表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
たかが世界の終わり  作者: 森大洋
紐を解く
73/99

3 白い子ども

「続けてよろしいですか」

部屋の中は静まり返っていた。

続けて良いも悪いも、情報の咀嚼が済んでいない。しかし幸いにもここで喚くような愚者はおらず、皆混乱するには早すぎるということを理解していた。まだ、整理する段階ではない。

ヨルシカは溜息と名付けるには細すぎる息を吐き、答えた。

「…構わない。続けてくれ」

セイシアはゆっくりと瞬きをし、口を開いた。

「あの方、墜ちた白い少女は汚れたこの地を見、浄化することにしました。しかしそれは永続ではありません。再び汚染された際あの方に代わり浄化をする役目を担うのが、白い子どもと呼ばれる存在」

ここでセイシアは言葉を切り、スゥハを見つめた。

「貴方です」

スゥハは視線を逸らさない。

隣に座るルクスは自分の体内にじわり、と違和感が広がっていくのを感じた。何度も何度も脳内を過った、スゥハを絡め取るなにか。

―檻の子。

理解不能なほどの巨大なものに遭遇すると、覆われた目の前の姿が全てだと勘違いをしてしまう。違う。情報に飲み込まれるな。可能な限り、全貌を求めろ。

「浄化とは、具体的には何を?」

スゥハはセイシアに問いを投げた。

「その存在をこの地に捧げます」

ぴくり、とゼンが体を震わせた。しかし言葉を発するのは耐えている。

「そりゃ、生贄ってことか?」

ワイザードが聞く。これまで誰も口にしてはいないが、スゥハの存在はどうしてもそこに行き着くことを想像してしまうのだ。こちらの心情とは無関係にセイシアは返答する。

「いえ、共に、という形です」

「共に?」

シャイネが問いを重ねる。

「貴方がたが世界樹と呼ぶあの樹、あれは白い子どもです」

「は…」

ワイザードの口から思わず零れた音以外、再び部屋の中は静寂に塗り潰されてしまった。

世界樹は何かが擬態しているもの、ということは突き止めている。だが何が、何のためにその姿になっているのかは不明だった。白い子どもが擬態しているなら、そしてスゥハが白い子どもなら、いずれあのような姿になる運命ということか?

巫山戯るな。

ルクスは肚の底から怒りが沸き立つのを息を吐くことで抑えつける。

…巫山戯るな。

「あの方は一本の樹を中心として、この地を浄化しました。しかし魔獣は絶えず空を求めます。再度汚染が進行したおよそ200年前、新たに生まれ落ちた白い子どもがあの方のやり方をなぞり、浄化したのです。自らを樹に変えて」

「つまり…」

スゥハが口を開いた。

「つまり、本来なら私はその役目を最初から認識していて、この世界の汚染を留めるためにいずれ世界樹となり浄化するはずだった、ということですか?」

「はい」

「記憶を閉ざされていたからそれが出来ず、汚染は進行している…?」

「はい」

ならば、何故?何のためにサリュウはスゥハの役割を閉ざした?結局、この世界を浄化するためにスゥハが身を捧げるしかないのだとしたら、ただ無意味な遠回りでしかなかったのではないだろうか。

同情?

自らの子でもない、人ですらない存在にそのような感情をかけるか?それも、世界の安寧と天秤にかけて?

「成程」

シャイネがふんふんと頷いた。

「大筋の大筋は分かったっす。でも、この筋はただの結果です。ここに至るまで、どのような選択肢があって何故こちらに進んだのか、それを理解しましょう。そうすれば、完成した絵は全く違ったものになっているかもしれない」

ぐにょん、とシャイネは頭を後ろに傾け、ゼンを見て笑った。

「閉まっている扉は全部、開けなくちゃね」

ゼンはハッとし、思わず背筋を伸ばした。

本当に、この人は…。

くんと頭を前に戻したシャイネの後ろ姿をゼンは見つめ、そして彼女と同じ方向に目をやった。

「質問、いいっすか」

難問に挑むようなシャイネの視線を、セイシアはゆっくりと目を細めることで了承の意を表した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ