全くだ」

スゥハも苦々しく答えた。

ルクスの手の中にあるものは、研究所合同調査に向け準備や情報共有が進められる中、先程第2研究所から提出された最新の遺物一覧である。

「天才と奇人は紙一重って言いますけど、ペペロイカさんやばいですね」

「だな」

スゥハは溜息と共に、ルクスから戻された書類に目をやった。

それには遺物の名称、形状、効果が簡潔に記されていた。一枚目はこうである。


**以下 no 名称 形状 効果 を記載**

**不明項目は空欄とする**

1:目/檻に入った目玉/番。一方で見たものをもう一方に映す。定期的に結ばせる必要有

2:扉/円状になっている紐/番。一方の円内に落としたものがもう一方から出てくる

3:透ける/小瓶に入った液体/液体を目に垂らし乾くまでの時間、箱などの中身が見える

4:暖かい/毛玉/暖かい

5:祝杯/金色の杯/泡を吹き続ける。杯を伏せると止まる

6:不許可/一部が抉れた鉱物/抉れた部分の正面にいるものを硬直させる

7:集会/発光する小球体/これで囲った範囲に声が届く

8:跳躍茸/茸の傘/踏むと跳躍する

9:帷/黒い膜/包んだものを眠らせる

10:巡る/穴の空いた鉱物/穴から吹く風に当てると少しだけ成長が早まる

11:咲く水/葉から溢れる水滴/水滴を垂らすと花が咲く

12:躍る/丸薬状の木の根/口に含み、解けるまでの間触れた対象を操れる※使用不可

13:選択/香りのある砂/振りかけた方を選ばせる

14:見て/音の出ない鈴/意識をこちらに向かせる

15:大丈夫/回る球体/特定のことを考えられなくする

16:下げる/薄い鉱物/体温を下げる

17:繋ぐ糸/繭から伸びる糸/繋げると接着される

18:一時の嘘/手袋のような形/それで触れたものが短時間だがもう一つ現れる※使用不可

19:照らす/花粉/それをつけた指で円を作り覗き込んだものが光る

20:泡沫/白い膜/包んだものを消す※使用不可

21:おいで/赤い石/翳したものを引き寄せる

22:押し付ける/棒状/不要なものを対象に移動させる※使用不可

**次頁に続く**



命名権は解明者に与えられるため、多少の毛色の違いがある。暗黙の了解で名は体を表す、を共通理念としてはいるが浪漫派がいることも屡々だ。それはまあ、いい。

遺物は遺物と宣言しているわけでも、取扱説明書が表示されているわけでもない。つまりは「遺物かもしれない」とされているものは多かれど、効果や発動条件が特定されているものはさほど多くないのだ。

しかし第2研究所所長のペペロイカは『躍る』を始め、解明に数回成功している。そしてその幾つかが危険視され使用不可とされた。

そう。

空の世界を知った後だと、遺物の存在自体が薄寒いものに思えてくる。

これらは、一体なんなのだろう。

セイシアは白い子どもは調整をしているかもしれない、と言った。遺物もそれを目的としているのだろうか。多くの遺物が対象を操作する効果に見え、スゥハは背筋が冷たくなった。

「ワイザードのおっさんがまだ準備にちょっとかかるって言ってましたけど…。ヨルシカ殿下はどうなさるんでしょう?」

「そうだな、あれから落ち合えていなくて。…大丈夫だろうか」

「何か?」

「いや、この間少々思い詰めているように見えたんだ」

「そうですか…。何処かで食事でもご一緒したいところですね」

「だな」

スゥハは考える。自分は隣にルクスがいるということが支えとなっている。だが、ヨルシカはどうだろう?弱さを見せられる存在はいるのだろうか?

人に好かれ、決して孤独ではない筈のヨルシカが心の奥底で何を思っているのか。

もし、自分にも荷を分けてくれるのなら喜んで支えるのに。

巫山戯合った時間はあれど、内面を打ち明け合ったことは殆ど無いことに今更ながら気付き、スゥハは唇を噛んだ。





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