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たかが世界の終わり  作者: 森大洋
紐を解く
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7 鎮魂歌

「確か鳥の姿のセイシアさんに声をかけた、ですよね」

「はい。サリュウは力を持っていました」

「力、ですか」

「この島は空の影響が強いので、時折力を持った人間が現れます。ミレさんのように」

スゥハは頷いた。恐らく、タグリットも該当するのだろう。タグリットとミレは従来の術式とは異なる力だ。まさかそれが空の影響だったとは。

タグリットは父の真似をしている、と言っていた。能力は遺伝もするのだろうか。

「サリュウはこの島の人間ではありません。ごく稀に、空から何かを受け取ってしまう人がいるようです。サリュウはとても強く、影響を受けた人間でした」

「空と近しい人間だったから、依代に選ばれたと?」

「はい。加えて、サリュウは世界樹が白い子どもだと気付いていました」

スゥハは言葉に詰まってしまった。しかし、セイシアに気付くなら世界樹になっている白い子どもに気が付いても、何ら不思議はない。

「サリュウはよく貴方と共に、世界樹を訪れていました」

セイシアはヨルシカを見て言った。

「…覚えていない」

ヨルシカの返答にセイシアは小さく頷き、言葉を続ける。

「保養と言っていました。空に一番近い場所なので、幾分効果があったのかもしれません」

ヨルシカは以前シャイネから語られた内容を思い返していた。ヨルシカを宿し、出産した際にサリュウは子宮を痛めていた筈。その保養かもしれない。

「サリュウは樹の根元に座り、唄っていました。そういったことも、依代に選ばれた理由かもしれません」

スゥハはそっと目を伏せた。

我が子と共に唄う母の姿は、孤独な幼な子には理想の絵に見えたことだろう。自身は恵まれなかったものを、スゥハには与えようとしたのか。

歪な幼い慈愛が、痛々しい。

そしてサリュウが世界樹が白い子どもと知っていながら度々そこを訪れたのは、鎮魂という慈愛からだったのではないだろうか。それが、依代に選ばれるきっかけとなってしまうとは予想出来ずに。

「…サリュウ王妃の力とは、どういったものだったのですか?」

流れのまま問うたスゥハだったが、ここで初めて明確にセイシアの動きが止まった。眼球が微かに揺れている。思考を深めているのだろうか。

「…分かりません」

小さくセイシアは答えた。本当に分からないのか、説明が出来ないということか、判然としない。しかしスゥハはそうですか、と答えた。

一瞬部屋の中はしんと静まり返った。その間を狙ったかのように、ミハクが口を開く。

「長い時間経ってしまいました。余りに長時間は、不自然となってしまうかもしれません」

確かに、耳を澄ましているという白い子どものこともよく分かっていない。

スゥハの境遇を改良しようとしていた白い子ども。

これだけを考えるなら、耳を澄ましていることもその為と捉えることが出来る。しかし、恐らくバクザはそう考えていない。警戒しているように感じる。この部屋での会話が秘密裏のものだとしたら、これ以上は危険となる恐れが、ないとは言い切れない。

白い子どもは、スゥハたちにとってどのような位置付けとなるのだろう。

「そうだな。ここで捨て身になるのは阿呆かもな」

ワイザードが賛成をした。しかし横に座るシャイネがす、と手を伸ばした。

「一個だけ。セイシアさんは下の世界のこと、どのくらい知ってますか?」

予想外の角度の質問だったのだろう。暫し逡巡したセイシアは、軽く頭を振った。

「…空から溢れた世界、としか」

「そっすか」

シャイネはこくりと頷き、それで収めた。




***************




静かな夜。

さわさわと草が、葉が音をたてる。

厳かに聳え立つ世界樹は吹かれるまま、風にその身を委ねているようだ。

廻りには幾つかの目が置かれている。

目は音を拾わない。

風の隙間から、唄が聴こえる。

聴くものの姿など何処にもないというのに。

唄声は微かに微かに、響いている。

目は音を拾わない。


唄はまだ、続いている。



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