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たかが世界の終わり  作者: 森大洋
紐を解く
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4 廻り続ける道

「そっすねー、時系列でいきましょうか」

シャイネは腕組みをしながら言った。普段と変わらないその日常の声色に、ゼンは狭まってしまいそうだった自分の視界が広がる感覚になった。

「先ずセイシアさん、貴方は何ですか?」

セイシアはほんの僅かに首を傾げ、答えた。

「先程申し上げた通り、空の世界の住人です」

「空の世界の、どのような?」

間髪を入れずシャイネが質問を重ねた。明確な質問は、時に答えを制限する。はいかいいえの2択から獲られるものなど、都合よく切り取られた答えにしかならない。敢えて質問を広く陣取り、狭めていく過程すら観察する。

容赦ないな、俺の上司。

ゼンはしかしそんなシャイネが堪らなく頼もしく、誇らしかった。

「どのような…?」

「地位がありますよね?」

セイシアはふと黙った。

「絵に描かれたあの白い少女を、『あの方』と呼びましたよね。それはどういう意味っすか?セイシアさんより高位な存在なのかなって受け取ったんすけど」

シャイネは一拍置き、強くセイシアを覗き込む。

「貴方は白い少女と、どのような関係ですか?」

「…確かに、等しい関係ではございません。私は決められたことを行うのみです」

「決められたこと。例えば、白い少女がこうと決めたことを行う、ということっすか?」

「そうですね」

「この地を浄化しよう、というのも?」

「はい」

「何で、白い少女は浄化しようと思ったんです?」

「汚れていたので」

「そうっすかねえ?ぶっちゃけ、臭いものには蓋を、ってんでこの世界を創ったんですよね。この世界が多少どうなろうと、構いやしないってのが正直なところなんじゃないかなあって思うんすけど。だってそもそも、助けに来た訳じゃなくて偶然崩落しちゃっただけですよね?」

セイシアは静かにシャイネを見つめている。その様子からは、思考を深めているのか停止しているのか、把握することは出来ない。しかしシャイネは構わず続ける。

「あの竜は?」

ぴくりとセイシアの指が動いた。シャイネはそれを視野に入れる。

「孤児院の絵には白い少女と白い竜が描かれていました。あの竜も、空の存在ってことですよね」

「…はい」

「そしてさっき、200年前の白い子どもは世界樹自体になっている、と言った。でも白い少女は一本の樹を中心に浄化した、っすよね?つまり、白い少女は樹になった訳では無い。では彼女はどうしたのか?」

セイシアの表情は変わらない。

しかしスゥハにはそれがとても痛かった。

「素直に想像するなら、空に戻ったんでしょうね。竜の背にでも乗って、でしょうか」

シャイネの口調は変わらない。気遣いという上澄みの柔らかさは不要だと判断しているのだろう。時に、丸めた切先の方が傷口が複雑になる。尤もセイシアがそれを痛みとして認識するかどうかは分からない。だが、部屋にひとり閉じ込められていたセイシアの、ふとした時に垣間見えた迷子のような目。それがスゥハの瞼の裏にちらついている。

「でも、貴方は空に戻れなかった」

シャイネは真っ直ぐにセイシアを見つめ続けた。

「置いていかれたんですね」

セイシアは数度、時間をかけて瞬きをした。そして変わらず波立たせることなく、言葉を連ねる。

「少し、違います。崩落した時、私は形のないものでしたから」

「形のない?」

「はい。空の土のような存在でした。ただ、空の世界を形成する一部でしかなかった。ですから共に連れ帰る、という存在ではなかったのでしょう」

「…そうですか」

「あの方のお考えは分かりません。ただ、暫くこの地に留まっていた間、島に人はおりました。彼等はあの方々を神と崇めていたので、そういったことも浄化した理由かもしれません」

確かに、空から墜ちてきた異質な容姿の少女と竜は、神として認識されてもおかしくはない。あの豊穣の絵の下に描かれていた場面は、目の前に墜ちてきた天界人を描いたのだろう。

「あの方は浄化の廻りを作りました。汚染が進行したら白い子どもが生まれ浄化し、再び汚染が進行したらまた新たな白い子どもが生まれ…という。永続的にこの世界が蓋として機能し続けるように」

ルクスはその表現に苛立ちを覚えた。機能。そう、まさに無機質なのだ。その廻りとやらに生まれながらに押し込められた存在は、どう抗えばいいのか?抗う、という選択自体が赦されない、問答無用の道を延々と廻り続けるしかないのか?

ふむ、と頷いたシャイネは「では」と続けた。

「貴方は何故セイシアとなっているのですか?」



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