第一話 転生
暗闇。
目の前にあるのは暗闇だ。吸い込まれるような、何かあるのかわからない、黒い闇。
ここはどこだ。自分は誰だ。名前は何だ。わからない。
なぜこんなところにいるんだ。今自分は立っているのか、歩いているのか、目を開けているのか、飛んでいるのか、話しているのか。
すべてが、わからない。そもそも今思考をしているのか、わからない。
「さ、こんなところかな」
音がする、いや声がした。
女、いや男?の声。
「そろそろ起きてくれないかな〜。せっかく連れてきたのにせっかくの努力が水の泡になったら困る」
「ん……」
明るい。眩しい。何か床の上に寝かされている…?
「お。目を覚ました。お〜いおはよ〜」
目を開けてみる。懐かしい気がした。
「起きてる〜?僕のことがわかる〜?」
誰かわからないが何者かが目の前で手を振っている。
「……何。」
起き上がった。
「お〜おっけ!ちゃんと起きたね。いや〜もし駄目だったら全てがパァだ」
黒い…髪の女?黒い服を着ている。嬉しそうな顔をしている。
「……全く。貴方がこんな無茶なことをするからですよ。アイデンティティどころか存在価値を奪うようなことを。」
「ごめんってば〜。さ、そろそろ意識がはっきりしてきただろう!まずは自己紹介をしよう!」
獣面の男と黒い女が楽しそうに話している。
「僕はタルタロス!こちらのしかめっ面はフェンリル!ようこそぼくの王国へ!」
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「ん〜?理解してないって顔だな〜ハロー?こんにちは?言語能力まではとってないんだけどなぁ」
「いや…わか…王国…?」
「ふむ。もっと噛み砕こう。僕はタルタロス。ここ、牢獄タルタロスの主であり、そのものである。これはフェンリル。僕の友にして補佐だ。そして君は…ん〜」
なんだ…?
「ラルス!君はラルスだ!」
「絶対貴方今適当に決めましたよね!」
獣面が吠える。
「ラル…ス…」
「そうだ。君の名だ。良い名だろう」
「はぁ…行き当たりばったりなんだから…」
「説明をしよう。まず君は罪人だ。話すと長くなるからはしょって話すが、君は罪を犯した。暴れたのさ」
「暴…れた」
「そう。まぁ色々なことを君はしでかしてしまってなんだかんだあって君は死刑になった。殺されるはずだったのさ」
「………」
「しかし君は殺されるにはあまりにももったいない。上を困らせるほどの人材だ。だから僕が引き取った」
「あ…ありが…」
「嘘はよくないですよ。タルタロス様」
「え」
「嘘とは心外だな。殺されて捨てられて放り込まれたのを僕がキャッチしたのは引き取ったことになるだろう」
「無許可で能動的でないなら違います」
「はぁ。ま、とにかく君は僕が手に入れた。とはいえ大きな声で言えるようなことではない。」
「……」
「僕は君を利用したい。ただここで暴れられたら困る。なので『教育』を行う」
タルタロスが指で音を鳴らす。
「っ!!!」
周りが眩しい。……木?
「とりあえずそこで修行をしたまえ。良い感じになったらまた僕のところにおいで」
「……全く、無茶をする。」
下は土。周りは木々。ここはおそらくどこかの森。
ラルスは状況が読み込めないまま、立ちつくした。
ガサッ
「……!!」
2話で1話みたいな感じです。