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たかが世界の終わり  作者: 森大洋
紐を解く
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6 幼気な歪み

スゥハはセイシアを改めて見つめた。

彼女は分からないと答えたが、何故セイシアの姿を度々纏ったのか、何となく分かる気がする。しかしそれは他人が土足で踏み入り、名前を付けてよいものではない。

「少し、休みますか?」

スゥハは尋ねた。セイシアは恐らく自身の心情を読み解くことに長けていない。人ではないのだから当然かもしれず、負担が大きい可能性もある。

敵ではない筈のセイシアという存在を、無碍に扱いたくはなかった。

「いえ、構いません」

セイシアは変わらず平坦に回答した。では、とスゥハは口を開いた。

「白い子どもは樹から生まれた。ならば、何故私は人の肚から生まれたのでしょう?」

「そう、選んだからでしょう」

「選ぶ?誰が?」

「恐らく白い子どもが」

噛み砕こうと言葉を止めたスゥハに、セイシアは色を変えること無く告げた。

「白い子どもは、今も生きています」

「…え?」

「あの方は浄化の中心として樹に力を注ぎました。根はこの地を走り、網羅しています。そして汚染が進行した時、朽ちるその樹を受け、白い子どもは擬態しました。今も白い子どもはこの地に根付いています」

セイシアはふと足元に視線を下ろした。

「ずっと、耳を澄ましているのです」

瞬間、ヨルシカは戦慄した。

あの日。バクザを問い詰めようとした、あの時の合図。


―き か れ て い る。


あれは、白い子どもを示していた?白い子どもに気付かれぬよう、バクザは何かを狙っているのか?少なくともバクザと白い子どもは、同じ世界を描いていない。

たらり、と背中を汗が伝う。

同時に部屋にいる者たちは理解した。何故この部屋が、内からだけでなく外からの干渉も無効となる結界が張られているのかを。白い子どもを拒絶していたのだ。そして、この結界を張るに納得のいく状況となるまで、敢えて何も動かなかった。ここはバクザから無言で提供された場だったのだ。恐らく、カザンを閉じ込めている結界も同様の理由だろう。罪人を閉じ込めることに不思議はない。違和感のない状況を利用しているのか?

バクザの思惑はまた別の問題だ。スゥハは頭を切り替え、セイシアへの質問を再開した。

「白い子どもは、何故私が人から生まれることを選んだのでしょう?」

「恐らく、改良したのかと」

「改良?」

はい、とセイシアは頷く。

「白い子どもは自身の役割のみ、理解していました。しかし浄化は自身の意志とは違う、強制される形で行わざるを得なかった。次はそうならないよう、改良したのだと思います」

「ちょっと待ってくれ」

ワイザードが頭を振りながら、小さく手を挙げた。

「割り込んですまない。だが…、そんなことが、可能なのか?」

「はい。白い子どもはあの方が創られた廻りの中心ですから」

「…白い子どもは200年前、強引に捧げられる形で浄化を発動した。今回はそうならないように、人から生まれるようにした、と?」

スゥハの確認に、セイシアは簡潔に「はい」と頷いた。

自身が人と違うために畏怖や嫌悪の対象となってしまったのなら、人と同じように誕生すればそうならないのでは、と考えたということか?

―何だ、それは。

狂っていると感じる程に、短絡的だ。サリュウはおよそ一月でスゥハを産んだという。そのような異常事態、恐怖の対象にならない筈がないというのに。

「…そうか」

ルクスがぽつりと声を零した。

「…子ども、なんだ」

スゥハはその言葉にはっとすると同時に、身体の芯を握り潰されるような気持ちに襲われた。

そうだ。どうして気が付かなかったのだろう。

オーマが細かい機微を理解出来ないように、セイシアが己の感情を精査出来ないように、白い子どももまた、分からないのだ。

どうして自分が汚されたのか。セイシアが殺されたのか。

そして考えたのだ、幼い子どもが血と泥に塗れながら。

どうすれば自分たちが損なわれること無く、役割を全う出来るかを。

この不気味に積み重ねられた塔は、幼な子が手元にある土で必死に補強し凌ごうとした、成れの果てだったのかもしれない。

そして、役割を閉ざされて生まれた自分だから、外から見つめられるのだ。その悲しい歪さを。

檻の子。

本来なら自分は塔の中、檻の中に身を置き、外を知ることがなかったのだろう。どうしてサリュウが自分の使命を閉じたのか、初めて繋がった気がした。

「何故、サリュウだったのでしょう」

「一つは王族だったから、かもしれません」

セイシアが答える。

国で一番強い王様なら、きっと守ってくれる。

まるで頭に王冠を載せた、落書きのような王族。

子どもが見つけた純粋すぎるその答えは、現実に容易に吹き飛ばされていく。

「もう一つは?」

スゥハが促す。

「もう一つは、サリュウが特別だったから、だと思います」




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