2 無邪気な工夫
「シャイネちゃんなにいってるかよくわかんない」
この台詞、耳にするのは果たして何回目であろうか。
少女シャイネはふむ、と考える。
自分はどうやら同世代とずれているようだ。それに対して、焦りも優越感も特に感じない。
気の合う友人はいないけれど、噛み合わない会話を続ける位なら本を読んでいたいので、寂しいとは思わなかった。
今日は空気が冷たい。風は北西、雲の形が季節の移ろいを告げている。
シャイネは小さな体全身を使い、元気よく歩く。
世界はこんなにも謎と不思議に溢れている。
何故、皆気にならないのだろう?
女の子が早口で話す、格好良い男の子、お洒落な服、甘いお菓子たち。正直シャイネには全てどうでもいいことだった。
ただ、気にしないだけで人の機微に疎い訳では無い。たまに話していて相手が不快そうな表情になることに気付いていた。そしてそれは相手が大人の場合が大半だった。
理由としては、大概シャイネの言っていることが理解出来ず、子どもの方が優秀であることを認められない大人げない苛立ちからだった。別にシャイネにとっては普通に話しているだけで論破が目的ではないため、黙る大人に対し追い打ちをかけることはしない。しかし颯爽と去っていく彼女の姿が、余計に彼等を惨めにさせていた。
この問題は、どう解決していくのが良いのだろう。
少女シャイネは考える。
正しいことを言われても、時に人は激昂する。とは言え、論点や結論を緩めることなど論外だ。ならば工夫の為所は言い方、だろうか?
声色、速さ、間の取り方…。
んー、とシャイネは空を仰ぐ。
なんだかそれも面倒だなあ。別にこのままでもいいか。
よし、と再び前を向いた時、数人の少年達が視界に入った。
「まじでお前すげーじゃん」
「っす。あざます」
「この調子で明日も頼むぜ」
「了解っす」
へこへこと去っていくひとりの少年。残る幾人かが笑い出す。
「チョロ。かわいーねー」
「犬みてーな奴だな」
おおよしよし!1人が隣の少年の腹を撫でるふりをし、彼等は爆笑していた。
その様子をシャイネは横目に、ずんずんと帰り道を進んでいった。
家の近くまで来た時に、甲高い笑い声がシャイネの耳に届いた。
何事かと目を向けると、小さな少年少女が屈んで興奮している。どうやら犬を撫でているようだった。
「えー可愛いー!!」
「尻尾ぶんぶんしてるー!」
「ふわふわー!」
犬は警戒心無く腹を出して寝転がっている。
犬みてーな奴。
可愛いー!!
―成程ね。
「天啓」
少女シャイネは満足気に呟いた。
翌日から、シャイネの口調に「そっすね」などの軽薄なものが混ざり始めた。両親はどうしたことかと思ったが、本人が意気揚々と話しているのでまあいいか、と放置することになる。
正直「犬のような話し方をすれば、他者を不快にさせることも減る説」という検証は、立証されることはなかった。そもそも犬のような話し方ではないため、前提が間違っていたのだが、天才少女はその点は特に気にしなかった。そして何となく口に馴染んでしまったこの言葉遣いが完全に消えることはなく、以後シャイネに根付くことになる。
数年後。
王宮の研究者として配属された際、「何だその口調は!」と上司から目の敵にされはしたが今更矯正するのも面倒なため、完全論破し今に至っている。
なおこの口調が出る法則は、当のシャイネですら不明であり、世話役のゼンから「完全に形骸化」と呆れられていたことは、ここだけの話である。




