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たかが世界の終わり  作者: 森大洋
青に紛れて
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9 賑やかな黎明

部屋に突入してきた男は何と言うか、全体的に濡れていた。それを気にする様子もなく、ズンズンとこちらに近付いてくる。

スゥハとルクスは目を見合わせ、お互いに首を振った。代わりにヨルシカは記憶を探るようにじっと男を見ている。

「キズィル」

男の後ろからバクザが現れた。更にバクザの横には若い男もいる。

「今お前はとても怪しい人物だ。先ずは紹介をしよう」

濡れた男は「お?」とバクザを振り返る。しかし今度はバクザの横にいた若い男が部屋に駆け込んだ。

「ワイザードさん…!!」

若い男はソファに座るワイザードの足元に跪き、潤んだ瞳で彼を見上げる。ぐったりとしていたワイザードだが、身体を起こし軽く手を上げた。

「よ。久しぶり。挨拶遅れてごめんな」

「とんでもないです。またご無理なさって…!全く貴方は相変わらず無茶苦茶だ」

「いや、おっさんは疲れが取れねんだ」

「ワイザードさんがおっさんの筈がない」

若い男は至極真面目に答えた。ワイザードはからからと笑う。

「お前こそ、相変わらずだな」

よいしょ、と腕を伸ばし、若い男の肩を抱く。

「…おかえり。無事で良かった」

若い男は一瞬ぐ、と耐えようとしたが堪えきれなかったのだろう、両目からぼろぼろと大粒の涙を零した。ふぐぅ、と不思議な音が漏れている。

カザンが白けた目でバクザを振り返った。感動の再会を何となく邪魔してはいけないと一段落つくのを待っていたバクザはその視線を受け、話し出す。

「いいだろうか」

国王のその言葉にハッとした若い男は「失礼しました」と立ち上がり、ワイザードの隣に感情ゼロの声を投げかけた。

「すみませんがずれていただいてよろしいですか」

「は?何でよ。そこら辺に座りなさいよ」

声をかけられたペペロイカはきっと睨みつけ応酬する。

「今迄お疲れ様でした。俺が戻ったので、もう結構ですよ。この場所は本来俺のものです。なんせ、ワイザードさんの右腕ですから」

「別に左に座ったっていいじゃないの」

「おや、俺は数年ぶりの再会なのですよ?これすら許さないなんて、いつの間にここまで心が狭い人になってしまったのでしょう」

「ペペロイカ」

ワイザードが割って入った。

「すまんが、こうなったらこいつは梃子でも動かない。進めよう」

「酷い…」

渋々とペペロイカは居場所を譲り、若い男はすん、とした様子でワイザードの隣に収まった。

「いいだろうか」

バクザが先程と変わらない声色で、再度確認をした。若い男は満足気に「お待たせしました」と答える。ん、と頷き、バクザと濡れた男も座る。

「まずは改めて。知っている者も多いだろうが、彼はエイラン。肩書は第1研究所の副所長だ」

ワイザードの隣に陣取った若い男、エイランは頭を下げる。

「そしてこの濡れている男はキズィル。私の古くからの友人だ」

「いやあ、どうもどうも」

頭に巻いていた布を首にかけ、キズィルは両手を掲げながら部屋の面々を見回した。

「彼等には長い間、調査に出てもらっていた。そして丁度ナキの森の後、帰国の知らせが届いてな。少し間が空いてしまうが、今日この場を設定させてもらった」

「先程帰国されたばかり、と?」

ヨルシカが濡れた男を視界に入れつつ、バクザに質問をした。ヨルシカとしては例え友人とはいえ、王たる父の前で如何にも風呂上がりの体はどうなのだ、と思っていた。バクザはそのようなヨルシカの思いを理解したのかしていないのか、彼特有の飄々とした雰囲気で返答をする。

「いや、到着したのは昨日だ。今日少し遅れてしまったのは、キズィルが汚くてな、風呂に入れていた」

「色々あったの!汚いとか言うなよひでぇなあ」

ふん、とキズィルは鼻を顰めた。よく見ると、瞼が腫れているようにも見える。しかし今、そこを追求する必要はない。

ヨルシカは大人しく「そうですか」と下がった。

「それで、何処まで話している?」

バクザの問いにシャイネが答える。

「まだ始めたばかりです。空、魔獣、この世界、これらは一直線の関係ではないのではないか?そして蓋と成るべく創られた世界は、他にもあるのではないか?というところですね」

ん、とバクザは頷いた。

「キズィル、エイランのふたりにはこの世界について数年間調査をしてもらっていた」

バクザはふたりを見る。

「長い間、本当によく耐えてくれた。そして何がどう転ぶか定かでない状態だったため、打ち明けずにいたことが多く、皆にも心労をかけた。すまなかった」

バクザは部屋の面々をひとりひとり見つめていく。これまで知っていることを語ろうとしなかったバクザ。この国の王たる存在が、口を開く。

「ようやく、材料が揃ってきた。ここからだ」



「私達の時代で、この世界の仕組みを変えてみせる」



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